日本の産業と経済政策 ―― 過去、現在、未来

岩田先生と南部先生とのなれそめについて

 

宮川 貴重なお話をありがとうございました。お二人とも広い意味での公共政策に深く関わってこられたことがいまのお話でおわかりいただけたかと思います。次に八田先生にお話いただきたいと思います。

 

八田 八田達夫です。まずはお二人とのなれそめについて、その後で、わたしが経済学に興味をもったきっかけをお話したいと思います。

 

南部先生とは1997年に電気事業分科会で知り合いました。わたしは電気事業に関する研究は行っていなかったのですが、道路や鉄道の混雑の抑制策としての混雑料金について研究していました。電力システムの設計においても混雑抑制が重要な点だと思い、この分野に入っていくことに決め、電気事業分科会に参加したわけです。南部先生とはそれ以来のお付き合いになります。

 

大阪大学社会経済研究所にアメリカの大学から着任した直後に、稲田献一先生が「研究費が必要だろう。岩田さんに頼んであげよう」とおっしゃって、岩田先生のもとで環境に関する研究をはじめたのが、岩田先生とのなれそめです。

 

当時わたしは帰国したばかりで、東京とニューヨークの人口密度の都心からの分布が違うことに強い印象を受けていました。ニューヨークでは、人口密度も地価も都心ではものすごく高いのですが、少し離れるとストンと落ちるのです。しかし東京では都心から離れた郊外でも人口密度も地価も高いままです。この違いの原因を調べてみようと考えました。都市内の人口配置は都市の住宅環境に大きな影響を与える要因なので、環境のグループに入れてもらって良いだろうという理屈をたてて、岩田先生のもとで環境に関する研究をはじめました。

 

東京とニューヨークのこのような違いの原因として、通勤手当が思い当りました。日本の税制では、通勤手当は所得税の対象になりませんが、アメリカの場合、通勤費は自前となります。ですからアメリカでは都心に住むインセンティブがあります。中心地から離れた場所に住んでも通勤手当はありませんので、よほど大きな家に住みたい人だけが住居を構えるんです。この研究では、東京の都市モデルをつくり、通勤手当を所得税の対象とすると、東京の地価分布がニューヨーク並に変化することを示しました。

 

思い返すとわたしは理想的な経済学の教育を受けてきました。学生時代はマルクス経済学が盛んな時代であったのですが、わたしが学部2年生の時に大学で使われていた教科書はサミュエルソンでした。混雑料金について初めて知ったのもサミュエルソンの教科書によってです。次に、お二人のお話にもでてきた小宮先生がお書きになったものを読んで、日本には価格メカニズムが十分に導入されていないことを知り、これから経済学の役割は大きくなると感じました。また、当時のニューズウィークで、サミュエルソンとフリードマンが隔週で市場の役割や混雑料金など、アメリカの諸問題についてコラムを書いていたんです。このコラムでますます経済学の面白さに気がつきました。

 

その後、本四架橋の三候補地間の費用便益の比較をする建設省の理工系の人たちのチームに一年間入れてもらいました。そのなかで、わたしは計量経済学による地域経済分析をしました。アメリカの大学への入学願書では、「世界で一番大きな橋の費用便益分析を行った」のだということを大いに宣伝して、留学することができました。

 

いま考えると若いときに理論と実証を勉強したことはとてもよかったと思います。学部生のころに何に関心を持っているかが、のちのちまで影響しました。

 

 

本当に市場に任せていいのだろうか

 

宮川 ありがとうございました。

 

みなさんご存知のように、東日本大震災後、これからのエネルギーの見直しが重要な問題になっています。そこで南部先生、八田先生には、これからのエネルギー政策のあり方についてお話をいただきたいと思います。

 

また岩田先生には先ほどのお話にもありましたが、マクロ経済政策、とくにデフレ脱却策に焦点をあててご意見をお聞かせいただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

 

南部 エネルギー政策のお話をする前に、少しだけ別の話をさせてください。

 

70年代の開発銀行設備投資研究所にあった日本経済研究センターは、若いエコノミストが勉強をする場を提供してくれていました。いま思うと、とても豊かな環境でしたね。70年代にはそういう場が生まれる「ゆとり」があったんです。現在はそういう雰囲気がどうも欠けている。いま環境には問題があると思います。

 

それから、日本銀行についてわたしは金融専門ではないので違う観点からお話を少しさせてください。日本銀行は一種の官僚組織となっていて、そもそも組織としておかしいように思います。どうも官僚としてしか動いていないように見える。

 

いまの日銀は物価を上げないことを目標に動いているのではないか。日銀の役割のひとつはマネーサプライをコントロールすることです。物価を上げると減点、物価を下げると加点されるといった評価をすべき機関ではありません。フリードマン的に言えば、官僚化している日銀はもはや解体したほうがいいのではないでしょうか。

 

では宮川先生からいただいたお題であるエネルギー政策についてお話したいと思います。八田先生とはいろいろなところでお話をさせていただいていますし、この場で真正面から論争したくないので、ひとつだけ大きな食い違いについてお話します。

 

わたしは発送電の分離には反対の立場をとっています。発電を分離して電気を自由につくって売ることができるようにして、完全に競争的なマーケットをつくるべきだという主張がありますが、実際の発電市場はオフ・ピークのときだけ競争的な市場です。わたしは電力需要がピークのとき、制約が一切ない場合、発電業者は価格を上げ放題なのではないかという危惧をしているんです。これが起こらないようにするひとつの仕組みは送電会社が発電会社を合併して垂直統合することです。

 

わたしは投機に対して不信感を持っています。わたしもサミュエルソンを読みましたが、どうしても投機が効率的な資源配分を促すようには思えないのです。先ほども述べたように、経済物理の研究を見ますと、ある特定の微分方程式を使った場合、投機、あるいはバブルは起こりませんが、別の微分方程式を使うとバブルが起こってしまうんです。

 

電力の送電分離を行った場合、電力は将来市場で売買をせざるをえず、結局、金融先物市場を介して電力を売り買いすることになりますよね。本当に金融市場に任せていいのか確信が持てないのです。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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