2014.12.11

2014年衆院選における教育政策の公約比較と3つのポイント

村上祐介 教育行政学・行政学

教育 #教育政策#選挙公約

2014年12月14日に予定されている総選挙では、経済政策や景気対策が争点とされている。しかし、集団的自衛権や原発再稼働など、「隠された」争点も多くあり、有権者個々人によって重要と考える争点はさまざまであってよい。

教育政策に関しては、少子化対策や待機児童問題が子育て政策と関連した喫緊の課題となっているが、他方で安倍政権は「教育再生」を掲げて短期間に学校教育・教育行政で多くの制度改革を行っており、今後も道徳の教科化や大学入試改革、公設民営学校の設置などの改革が検討されている。今回の選挙では経済政策・景気対策の陰に隠れているが、安倍政権の評価を考えるうえで教育政策は重要な分野の一つであろう。

そこでここでは、総選挙における各党の教育政策を検討する。より具体的には、各党の選挙公約の違いに着目するとともに、自公連立政権が継続した場合の今後の方向性も合わせてみておきたい。

本論ではどのような視点で今回の選挙公約をみるかに重点を置いて議論を進める。子育て政策については必要な範囲で述べるが、主として初等中等・高等教育政策について検討する(少子化対策や家族政策については、別記事の筒井淳也「『共働き社会』の実現に向けて――「仕事と家族」政策からみた衆院選の争点、を参照のこと)。

なお、各党の教育・子育てマニフェストの比較については、信州大学教育学部の林寛平氏がテーマ別に各党の公約を掲載している(信州大学比較教育学研究室「衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較」(http://shinshuedu.blogspot.jp/))。本論でもこのウェブサイトを参考にした。本論では各党の公約は一部を抜粋しているので、全文については各党のウェブサイトも参照していただきたい。

1.与党の教育政策に関する公約

まずは連立与党の自民党と公明党の公約のうち、教育政策で共通している、あるいは類似している公約を挙げてみよう。(1)「チーム学校」づくりなど教育現場の体制の充実と地域力の強化、(2)障がいのある子どもへの支援、(3)いじめ問題への対応、(4)奨学金制度等の拡充、(5)多様な教育機会の確保の5点があげられ、具体的にはそれぞれ以下の公約が記されている。

(1)「チーム学校」づくりなど教育現場の体制の充実と地域力の強化

・教員と多様な専門性を持つ地域のスタッフが一体となって学校改革を進める「チーム学校」づくりを進めるため、教育現場の体制の充実を図り、開かれた学校を核として地域力を強化します。(自民党)

・双方向型・課題解決型授業の導入など、子どもたちの創造性や主体性を伸ばす授業への転換を図るほか、チーム学校やコミュニティ・スクールなどの導入を積極的に進めます。(公明党)

(2)障がいのある子どもへの支援

・障害のある子供たちのため、教職員の専門性向上、通級による指導の充実、拡大教科書等の普及・充実、学校施設のバリアフリー化等の必要な教育条件を整備します。(自民党)

・障がいのある子どもが十分な教育を受けることができるよう、特別支援学校の教室不足の解消やバリアフリー化などの整備を進めるとともに、特別支援教育コーディネーターの配置拡充や専門性の向上、特別支援教育に対応する教職員等の資質向上を図るなど、特別支援教育の一層の充実に取り組みます。 また、発達障がい児等の教育機会を確保するため、発達障害支援アドバイザーの配置拡充を進めるなど、必要な教育環境の整備に向けた支援を拡充します。(公明党)

(3)いじめ問題への対応

・教育行政の責任体制等の明確化を行い、いじめ問題に的確に対応できる体制を整える。(自民党)

・いじめ防止対策推進法等を踏まえ、いじめの未然防止や早期発見・対応等の一層の体制整備に取り組むとともに、インターネット上で行われるいじめへの対応や「いじめは悪」「いじめる側が悪い」という概念を学校現場で徹底する、いじめ防止教育を推進します。(公明党)

(4)奨学金制度等の拡充

・大学奨学金事業における「有利子から無利子へ」の流れを加速し、返還月額が卒業後の所得に連動する「所得連動返還型奨学金制度」の導入を図ります。(自民党)

・授業料減免制度や無利子奨学金、奨学金返済免除制度、高校生等奨学給付金の拡充を進めるほか、返済不要の給付型奨学金や、マイナンバー制度の導入を前提に、より柔軟な所得連動返還型奨学金制度の導入をめざします。このほか、大学生や高校生等の海外留学を促進するため、給付型の留学奨学金制度等の拡充に取り組みます。(公明党)

