財政政策に関する政策的・思想的・理論的課題――藤井聡氏からの再コメントへのリプライ

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理論的課題

 

次に、藤井先生のまとめにある

 

C)「無駄な投資」が仮に(官民問わず)存在したとしても、それによって景況感には何の足しにもならない

 

についての議論をしたいと思います。私の主張は、

 

C’)「無駄な投資」と「所得移転」が景況感にあたえる影響は同じである

 

というものです。ここでひとつ謝らなければならないのは、私の前エントリ内での「自宅警備事業」という表現です。ネット上の議論のため、ついネット用語を使ってしまいましたが、自宅警備員というのは匿名掲示板などでニート・引きこもり状態にある(自宅で留守番をしている)方を差すスラングです。そのため、

 

β’:(自宅にずっと居る10万人に)10億円分の自宅警備事業を発注した

γ’:(自宅にずっと居る10万人に)定額給付金10億円を支給した

 

で人・物・金の動きに差はありません。同じ人が同じように自宅ですごしているところへ、1万円が振り込まれるだけです。にもかかわらず、10億円を支給する際の支出名目が異なるだけで、GDPへの計上額がことなってしまうことをもってGDP統計の問題点であると説明しているわけです。一方、

 

β:10億円分の穴を掘って埋める工事を発注した

γ:定額給付金10億円を支給した

 

ではどうでしょう。ここで労働の不効用(働いて疲れることによるマイナスの効用)、減価償却(生産設備の使用による価値低下)はひとまず捨象します。ちなみに両影響を考慮すると、βは厚生面でγより劣ることになりますし、職があることそのものに喜びを感じられるという場合には逆になることもあるでしょう。

 

10億円のうち、5億円が労働者に、3億円が重機のレンタル代に、1億円が事業主に、1億円が交通費に用いられるとしたならば、これは労働者に5億円、レンタル業者に3億円、事業主と運輸会社に各1億円の給付金を支給したのと同じことではないでしょうか。無駄な公共事業は支給先を限定した給付金であると考えられるのです。

 

正確には、小野善康先生が指摘するように穴を掘って埋める間これらの労働者・設備が他の仕事に就けないことによる超過供給解消効果=脱デフレ効果があるという議論があります。このような拘束効果を重視する場合には別の議論が必要ですが、ここで詳説するのは避けたいと思います。

 

ここでの私が主張したいことは、

 

δ:価値の高い公共事業ほど、経済厚生を大きく向上させる

 

という点です。労働の喜びや拘束効果を組み込んでも、できあがった物の価値が高い(前稿でいうWTP総額の大きい)公共事業ほど有効性が高いという点です。この点から、

 

“「γ=βである」と信ずる政策担当者と、「βの方がγよりも遙かに効果がある」と信ずる政策担当者がいたとすれば、前者よりも後者の方が遙かに、財政出動=第二の矢を重視した経済政策を展開することとなる”

 

について、私は「γ=βである」と信ずる政策担当者の方が経済厚生の観点で優れた政策を実施できると考えます。現下の財政状況において、または政治状況において財政支出額を無尽蔵に増加させることは出来ません。必ずや優先順位をつける必要がある。だからこそ、厚生の観点からみた経済効果はプロジェクトの内容に依存するのだという観点が必要であると思うのです。

 

 

おわりに

 

要職にある藤井先生からの

 

“飯田氏の論説……(中略)……に「同意しない」論者は、(飯田氏の論説)に「同意する論者」よりも、公共投資をデフレ脱却においてより軽視する立場をおとりになることは論理的に自明であります。”

 

については政治経済学的に重要なご意見だと思います。それでもなお、一私人である私は自身の思考をできる限り正確に伝え、それを受け止めた政治家・政策立案者の判断に期待するしかないと考えております。

 

繰り返しになりますが、私自身は脱デフレとそれによる日本経済の復活にかける情熱は人後に落ちることないと考えております。そして、財政政策と金融政策が歩調を合わせて、景気の回復に資することがその最大の近道であると考えております。これからも藤井先生のご活躍をお祈りすると共に、私のような若輩者(とは言いがたい年齢になってきましたが)との議論に時間を割いていただいたことを心より感謝いたします。

 

P.S.

現在(2月28日)、ネット環境が非常に悪い場所に滞在しているため、本エントリはシノドス編集部に委託し、掲載いただいております。誤植・誤記等への対応は3/11以降をお待ちください。

 

 

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vol.269 

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