子どもの家庭背景による学力格差は根深い――学力の追跡的調査の結果から考える

(2)児童生徒の努力は学力格差を克服するのか?

 

パネルデータを用いた分析のもうひとつの長所として、偏りの小さい推定値を得やすいという点がある。この特徴を活かして、児童生徒の努力の指標として学習時間を設定し、親学歴別に学力と学習時間の関連を分析したのが図3である。

 

まず青色の棒の両親非大卒の結果を見ると、「ほとんどしない」と「1時間まで」の正答率はそれぞれ47.3点と48.3点となっている。この1ポイント差には統計的に意味はないが、学習時間が「2時間まで」と「2時間半以上」となると、学習時間が正答率を向上させる統計的な関連が見られるようになる。

 

一方で、オレンジ色の棒の両親大卒の結果では、「1時間まで」の学習時間で学力スコアが向上する。つまり、両親大卒の児童生徒は短時間の学習でも学力に効果があるが、両親非大卒の児童生徒は比較的長い時間の学習をしないと努力が学力に変換されないことが示唆される。

 

さらに、両親大卒と両親非大卒の児童生徒別に学習時間の推定値を比較すると、同じ学習時間にも関わらず、親学歴によって学力スコアが異なる。両親大卒の児童生徒は、1時間までの学習時間でも52.9点だが、両親非大卒の児童生徒は48.3点しか獲得していない。さらに見ると、両親大卒の児童生徒は、2時間半以上の学習時間で55.7点だが、両親非大卒の児童生徒は51.3点に留まる。

 

この結果は、学力の獲得をとりまく種々の学習行動(例えば、努力)は形式的に平等であるに過ぎないことを示唆している(ブルデュー&パスロン 1964=1997など)。具体的にいえば、両親が非大卒の児童生徒に比べて、両親大卒の児童生徒は「効果的な学習」がより身体化されており、学習時間の効果が親学歴別に異なり、その結果として、個々人の努力では学力格差が克服することができないことになる。

 

 

図3.親学歴別、学習時間の効果の推定結果(固定効果モデル)

出典 中西啓喜(2017)『学力格差拡大の社会学―小中学生への追跡的学力調査結果が示すもの―』東信堂、p.85の表5-3を図化した。

 

 

5.学力格差は根深い

 

ここまでの図2と図3の分析結果を合わせて考えると、学力格差の発生には二段階のメカニズムがあることがわかる。すなわち、(1)家庭背景による初期的な学力格差に加え、(2)家庭背景によって学習時間の効果が異なる、という2段階である。第一の段階は家庭環境そのものが生み出す学力格差であり、第二の段階は児童生徒の家庭背景によって「努力の質格差」とも呼べる現象が生じており、それが学力格差を生み出しているのである。

 

こうしたデータを改めて眺めてみると、学力格差がいかに子どもの家庭環境によって早期から大きな影響を受けているのかが理解してもらえるだろうか。むろん文部科学省の全国学テの実施には、その役割と意義はある。しかし、全国学テによって把握できる学力格差(図1)は、すでに出来上がっている格差を一時点で切り取っているに過ぎないという限界は理解すべきである。

 

このようなデータを提示すると指摘されるのは、「分析結果は傾向に過ぎず、例外もあるはずだ」という意見である。例えば、「私は親が非大卒だけど学力が高かった」や「友人は、貧困家庭だったが有名大学に進学できた」などの経験則を踏まえて「納得できない!」という主張がある。

 

しかし、過去の『シノドス』(https://synodos.jp/education/16239)において中澤渉氏が指摘している通り、統計的な分析結果が示すのは、あくまで全体の傾向でしかない。それゆえに、「不利な家庭環境を乗り越えた人物」のようなレアケースは存在する。だが、全体の傾向にマッチしない自分や身の回りの人間のケースを「納得できない!」と紹介するだけでは反証したことにはならない。統計的な分析によって導かれた知見は、統計的な分析で反証しなければならないのである。

 

例えば、JELSデータの分析によれば、学力スコアを上位・中位・低位に3等分し、小3の時に学力低位だった児童生徒が、中学3年生で学力高位になったのは全体の4.42%に過ぎなかった。具体的な人数を記述すれば、1,085人中の48人である。両親非大卒の児童生徒に限れば13人(1.2%)しかいない。このような極めて少数のケースを元に、「学力格差は挽回できる!」と反証の根拠にするのは無理がないだろうか(注4)。

 

賛否は別として、冒頭で紹介した大阪市のように、学校に成果の説明責任を求めようとする政策的動向は、歴史的には新しいことでも特別なことでもない。教育に市場原理を導入して、高い成果を目指すということは海外でも見られる。有名な例としては、アメリカではブッシュ政権下における「おちこぼれゼロ法」(No Child Left Behind Act=NCLB)である。

 

歴史的に、人々は社会問題の解決を過剰に学校教育へ期待し、「小手先の学校いじり」に熱中し、学校教育は社会問題の解決の「カギ」としての役割を押し付けられてきたのである(ラバリー 2010=2018)。

 

むろん、筆者は学校教育が無力だと主張したいのではない。学校教育に期待するからこそ、学校に出来ることと出来ないことを見極め、どのような条件がそろえば学校教育の効果が発揮されうるのかを考えたいのである。そのための真っ先に取るべき「最善策」が現場教師への査定を導入することなのかということを、本稿の図1~図3を見たうえで読者にも考えてみてほしい(注5)。

 

 

〈注〉

(1)文部科学省の全国学テはA問題とB問題に分かれている。A問題は、主として身につけた「知識」に関わる出題、B問題は、主として知識の「活用」に関わる出題である。

(2)JELSの詳細については、以下のウェブサイトを参照されたい。

http://www.li.ocha.ac.jp/ug/hss/edusci/mimizuka/JELS_HP/Welcome.html、2018年8月29日取得。

(3)最近では、日本財団によって「貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下する」という知見が発表されている。

https://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2017/img/92/1.pdf、2018年8月29日取得。

(4)データの詳細は、拙著(中西 2017)の50-63を参照されたい。

(5)例えば、教育と福祉に連携が必要なことは、過去の『シノドス』(https://synodos.jp/education/17471)において仁平典宏氏も論じているところである。

 

 

〈文献〉

ブルデュー・ピエール&ジャン・クロード・パスロン、1964=1997、『遺産相続者たち―学生と文化』藤原書店。

石田浩、2017、「格差の連鎖・蓄積と若者」石田浩編『格差の連鎖と若者1 教育とキャリア』勁草書房、pp.35-62。

ラバリー・デイヴィッド、2010=2018、『教育依存社会アメリカ―学校改革の大儀と現実』岩波書店。

中西啓喜、2017、『学力格差拡大の社会学―小中学生への追跡的学力調査結果が示すもの』東信堂。

お茶の水女子大学、2014、『平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究』。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

学力格差拡大の社会学的研究―小中学生への追跡的学力調査結果が示すもの

学力格差拡大の社会学的研究―小中学生への追跡的学力調査結果が示すもの書籍

作者中西 啓喜

発行東信堂

発売日2017年12月11日

カテゴリー単行本

ページ数176

ISBN479891438X

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