(5)多様な教育機会の確保

・小中一貫教育や高校の早期卒業の制度化、フリースクール等多様な教育機会の確保と支援方策の充実、夜間中学の設置促進等、教育制度の柔軟化を図ります。(自民党)

・多様な教育機会の充実 公立夜間中学校を全都道府県に1校以上設置するなど、学齢期(満6歳~15歳)に就学できなかった義務教育未修了者や在日外国人などの学習支援を推進します。 また、自由で独創的な学びの場を提供するフリースクールを公的に支援する仕組みづくりや、定時制・単位制高校や通信教育課程導入の大学等の増設・拡充を進め、多様な教育機会の確保・充実に取り組みます。(公明党)

自民党と公明党で公約が類似している点については、連立政権が継続した場合、基本的にはこの線で施策が検討されると思われる。ただし、奨学金制度については、公明党は給付型奨学金制度の創設に言及しているが、自民党は所得連動返還型奨学金制度の導入を図る一方で給付型奨学金の導入は触れていないなど、具体的な施策は両党で温度差がある。また、公明党はコミュニティ・スクールの導入を積極的に進める点で民主党に近いが、自民党は言及していないといった差異もある。

幼児教育についても、両党は公約に盛り込んでいるものの、自民党は幼児教育の無償化を財源を確保しつつ取り組むと述べているのに対して、公明党はまず5歳児の無償化に取り組むこと、就学前3年間の幼稚園、保育園、認定こども園の幼児教育の無償化を着実に推進するとしており、自民党に比べるとより具体的な施策が記載されている。

続いて、それぞれの独自色が出ている公約もみてみたい。

たとえば自民党は、英語教育の強化といったグローバル教育への対応と、教科書検定、特別の教科「道徳」の設置など保守的な教育政策を明記している点が特徴的である。具体的には以下のような公約を掲げている。

・学習指導要領の改訂に着手し、小学校英語教育の早期化、高校の日本史必修化、特別の教科「道徳」、新科目「公共」の設置、日本の領土に関する記述を充実させるとともに、新しい教科書検定基準に基づく教科書検定を進めます。(自民党)

・小中高を通じた英語教育の強化、「スーパーグローバルハイスクール」や「スーパーグローバル大学」の整備、国際バカロレア認定校の大幅増を進めます。(自民党)

・官民の共同による留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」により、日本人留学生の海外留学や外国人留学生の受け入れを2020年までに倍増します。(自民党)

公明党は、少人数学級・教育の定着化や長期的視点に立った教職員定数の計画的な改善に触れているほか、不登校への支援、公立夜間中学校を全都道府県に1校以上設置、学校施設の耐震化といった施策を公約で取り上げている。

・少人数学級および少人数教育の一層の定着化や長期的な視点に立った教職員定数の計画的な改善に取り組むとともに、教員と学校現場の質の向上を図ります。(公明党)

・スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、養護教諭、児童支援専任教諭等の配置拡充を図り、いじめなどで悩む子どもたちが相談しやすい環境を整えるとともに、不登校支援施設・機関等への支援を拡充し、不登校の子どもたちが学びを安心して再開できる環境づくりに取り組みます。(公明党)

上記に述べたように自民党と公明党では教育政策の重心がやや異なっている面もあり、選挙結果や今後の政局によっていずれの政策が実現するかは変わってくるものと思われる。

2.野党の教育政策に関する公約

次に野党の教育政策に関する公約を政党ごとに簡単にみていきたい。

(1) 民主党

民主党は10の重点政策の一つとして教育を挙げており、少人数学級の拡充と教育の機会均等確保を掲げている。「人への投資」を強調し、35人以下学級の推進、民主党政権時代に導入されていた所得制限のない高校無償化制度、さらに高等教育段階での給付型奨学金の創設などを明記している点が自民党の公約とは異なっている。コミュニティ・スクールの導入促進や給付型奨学金の創設などは、自民党の公約にはないが公明党とは共通している。また、「体罰等防止法」「児童通学安全確保法」の制定を図るとしている。

・一人ひとりの子どもがきめ細かい教育を受けられるよう、義務教育における35人以下学級を着実に推進します。(民主党)

・所得制限のない高校無償化制度をめざします。(民主党)

・保護者、地域住民、学校関係者、教育専門家等が参画するコミュニティスクール(学校理事会)の導入を促進します。(民主党)

・大学など高等教育における授業料の減免や奨学金を拡充し、返済の必要のない「給付型奨学金」の創設をめざします。(民主党)

・いじめ防止対策推進法の厳正な運用、「体罰等防止法」の制定を図ります。(民主党)

