「共働き社会」の実現に向けて――「仕事と家族」政策からみた衆院選の争点

「少子化社会」において目指すべきは

 

現政権与党は、今月行われる衆院選の争点を「アベノミクス」への評価であるとしている。これをどう受け止めるかは有権者の自由だが、経済政策が選挙戦での大きな焦点であるということは動かないだろう。たしかに、ここ20年間のデフレは日本経済を病的な状態に陥らせており、このままでは少子高齢化対策など、基礎体力を改善する政策を大胆に展開する余裕などみいだせない。

 

こういう状態であるので、経済の体調回復を前提としている政策課題についてはなかなか争点化しにくいところもある。だが、少子高齢化対策が重要な課題であることにはまったくかわりがないので、ここで少し問題を整理してみよう。

 

ちなみにここで「少子高齢化対策」というとき、いわゆる両立支援政策、女性の活躍に関する政策も含むものと考える。女性の(雇用)労働力化と出生率の関係、ひいては有効な少子化対策のあり方については、必ずしも共通の見解が政策立案者や一般有権者に存在しているわけではない。だが、少なくとも筆者は、両立支援を通じたほんとうの意味での「共働き」カップルの増加こそが、根本的な少子化対策であると考えている。

 

この点、もう少し詳しく説明してみよう。ある人の所得が、求める生活水準を達成するのに足りないとしよう。このとき、その人はまず他に所得がある人と一緒に生活することを考えるはずだ。

 

学卒後しばらくについて、わが国では、そのような対象が(学卒前と同じく)親だった。それに対して、一緒に生活する相手が異性(や同性のパートナー)であったのが、少子化を克服した一部の欧米社会の特徴だ。日本と比べて、極端に高いヨーロッパでの若年層失業率は、その実(主に同棲というかたちでの)カップル形成を後押しするという働きさえ持った。

 

しかしこのカップル形成戦略が合理的であるためには、女性が(同じ事業主でなくても)長期的に雇用され、家計に実質的に貢献するレベルでの賃金を得ることができるような労働環境が存在していることが前提となる。そのためには、育児期と介護期についてはもちろん、それ以外の全般的な「働きやすさ」をどのように達成するかが課題となる。

 

育児支援や労働環境の改善は、現在、有配偶で子どもを作りたい人に対して、子どもをつくるインセンティブを与えることにとどまらず、「女性でもずっと働いて家計に貢献できるんだ」という展望を若い人たちに与え、共働きによる家計維持可能性をリアルに実感させる。それが未婚化の流れを変える力になるはずだ。

 

繰り返しになるが、少子化対策の根本的な鍵は「(真の意味での)共働き社会の実現」にある、と私は考えている。この観点からすれば、育児支援において優先すべきは休業期間の延長ではなく保育の充実(待機児童の解消と保育の質の向上)であり、配偶者控除などの「男性稼ぎ手」モデルに沿った政策ではなく、男女・雇用形態にかかわる均等待遇の追求である。

 

 

安倍政権2年間の成果

 

以上のような観点から、まずはこの分野での第二次安倍政権下での成果を確認してみよう。2012年末の衆院選での自民党大勝を受けて、2013年から本格始動した安倍内閣だが、少子化対策/男女共同参画担当大臣の森まさこ氏のもと、いくつか目立つ動きがあった。

 

2013年3月に「少子化危機突破タスクフォース」が結成され、例の「女性手帳」で混乱はあったものの、「子育て支援」「働き方改革」「結婚・妊娠・出産支援」の「3本の矢」で少子化対策を推進することが提言された。この提言の新規な点は、3つめの「結婚・妊娠・出産支援」だ。「結婚」については、これまでの少子化の主要な要因が未婚化であることを踏まえたもの、「妊娠・出産」は加齢に伴う妊娠可能性の低下等の問題への理解を進めよう、という趣旨があったと考えられる。

 

2013年は、いわゆる(狭い意味での)団塊ジュニアの、もっとも若いコーホート(1974年生まれ)が40歳にかかる年であり、この世代による遅れた子作りは、2005年の最低出生率(1.26)からの反転(2013年は1.43)のひとつの要因となった。だが、誰もが認めるように、これは物足りない増加であり、なによりも「時すでに遅し」であった。とはいえ、「タスクフォース」の提言は妥当な方向性を示したものである。

 

この時点では、しかしながら、自民党全体として、「共働き社会」を目指すという方向性が共有されていたわけではない。2013年7月の参院選では、自民党は「家族成員による自助」の考え方から、配偶者控除を維持すると明言している。しかし、他方で参院選の公約には、「同一価値労働・同一賃金を前提に、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現に必要な法整備等を行い、非正規労働者の処遇を改善します」とある。ある意味で一貫性がないが、党内で議論が熟していないということでもあり、また部分的に「共働き社会」への志向性がみられる、ともいえる。

 

