リフレ政策とは何か? ―― 合理的期待革命と政策レジームの変化 

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インフレターゲットと政策レジームの変化

 

(この節の要約)(この節の要約)インフレターゲットを使ってデフレ脱却を行うという方法はポール・クルーグマン(2008年ノーベル経済学賞・アメリカ民主党の熱狂的な支持者としても知られる)によって1998年に提唱された。これも政策レジーム変化の一種である。

 

日本のデフレ脱却について動学的一般均衡理論の観点から分析したものとしてKrugman (1998)がある(著者[矢野]の意見の大半はこのKrugman (1998)と先述の「昭和恐慌の研究」に依拠する)。クルーグマンは「日本経済のデフレ脱却には『現在の貨幣発行量増加は効果がなく』、将来の貨幣発行量の増加が信認されることが重要である」と論じた。なお、「現在の貨幣発行量増加による(デフレ脱却や景気浮揚)効果がなく」なるような状態を「流動性の罠」もしくは「ゼロ金利制約」という。

 

そして、彼はデフレ脱却の手法として「インフレーションターゲット(インフレ目標)」の採用を提案している。実はこれは中央銀行が実行する戦略やルールの変更であり、これも政策レジーム変化の一種である。(なお、彼がインフレーションターゲットを提唱した背景として「自然利子率の低下」と「インフレ期待の上昇を通じたマイナスの期待実質金利の実現」というテーマがあるのだが、紙数の都合上省略する。)

 

また、デフレからの脱却を政策レジームの変化と動学的確率的一般均衡理論(Dynamic Stochastic General Equilibrium Model、DSGE)を用いて研究した論文としてEggertsson (2008)がある。これはサージェントやテミンらの研究を基礎としてDSGEを用いて政策レジーム変更を分析している(なお、エガートソンとは少し異なり、サージェント(と共同研究者ハンセン)が提案した”シュタッケルベルグ解”を用いてゼロ金利制約とデフレ脱却についてDSGEを用いて分析した論文にYano (2012)がある)。

 

 

政策レジームの変化 ―― リフレ派への誤解に対して

 

(この節の要約)リフレ派の意見はともすれば「無制限に金融緩和をしろ」という風に誤解されがちであるが、実際には、ここまで解説したようにサージェントやテミンらの「政策レジームの変化」に関する研究成果ならびにクルーグマンやエガートソン・ウッドフォードらの研究に沿ったものであるといえる。ぜひ「昭和恐慌の研究」をご覧頂きたい(特に第5章・第6章・終章)。

 

ここまで解説してきたように、リフレ派の出発点となった「昭和恐慌の研究」(2004)の主張は「無制限に金融緩和をしろ」とか「ただ財政政策を行え」というような単純なものではない。リフレ派の意見はともすれば「無制限に金融緩和をしろ」という風に理解されがちであるが、それは誤解である。

 

サージェントの「四大インフレーションの終焉」、テミンらの大恐慌研究、「昭和恐慌の研究」、クルーグマンやエガートソン・ウッドフォードらの研究等が示すようにデフレ脱却とインフレの安定化には政策レジームの適切な変更・選択が必要不可欠であるといえる。それらの研究に沿い、日銀法を改正する、もしくはインフレターゲットを導入する(もしくは両方を行う)等がリフレ政策の元々の提案である。

 

結論:リフレ派の見解とは、つまり(1)政策レジームの変化(政策ゲームのルールを変えること)と(2)政策レジーム変化を通じたインフレ期待の安定化が重要であるというというものである。その手段として「インフレターゲット」などが提唱されている。これらの提案はサージェント・テミン・クルーグマン・ウッドフォード・エガートソン等の現代マクロ経済学の分析に沿ったものである。リフレ派の意見はともすれば「無制限に金融緩和をしろ」という風に理解されがちであるが、それは誤解である。ぜひ多くの方に「昭和恐慌の研究」をお読み頂きたい(特に第5章・第6章・終章)。

 

[注釈] 「二段階レジーム・チェンジ」「自然利子率の低下」「インフレ期待の上昇を通じたマイナスの期待実質金利」等の重要なテーマを取り上げるには大幅な紙数が(さらに)必要であるため、別の機会としたい。

 

 

参考文献

岩田規久男編、(2004)、『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社。

飯田泰之・岡田靖、(2004)、「昭和恐慌と予想インフレ率の推計」、岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社。

伊藤隆敏、(2011)、「ノーベル経済学賞にサージェント氏とシムズ氏(経済教室2011/10/20掲載)」、日本経済新聞。

岡田靖・安達誠司・岩田規久男、(2002)、「大恐慌と昭和恐慌に見るレジーム転換と現代日本の金融政策」原田泰・岩田規久男編著『デフレ不況の実証分析──日本経済の停滞と再生』東洋経済新報社。

岡田靖・安達誠司・岩田規久男、(2004)、「昭和恐慌に見る政策レジームの大転換」岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社。

Gauti B. Eggertsson, (2008), “Great Expectations and the End of the Depression,” American Economic Review, American Economic Association, vol. 98(4), pages 1476-1516, September.

Hanke, Steve H. , (2012), “R.I.P. Zimbabwe Dollar” http://www.cato.org/zimbabwe

Krugman, Paul R., (1998), “It’s Baaack: Japan’s Slump and the Return of the Liquidity Trap,” Brookings Papers on Economic Activity, Economic Studies Program, The Brookings Institution, vol. 29(2), pages 137-206.

Nobel prize (2011), “Scientific Background,” http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/economics/laureates/2011/press.html

Sargent, Thomas J. , (1982), “The Ends of Four Big Inflations,” NBER Chapters, in: Inflation: Causes and Effects, pages 41-98 National Bureau of Economic Research, Inc.

Temin, Peter & Wigmore, Barrie A., (1990), “The end of one big deflation,” Explorations in Economic History, Elsevier, vol. 27(4), pages 483-502, October.

Yano, Koiti, (2012), “Zero Lower Bounds and a Stackelberg Problem: A Stochastic Analysis of Unconventional Monetary Policy,” Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=2031586 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2031586

 

 

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