・「児童通学安全確保法」を制定し、国が責任を持って体制整備を行うことにより、通学路などでの子どもの安全を守ります。(民主党)

(2) 維新の党

維新の党は保育バウチャー(クーポン券)の導入、保育園の株式会社参入促進など子育てサービスの成長産業化を掲げているが、教育政策でも市場原理や競争を重視する傾向が強いことが特徴的である。たとえば公設民営学校の設置、教育バウチャーの支給などがその例である。ただし、同時に教育予算の対GDP比を他の先進国並みに引き上げるとしており、公教育財政支出を拡大する方向でもある。

・教育予算の対GDP比を他の先進国並みに引き上げる。(維新の党)

・公設民営学校の設置等、地方の発意で多様な教育のあり方を可能にする。(維新の党)

・多様な教育提供者の競い合いによる教育の質と学力の向上をめざし、教育バウチャーを支給する。(維新の党)

・教育委員会制度を廃止し、選挙で住民から選ばれた首長が教育目標を設定する。(維新の党)

・学校での授業と企業でのインターンシップを並行して進め、切れ目なく職業人を育てる「デュアルシステム」によるキャリア教育を推進する。(維新の党)

なお、今年前半に行われた地方教育行政法改正の国会審議では、民主党と日本維新の会が共同で教育委員会制度廃止の対案を提出していた(衆議院で否決)。維新の党は今回の選挙でも引き続き制度廃止を掲げているが、民主党は公約では教育委員会制度には特に言及しておらず、公約での両党のスタンスは異なっている。

(3) 次世代の党

次世代の党は、「正しい国家観と歴史観を持つ『賢く強い日本人』を育てる教育」と公約に記されており、保守的な色彩が濃い。愛国心を育む教育、社会における公正と秩序を維持するための規範・道徳教育が明記されている。

・国際的に第一級の知力と科学技術の革新力を持たせるための教育の重視(次世代の党)

・「独立自尊」の精神を養い、愛国心を育む教育(次世代の党)

・社会における公正と秩序を維持するための規範・道徳教育(次世代の党)

・バウチャー制度(供給サイドから需要サイドへ税を投入)による子育て・教育政策の拡充により、親の経済格差によらず子供の教育を受ける機会を保証(次世代の党)

・文化による国際貢献、「世界の文化が輝き溢れ、交流する場」の実現(次世代の党)

(4) 共産党

共産党は「世界最低水準の教育予算の引き上げ・重すぎる教育費負担の軽減」「ゆきすぎた競争主義からの脱却」「”上からのしめつけ”をやめ子どもの権利と教育の自主性を保障する」との立場から教育を立て直すとしている。政策は詳細かつ多岐にわたるが、主なものとしては以下が挙げられる。

・少人数学級推進の一点で共同をひろげ、他党とも協力し、少人数学級推進の法律を制定するため全力をつくします。同時に、高校に少人数学級をひろげます。(共産党)

・(1)「奨学金」というならすべて無利子にする、(2)収入が少ない人への返済の減免制度など返済に困ったときのセーフティネットをつくる、(3)先進国にはすべてある返済不要の給付制奨学金を創設する(共産党)

・国定道徳の押しつけでなく、市民道徳の教育を(共産党)

(5) 生活の党

生活の党は、「家計収入の増大こそ最優先課題」として、次の施策を取り上げている。教育・子育て政策については、家計負担を軽減し、貧困の連鎖を断つための施策をもっぱら取り上げている。

・子育て応援券、高校無償化、最低保障年金を推進し、可処分所得を増やします。(生活の党)

・給付型奨学金の創設を含め、奨学金制度を拡充し、希望する全ての人が高等教育を受けられるようにします。(生活の党)

・貧困により困窮する家庭における子どもを乳幼児期・児童期から重点的に支援し、貧困の連鎖を断ち切るための対策を強化します。(生活の党)

(6) 社民党

社民党は教育予算のGDP比5%水準の実現、自立支援ホームに対する公的支援の強化、給付型奨学金の創設、30人以下学級の早期完全達成と教員定数の拡大など、公教育財政支出の拡大と少人数学級、奨学金・就学援助の充実を掲げている。

・地域に子どもの相談・救済など、子どもの人権擁護の仕組みを。「子どもの権利基本法」を制定。(社民党)

・いじめを許さず、共に学び共に生きる、ゆとりある学校を実現。教育予算のGDP5%水準を実現。子どもの貧困の実態を調査し包括的な取り組みを計画的に強化。さまざまな困難を抱える家庭に対する支援体制を整備。自立支援ホームに対する公的支援を強化。就学援助の保障、給付型奨学金を創設。(社民党)

