いじめを止めたい大人たちへ ―― 「ストップいじめ!ナビ」第二弾更新にあたり

不登校児童への対処が必要

 

 

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荻上 このグラフは不登校児童数の推移を表しています。いじめ報道が盛り上がるときというのは、いじめ自殺報道が盛り上がるときでもあります。その報道に引っ張られて、「いじめの最大のリスクは自殺である」という前提で議論してしまうことが多くあります。

 

しかし、実際のいじめでは、自殺につながるものよりも不登校につながるものの方が多い。毎年10万人程が不登校になっているという事実への対処をせずに、自殺を防止するためのいじめ対策だけが独り歩きすることは問題です。

 

「自殺するくらいならば、学校から逃げてもいい」という発想は重要ですが、不登校は不登校でまた、大きなリスクです。現実的に考えると、学校に行かなくなると履歴書に空白ができるので、就職などの面で大きなハンディキャップになります。「逃げてもいい環境」がなければ、そのセリフもまた、自己責任を押し付ける精神論になってしまう。

 

すべての生徒が適切に教育を受けられる環境を作るということ、学校を誰にとっても危険な場所ではない状態にすることが、当たり前のことではあるがベストだということは、忘れられてはいけないでしょう。

 

 

クラス空間のストレス度合がいじめに影響する

 

荻上 データが語ることは非常に多くありますが、すべては紹介しきれないので、次のデータで最後にしましょう。

 

先日、谷川弥一文科副大臣が「いじめ対策で武道のできる先生や警察OBを学校に雇おう」と発言したことが大きな話題になりました。この方向性が問題だということは、いくつかのデータからも言えることかと思います。

 

参考;「いじめ対策に武道家を」はどんな文脈で発言されたのか――文部科学副大臣・政務官の任命記者会見全文文字起こし(2012/12/27)

https://synodos.jp/education/806

 

まず前提として日本のいじめは、外国のいじめと比べると暴力系のいじめが相対的に少なく、代わりにコミュニケーション操作系のいじめの割合が多くあります。警察の早期介入は暴力系いじめにとっては有効な場面もありますが、コミュニケーション操作系のいじめの多くは、刑事罰化するというのが難しい。

 

警察OBを導入する話や、武道の先生云々という人は、報道された極端な暴力的いじめのイメージにひっぱられ過ぎていると思います。そもそも学校側が認知しきれていない実態があるなかでは、対処の仕様がありません。課題解決のポイントを間違えています。

 

いじめ対策には、「解決」と「予防」があります。そしていじめを減らすには、「予防」が重要となります。「解決」は、起きたことへの対処なので、「起きなくすること」とは別です。

 

その「予防」で着目されているのが、ストレス分析です。生徒が感じるストレスが大きい教室は、そうでない教室に比べて、いじめの件数が増加するため、いかにストレスをコントロールするかが重要となる。

 

 

被害加害経験別にみた「クラスの雰囲気」 「みんなと調子をあわせない」ときらわれると思っている人が多いか

被害加害経験別にみた「クラスの雰囲気」 「みんなと調子をあわせない」ときらわれると思っている人が多いか

 

たとえば、被害加害経験別に見たクラスの雰囲気というデータがあります。「みんなで調子を合わせないと嫌われる」と思っている人が多いクラスの方が、いじめ経験率が多いことがわかります。強い同調圧力や、「誰かの言うことが絶対だ」という抑圧があるクラスでは、いじめの被害および加害が非常に増えやすくなってしまうというデータです。

 

クラスのストレス度合が高いといじめが増え、ストレスの低いクラスだといじめは減る。だとしたら、「怖い武道の先生によって厳しく監視する」という対策は、生徒に同調圧力をかけ、ストレスを加えることですから、結果はどうなるか。加えて、「大人に見つからないようにしよう」と考える児童に対し、こうした「脅し」は有効か。こうしてみると、文科副大臣の発言は筋が悪い議論だとわかるでしょう。

 

日本でいじめが社会問題化して30年が経ちました。その間、専門家たちは手を打ってこなかったわけではありません。丹念なデータの蓄積によって、いじめの傾向がわかかってきてもいるのです。ですからいじめ対策をめぐる議論もあてずっぽうなものではなく、より現実的なものが必要とされます。

 

しかしそれでも、まだまだデータは不足しています。国や自治体は、継続的に、有意義なデータを取り続けてほしい。その場だけでは目立てる、思いつきのいじめ対策を掲げるのではなく、継続的に意義のある、そして効果の確かないじめ対策こそが必要です。

 

話題になった今だけ、突貫工事的なアンケートを行うのではなく、定期的に匿名のアンケートを行い、集計する。そして個人面談を行うことによって、その学校にどういった対策が効果的なのかをきちんと考えていくことが必要です。

 

学校によっては、校長先生に直接連絡をとれるアドレスを生徒全員に伝えるとか、目安箱を作ってサービスの不満を投稿できるシステムを作るという対策を行っているところもありますね。いろいろな対策のメソッドもあるので、それらの効果検証とメニュー化も重要です。

 

いじめに関しては多くの統計があり、また学校ごとにさまざまないじめ対策の実践例があります。もちろん、わかからないことは多くありますし、わかかっていれば解決できるというわけでもありません。

 

しかし、統計を用いることによって、テレビや新聞で偉そうに精神論を語っている人たちが間違っているということは少なくともわかります。ダメないじめ論議を仕分けしていくことが、より良いいじめ対策の構築につながると思いますので、どんどんとデータを更新しつつ、議論し続けていく必要があります。

 

「ストップいじめ!ナビ」統計データページ;http://stopijime.jp/data/

 

 

 

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