しかし(他の記事でも触れたが)、2014年からは「共働き社会」に向けた方針に、はっきりと流れの変化が生じた。その背景にあったのは、きたるべき労働力不足にどう対処するか、という問題意識であったと思われる。その証拠に、6月の改訂版「日本再興戦略」でも書かれているように、「女性の登用」は外国人労働力の活用と並び議題として設定されることが増えている。同「戦略」では、「働き方に中立な税制・社会保障制度等への見直し」とあり、政府の方針として配偶者控除の廃止が目指されることが明確になった。

 

安倍政権の「女性活躍」政策の目玉とされていた「女性活躍推進法」だが、解散の影響もあり廃案となった。残念だという声もあるが、個人的にはこの法案が「目玉」になることには違和感があった。

 

コアとなるのは企業・官庁への「数値目標の義務付け」(300人以下企業は努力義務)だが、第一に、目標の水準は実情に即して各組織が決めることができ、かつどの項目の目標を公表するかは各組織が決めることができるなど、経済団体からの要望を汲み取って非常に緩い拘束性しか持たされていない。次に、企業がそういった目標を達成する上で、それを支える制度上の支援については条文案には盛り込まれているが、目立った方策が提示されていない。このため、表面的な数値合わせでごまかそうとする企業が多くなることが予想される。

 

現政権のこのような動きは、一部には、小泉政権下の2003年に内閣府男女共同参画推進本部が発表した、「社会のあらゆる分野で、指導的地位に女性が占める割合を2020年までに30%にする」といった目標へのコミットであるといえる。10年来の目標にようやく本気で取り組み始めたということだが、しかし具体的な手段についての議論が目立たないのは相変わらずだ。さらに、そもそも目標設定としてなぜ「指導的立場にある女性の割合」だけが重視されるのかが、実はよくわからない。男女賃金格差の是正など、複数の目標を総合的に追求したほうが、ひずみが出にくくなるので望ましい。

 

最後に、新たに獲得される予算をもとに期待されていた育児支援については、消費税増税延期の影響もあって行き詰まりの感がある。共働き社会化にともなってますますニーズが高まってきた保育の量と質を確保すべく、政府は2015年開始予定の「子ども・子育て新制度」のもとでの育児支援を前倒しして、「待機児童解消加速化プラン」を実施しているが、限られた予算ではどうしても限界がある。待機児童の解消に期待を寄せていたひとびとが失望し始めたなか、各政党が公約でどのような内容を盛り込むのかに注目が集まっている。

 

 

自民と民主の政権公約の評価

 

前回の参院選のときの記事では、一定数の議席をもつ政党の公約(政策集)に限って検討したが、今回は自民党と民主党のそれに限ってコメントをしておく。政権公約に注目する際のポイントを抑えれば、あとは有権者が各自の判断でそれを評価できると考える。

 

まずは自民党の政権公約から。

 

「共働き社会」の実現に向けた政策については、以下のような項目がある。

 

 ●「長時間労働を美徳とする働き方を見直すことにより、メリハリの効いた働き方を実現するとともに、仕事と家庭の両立支援を推進し、一人ひとりがワーク・ライフ・バランスを実現できるようにします」

 

 ●「「社会のあらゆる分野で、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という目標の確実な実現に全力を挙げます」

 

 ●「働く女性、働きたいとの希望を持っている女性の職業生活における活躍を促進させる「女性活躍推進法」を成立させます」

 

 ●「働き方に中立的な税制・社会保障制度等について、総合的に検討します」

 

 ●「「女性のチャレンジ応援プラン」を策定し、家事・子育て等の経験を活かした再就職の支援等を行うとともに、「働く女性の処遇改善プラン」を策定し、非正規社員の処遇改善や正社員化を支援します」

 

 

いろいろ書かれているが、全体的にやはり「共働き社会」の実現に向けた方向性がみてとれる。ただ、例の「指導的立場の女性を30%に」という10年来の目標以外には、具体的な数値目標は掲げられていない。それに、(これは他の政党でもいつもそうなのだが)目標と手段を切り分けた整理がされていないため、どうしても雑然とした印象が残る。やはり、公約発表までの時間がなかったのか、議論を詰め切れていないのである。また、参院選の公約には書いてあった「同一価値労働同一賃金」という文言は消えている。

 

子育て支援については、以下のような項目がある。

 

 

●「「待機児童解消加速プラン」を展開し、保育需要のピークを迎える平成29年度末までに約40万人分の保育の受け皿を確保し、待機児童解消を目指します」

 

●「1兆円超程度の財源を確保し、「子ども・子育て支援新制度」に基づく子育て支援の量的拡充(待機児童解消に向けた受け皿の拡充等)及び質の改善(職員配置や職員給与の改善等)を図ります」

 

 

「新制度」の財源については、11月末の「重点政策」の方では触れられていなかったが、公約でははっきりと「1兆円超程度」と書かれている。一部報道では「つなぎ国債」の発行が取り沙汰されているが、保育の質と量の確保に必要だとされる1.1兆円の財源が、消費税増税延期のなかでほんとうに確保されるのか、あるいはそれがいつからなのか(「子ども・子育て新制度」が本格始動する2015年度からなのか)、注目される。【次ページにつづく】

 

 

 

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