・30人以下学級の早期完全達成と教員定数の拡大。(社民党)

(7) 新党改革

新党改革は政府に対して是々非々で臨む姿勢であるとしている。教育・子育てについては待機児童対策、少子化対策の充実のほか、子どもの学習進捗に合わせて、現場で柔軟に学習内容を決めることができる効果的な「詰め込み教育」が必要であるとしている。

・現在の教育制度では、各学年で学ぶ内容が定められていて、学習意欲があっても、上の学年の勉強はできません。子どもの学力の伸びを押さえつけてしまっています。「詰め込み」という言葉のイメージはあまり良くありませんが、ここで言っているのは、子どもの要求に合わせて、どんどん学習出来る教育を実現することです。効果的な「詰め込み教育」のため、中高一貫教育制度の導入を進めていきます。(新党改革)

3.衆院選における教育政策公約をどうみるか

本論では与党・野党それぞれの教育政策に関する公約を検討してきた。具体的な政策をみると、与野党通じてそれほど大きな違いがない政策もみられる。たとえば教育現場への支援や奨学金制度の充実、いじめ対策などは方向性としては各党で大きな違いはない。ただ奨学金制度については、給付型奨学金制度の有無は政党ごとにスタンスが異なる面もみられる。また、道徳教育や愛国心教育などの保守的な政策や、バウチャー制度や公設民営学校などのネオ・リベラル的な政策については、政党によって推進、反対、明記していないなど、立場が大きく分かれている。

教育政策に関する各党の政策・公約をみるポイントとして、筆者は次の3点を挙げておきたい。

第1は、道徳教育、愛国心教育などの政治的・イデオロギー的な教育課題、またバウチャー制度、公設民営学校などのネオ・リベラル的な政策志向をどのように考えるかという点である。

政治的・イデオロギー的な問題については道徳教育などの伝統的な課題とは別に、英語教育の強化やグローバル化への対応などの新しい教育課題をどう考えるかという点も含まれるだろう。ネオ・リベラル的な教育政策については、実験的導入にとどめるのか、あるいは「普通」の学校にも市場原理や競争を広く適用するのかによっても評価が変わってくる。さらにいえば、政治的・イデオロギー的な問題も、ネオ・リベラル的な政策志向も、二者択一的というよりバランスの問題としてとらえる見方もありうる。

第2は、教育・子育ての優先順位である。高齢化にともなって年金・医療・介護などに財源を割かざるをえない現状では、教育・子育ての優先順位はどうしても下がりがちである。今回は取り上げなかったが、教育・子育てをマニフェストでどの程度重点的に取り上げているかを見ることでも、その政党が教育・子育ての優先順位をどう考えているかが読み取れるかもしれない。保守的あるいはネオ・リベラル的かどうかよりも、教育・子育てに財源を優先的に割く、またその道筋や施策を具体的に提示してくれる政党を選ぶという選択肢もありうる(もちろん教育・子育てよりも経済政策を優先する選択肢もある)。

第3に、第2の点と関連するが財源の裏付けである。財源を具体的に提示している場合とそうでない場合があるが、提示していた場合でも現実的に実現可能かを我々自身が吟味する必要があることはいうまでもない。

なお、以上の点は各政党の公約を評価する視点であるが、これまでの政権の教育政策を評価する際の視点として考えることも可能である。今回は教育・子育ては選挙の主要な争点ではないかもしれないが、それゆえに、選挙で勝った政党の教育政策が全て信任されたわけではないともいえる。選挙の時だけでなく、選挙後も有権者が政策の動向に関心を持つことが、民主政治や教育の質を上げるためにはより重要である。

サムネイル「Mi aula」srgpicker

http://www.flickr.com/photos/srgblog/1732461298

プロフィール

村上祐介教育行政学・行政学

専門分野は教育行政学・行政学。研究関心は、教育行政の政治学的分析。主に教育委員会制度や地方教育行政を分析対象にしている。1976年愛媛県生まれ。1999年東京大学教育学部卒業。2004年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員、愛媛大学法文学部講師、准教授、日本女子大学人間社会学部准教授を経て、2012年より東京大学大学院教育学研究科准教授。博士(教育学)(東京大学)。著書に『教育行政の政治学―教育委員会制度の改革と実態に関する実証的研究―』(単著)(木鐸社、2011年)、『教育委員会改革5つのポイント』(編著)(学事出版、2014年)、『地方政治と教育行財政改革』(共編著)(福村出版、2012年)、『テキストブック地方自治 第2版』(分担執筆)(東洋経済出版社、2010年)、などがある。

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