日本の産業と経済政策 ―― 過去、現在、未来

CO2排出量削減のために必要な観点

 

宮川 どうもありがとうございます。それでは八田先生から現状のエネルギー政策についてご意見をお願いします。

 

八田 今日は、南部先生とわたしの意見が一致するところをお話したいと思っていたのですが(笑)、少しだけお話をしましょう。

 

アメリカでは発送電が一体になっていますが、ヨーロッパの多くの国、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、オランダなどでは、発電と送電を別会社にしています。それから所有権の分離をやっているというのは少ないけれどもチェコ、デンマーク、フィンランド、イタリア、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、オランダが行っています。

 

このように発送電分離の実験はかなり進んでいる。世界で初めて送電線を開放し、自由化したのは1932年のノルウェーです。それからいまに至るまで、さまざまな積み重ねがあり、ヨーロッパは発送電の自由化が進みました。発送電分離に関しては、頭でっかちにならずに一つひとつ課題を解決していくことが大切でしょう。

 

つぎに原発と地球温暖化対策について述べたいと思います。

 

日本は地球温暖化対策として、ゼロ・エミッション推進にこだわり、原発や再生可能エネルギーに補助を与えています。

 

しかし風力発電や太陽熱発電は全体の0.25%と、小さい割合しか担っていない。であれば割合の高い火力発電の技術進歩を促したほうがよっぽど効率がいいのではないでしょうか。技術進歩でなくても、CO2を多く排出する石炭からガスに燃料を変えるだけで、CO2の排出量は減らすことができます。

 

火力発電の技術進歩を促したり、CO2削減になるような燃料転換を促すためには、炭素税をかけることがもっとも有効です。日本のCO2トン当たりのエネルギー税率は、他国に比べてまだまだ低いので高くする余地があります。あとガソリン、軽油、天然ガス、重油、石炭など、燃料によってCO2トン当たりの税率が違うのはおかしい。本当に排出量を減らしたいのであれば均等にすべきです。炭素税率の引き上げは、原発や再生可能エネルギーへの補助よりも意味があることだと思います。

 

しかし政治家も役所も再生可能エネルギー業界に恩を売りたいと思っているようですね。みなさんご存知の通り、固定価格買取制度によって、特定の企業はぼろ儲けしました。国の補助によって、いまの未熟な技術で、日本全国で太陽熱発電がおこなわれるようになった。5、6年もすればもっと技術が進歩しているはずです。効率的にCO2排出量を減らすのであれば、炭素税をかけるべきだと思います。

 

そして最後に重要なことは、もし日本が他国よりもCO2排出量の削減に貢献したいと考えているならば、日本の国内で25%の削減を目指すのではなく、日本よりもGDPあたりのCO2の排出量が高い中国、インドといった途上国に日本の優れた技術を持っていくほうが効率的なはずです。すでに排出量の少ない日本が、乾いたぞうきんをしぼるように、原発や、再生可能エネルギーに膨大なお金をかけるよりも理にかなっているのではないでしょうか。

 

CO2排出量削減のためには、このように改善点がまだまだたくさんあります。対策のために炭素税を中心に据えないと、再生可能エネルギー業界も、原発業界のように利権追求業界になってしまう可能性があると思います。

 

 

バレンタイン・ショック、安倍ショック後の市場の反応

 

宮川 南部先生、八田先生、貴重なお話をありがとうございました。それでは最後に岩田先生から直近のマクロ経済政策、金融政策についてお話をいただければと思います。

 

岩田 わたしは20年ほど、ことあるごとにインフレーションターゲットの話をしてきましたが、今日もその話をしますね(笑)。

 

デフレは、人々がデフレを予想して行動するために起こります。ということは、人々がインフレを予想すればインフレが起きるはずです。人々がインフレを予想するようになるためには、金融政策を変えなくてはいけない。わたしは長い間この話をしつづけてきました。

 

マーケットは日銀の金融政策レジームや日銀総裁の発言、日本銀行当座預金などに注目して行動を変えます。レジームが変わったとマーケットが判断するとなにが起きるか。好例が2012年2月14日の「バレンタイン・ショック」と2012年11月14日の「安倍ショック」ですね。

 

バレンタイン・ショックとは、日本銀行が「1%のインフレ率を目途に金融緩和を行う」と約束したところ、翌々日にマーケットが反応して,以後、予想インフレ率が急激にあがったことを指します。それまで予想インフレ率はマイナス、つまりデフレが予想されていたわけですが、バレンタイン・ショック以降、予想インフレ率は急激に右上がりになりました。しかし5月25日をピークにまた下がってしまう。これは白川総裁が、「やっぱり金融政策だけではデフレから脱却できない」という趣旨の発言をしたことによって、マーケットが反応した結果です。

 

2012年11月14日の安倍ショックもマーケットは同様の反応をみせました。そもそも予想インフレ率があがると、どのようなルートで景気が回復に向かうのか、いくつかお話したいと思います。

 

まずは円安ルートですね。予想インフレ率があがった場合、円で預金をもっていると少しずつ目減りしてしまいます。ですから円を手放して外貨を手に入れようとする。マーケットで円が売られることで、円はどんどん安くなります。円安によって輸出も増え需要が拡大し、デフレ脱却へと向かうわけです。

 

それから株高のルート。安倍ショック以前の株価と現在の株価を比べてみましょう。9000円台から8000円代まで下降トレンドを辿っていた株価は、安倍ショックをさかいに、去年の年末には1万395円まで上がっています。株価が上がれば増資が行われるようになりますから、資金調達が容易になって設備投資が増えます。また,資産効果から消費も増えます。

 

他にも予想実質金利低下のルートや地価の上昇ルートもある。予想インフレ率があがることで4つのルートから景気は回復に向かうわけです。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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