検証! 財務省のメディア戦略と消費税増税ロジック

ご説明1:「よいデフレ論」

 

荻上 というわけで、今回は消費税増税に関して僕が受けた「ご説明」の内容を伝えるので、そちらを議論できれば。簡単に言えば、「消費税はいま増税すべき。さもなければ大変なことになる」って話なんですけど、受けた順番に再現してみますね。ちなみに、「増税に賛同してほしいのではなく、私たちの悩みを吐露しに来たんです」とは言っていましたけれど。

 

最初は、「よいデフレ論」ですね。デフレデフレというが、産業別GDPデフレーターの推移をみると、電気機械が顕著に下がっている。これはイノベーションが起き、生産が効率化したことで、パソコンなどの価格が安くなったためだ。それはいいことではないか、と。ちょっと懐かしい議論でした。

 

片岡 専門家は別ですけど、価格と物価の区別がついていない人は結構いますね。

 

15万円のテレビが1、2か月で5万円まで値下がりしたら、その時点でテレビを買った人は10万円分得したことになりますよね。浮いたお金で別の商品を買うと考えられるので、その商品の価格は上がります。需要が増えるということですから。でもそうはならない。なぜかというと、例えば電機メーカーが値下がりした商品を輸出して儲けようと思ってもうまくいかなくて、結局国内で安く売るしかなくなってしまい、働いている人の賃金が下がり、消費ができなくなり、巡り巡って物価が下がっていく。こういう悪循環があるわけです。そこに還元できない人はたくさんいる。

 

荻上 価格と物価の違いとか、あとは「貿易赤字」の意味とかって、言葉そのものが持つ「解釈誘導性」ってあると思うわけです。それこそテレビで「みなさん、パソコンが安くなるっていいことですよね?」って説明されたら納得するのは仕方ないよなと思います。誰かが言ったからとかではなく、語彙などの印象とかが築き上げる論調への共感性は、根強そうだなと思います。

 

 

ご説明2:増税するならいまでしょ!

 

荻上 次は消費税増税のタイミング論について。先に僕のスタンスをお話しておくと、いずれ増税は必要だと思っています。福祉を維持あるいは向上させるためにも、安定的な税収の確保、一定以上の経済成長、弱者への再分配への合意形成は欠かせない。でも、いまこのタイミングでなくてもよかったのではないか、という温度感ですね。

 

タイミングについて論点になっているのが、景気に対してどれだけ影響を与えるのか、ですね。そこで先方が持ち出してきたのは、消費者態度指数の表。見てください、と。89年の消費税3%導入、それから5%に引き上げた97年。増税が景気に悪影響って言いますけど、それは増税直後だけで、すぐに回復していますよね。むしろアジア通貨危機のほうが、明らかに影響力が大きいですよ。景気が上向きつつあるいま、同じような危機が生じる前に、増税したほうがいいでしょう。そんなロジックでした。

 

片岡 消費者態度指数って、消費者の意識調査なんですよね。「暮らし向きはどうですか?」ってアンケートで、よくなったと感じている人はプラスに、悪くなったと思う人はマイナスに評価しているだけなんです。だから増税直後は「たいへんだ!」と思ってマイナスをつけるでしょうし、慣れてきたら元の数値に戻っていく。

 

消費税が景気にどれだけの影響を与えているのかを実証的に把握するのは難しいんです。消費税を3%から5%に引き上げた97年は、アジア通貨危機が顕在化した年ですし、あのときは歳出カットや特別減税の廃止も同時に行っているので、増税が影響を与えていないとはいえないのですが、どれだけの影響があったのかを把握するのは容易ではない。

 

96年度の実質GDP成長率は2.7%だったのですが、民間消費の寄与は1.3%でした。それが増税後の97年度に民間消費の寄与は-0.6%まで下がっている。住宅投資の寄与も96年度は0.6%だったのですが97年度には-1.0%になっています。消費税増税は民間消費と住宅投資に影響を与えるという事を念頭におけば、消費税増税の影響がなかったとは言えないことは確かなんですね。そのかわり当時は、設備投資と輸出が盛んだったので、実質GDP成長率がかろうじてマイナスにならず、0.1%で留まった。ごちゃごちゃしていてわかりにくいんですけど、つまりリスクはあるけど、どのくらいのリスクなのかが把握しづらいんです。

 

あと「同じような危機が来る前に」と言っても、サブプライムローンもリーマンショックも、欧州債務危機だっていつくるかわからなかった。しかも大したことないって言われていたのに、すごい悪影響がありました。つまりいつでも危機が起こりうる可能性はあるとも言えるわけです。

 

荻上 なぜ、あえて「消費者態度指数」をもってきたんでしょう。

 

片岡 よくわからないです。それこそ10月に増税することを決めたら消費者態度指数はドカンと下がっているんですよね。いまちょっと戻ったところです。それを持ち出して、「いまでしょ!」は、説得力がないと思います。

 

荻上 確かに。

 

片岡 財務省も消費税増税による悪影響は否定していません。それは増税が決まったとき、経済対策をセットでやると決まったことからも如実ですよね。

 

荻上 そもそも、消費税は景気に悪影響を与えるのかと議論していたはずが、いつの間にか増税の悪影響を考慮した経済対策の話になっていましたね。結局、税率も上げられ、予算枠も増やせた。完全勝利なんじゃないかしら。

 

片岡 そういうことなんですよ。まだまだおかしいところがあります。政府って増税の際に「国民の皆様にお願いして」とか「貴重なお金で大切な事業を」とか言いますよね。でも予算をみると使いきれなかったお金が繰越金という形で数兆円規模である。予定していた事業が実施できなかったために発生したものです。財政赤字がたいへんだから増税するというなら、まず無駄遣いしないのが普通でしょう。

 

今回は経済対策として5.5兆円の補正予算がでました。これは国債を発行したのではなく、使い切れなかったお金と景気が良くなったことで増えた税収でまかなわれます。つまり増税をお願いしておきながら、国債を発行せずに工面できたお金で経済対策をしている。財政赤字がたいへんならば、国債を発行せずに工面できたお金をなぜ財政再建に回さないんでしょうか。変な話です。

 

荻上 僕自身もそうですが、最初に触れた議論への愛着というのはどうしてもある。一番最初に感染した議論に忠誠を誓う、みたいな。時間が経つにつれ、見比べられたり、悪い評判を聞いて距離をとったりするんですが、逆に意地になってより強化されることもある。「ご説明」が最初の情報接触だった政治家とかは、よほど事前から専門化されていない限り、鵜呑みにしないまでも、やはり頭の片隅には保存しておくんだろうなと思います。【次ページにつづく】

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

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・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
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