TPPを考える

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Q&A形式で考える-TPPはどこまで危険なのか?

 

さて、以上の点を考慮した上で、筆者の誤解・無理解を恐れずに、個々の批判点についてQ&A方式でまとめてみましょう。

 

なお、以下のQ&Aにつきましては、政府公表の『TPP協定交渉の概括的現状』(http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20111014/20111014_2.pdf)、『TPP協定交渉の分野別状況』(http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20111014/20111021_1.pdf)、キヤノングローバル戦略研究所「TPPの論点」(TPP研究会報告書最終版)(http://www.canon-igs.org/research_papers/macroeconomics/20111026_1137.html)を主に参照しています。詳細についてはこちらもあわせてご参照下さい。

 

 

Q. TPPに参加することで、わが国の社会保障制度が犯されるのか?

 

TPPに参加することでわが国の社会保障制度が犯されることになるという可能性はかなり低いと考えられます。まず理由として、WTOやTPP交渉参加国が過去締結したFTAにおいても、一国の社会保障制度に踏み込んだ事例はありません。そして経済統合の度合いがTPPよりも高いEUでも社会保障制度を共通化するという試みはありません。各国の専管事項です。これらの点からも反対論として指摘される国民皆保険制度が犯されるのではないかという懸念は、ほぼありえないと考えられます。

 

 

Q. TPPに参加することで、混合診療の全面解禁や公的医療保険の安全性低下、株式会社の医療機関経営の参入を通じた患者の不利益拡大、医師不足の拡大・地域医療の崩壊といった現象が生じるのか?

 

 

医療・保険についてTPPで話題になるのは医療・保険サービス業の自由化です。サービス協定で約束されるのは、一国の国内規制を前提とした最恵国待遇や内外無差別原則にもとづく約束です。よって自由化の約束により日本の医療制度が変更されるとは考えにくいといえるでしょう。

 

医療制度の国内規制そのものを対象にするのであれば、TPPに医療章が別途設けられることになるでしょう。ただし現状の情報からはそうはなっていません。もちろん、TPPを契機として、(条項として明記されていないにも関わらず)指摘されている変化が生じる可能性はあります。その場合はわが国全体にとり不利益である規制緩和には反対することが必要ですが、だからといって懸念があるからTPPに反対というのは違うのではないでしょうか。

 

 

Q. TPPに参加することで、遺伝子組み換え食品につき、日本の食品安全規制が米国基準に引き下げられるのか?

 

SPS協定、TBT・ガット協定にもとづいて遺伝子組み換え食品の調和が求められているのは、安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品を流通させてもよいのかという点についてではなく、(安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品の流通は禁止することを前提に)遺伝子組み換え食品の表示の義務づけをどの段階までの食品にするのかという点についてです。

 

米国は遺伝子組み換え食品の表示をするのはコストがかかるという立場ですが、日本は遺伝子組み換え食品に遺伝子組み換え大豆等のDNAが残存している場合には表記をするというもの、EUはDNAが残存していないしょうゆ等の製品ついても表記すべきというものです。日本側の主張については、APECでも米国の主張は退けられており、TPP交渉参加国の豪州・NZも反対しています。少なくともTPPに参加することで即、遺伝子組み換え食品について日本の食品安全規制が米国基準に引き下げられることはないと言えます。

 

 

Q. TPPに参加することで、政府調達につき、日本の公共事業が海外事業者に席巻されるのか?

 

現状、TPP参加国と比較したわが国の政府調達の自由化度合いは進んでいます。たとえばアメリカは米韓FTAで地方政府機関を政府調達の範囲から除外していますが、日本はWTOが定める政府調達協定(GPA)のなかで、米国以上の開放をすでに実現しています。TPPによって政府調達市場の自由化が促進されるのは、わが国ではなく、米国をはじめとするTPP交渉国です。加えてバイアメリカン条項の存在から一方的に日本が不利益を被るという指摘もありますが、これは先の多国間協定、さらに協定締結国は等しく同じ条件の自由化にコミットするという点からも誤りです。

 

 

Q. TPPに参加することで、わが国政府が外国企業から訴えられるケースが多くなるのか?

 

ISDS条項という紛争処理条項にもとづいて、TPP締結によってわが国政府が外国企業から訴えられるというケースが多くなるという批判が展開されることがあります。

 

まずすでにわが国は25を超える投資協定を結んでいますが、わが国が訴えられた例は過去にありません。TPPを締結することで過去にはない状況が生じるというのは、可能性としてはありうるものの批判としては弱いでしょう。TPP、とくに米国企業が入ることでわが国が訴えられるという指摘と、企業に対する具体的な措置が恣意的・不透明もしくは差別的であったために国が訴えられたという事例との差を考慮すべきではないでしょうか。

 

TPPの議論においては、ISDS条項を入れることにつき、豪州は反対の姿勢を示しているといわれています。協定ですので、日本企業が訴えられる可能性のみならず、他国企業も訴えられる可能性があるのですが、ISDSにもとづく懸念は自国のデメリットを過度に強調しているようにも見受けられます。

 

 

Q. TPPに参加することで、労働基準の緩和(ダウングレード)が生じるのか?

 

実態は寧ろ逆で、ソーシャルダンピング(低賃金・児童労働といった劣悪な労働環境を利用して企業がコスト削減を行い競争力を高める事)の懸念を米国は表明しています。TPPに労働・環境章が入っているのは、労働の規制緩和ではなく、途上国の労働規制強化を求めていることに留意すべきです。

 

同様の批判として、単純労働者の流入が進むという議論ありますが、過去単純労働者の国際的な移動に反対してきたのは米国です。医師資格の相互承認についても途上国まで参加するTPPで、資格統一を図ろうという議論が出る可能性はかぎりなく低いでしょう。仮に医師資格が統一されるとして、米国医師が日本で働きたいと考える可能性も低いのではないでしょうか。というのは、わが国の労働環境は米国と比較してよいとはいえないと考えられるためです。

 

 

Q. TPPに参加することで、わが国の環境基準は低下するのか?

 

環境についてもわが国はすでにTPP協定参加国と比較して高いレベルの環境規制にコミットしており、米国が求めているのは、環境規制の緩和ではなく規制強化であることを念頭におくべきでしょう。なお環境章そのものについて途上国は反対しているという情報もあります。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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