セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編

Q4 とはいえ、いままで当事者に会ったことがないように思いますが。

 

セクシュアル・マイノリティと聞くと、よく「そんな人には会ったことがない」という反応が返ってくることがあります。実際には、上にのべたように、同性に魅かれる人たちは人口の3~5%は存在しているので、みなさんが「LGBTの人たちに会ったことがない」ということはまず想定しづらく、正確には「LGBTだとカミングアウトしている人には」会ったことがないというのが実態だろうと思われます。

 

「同性に魅かれる人は、左利きの人と同じくらいの割合で存在している」という話をしました。「左利きの知り合いが誰もいない」という人は、まずめったにいないだろうと思われますが、それに対して、「LGBTの知り合いが誰もいない」と思っている方が多いのは、LGBTのことは本人が話さないかぎり、外見では分からないことが多いからです。

 

そして、当事者の側も、まだまだ誤解や偏見のある社会に生きているなかで、自分の生活を守るために、そう簡単には自分の「性のあり方」について周りに話すことができない状況に立たされています。自分の本来のあり方を話さないことで感じるストレスや不都合もあれば、話したことによって不利益があったり、たくさんの説明をしなくてはいけなかったりする現実もあり、ほとんどの当事者は「話せる人にだけ」「リスクの少ない人にだけ」「やむをえないときにだけ」自分のことを話そうと考えるか、あるいは黙っていようと思わされるような日常を生きています。

 

「セクシュアル・マイノリティの人たちは身近にいない」という考え方は、しばしば「セクシュアル・マイノリティの人たちは、とても変わっている人たちに違いない」という誤解にもつながります。つまり「あいつらは」、過剰に「性的」だとか、「テレビのなかだけの話」「海外の話」「自分たちとは関係ないところで生きている人たち」というようなイメージにもつながってしまいます。

 

「誰もが日常的に接しているような、どんな場所にもいる人たちの話」だと社会の誤解を改めていくためには、「生活の場で」自分のことを話せる当事者が増えていくことが不可欠です。しかしその一方で、当事者が自分のことを話すためには、社会の認識が変わる必要があります。「ニワトリが先か、卵が先か」という議論に似ている面がありますが、社会の側が「話しやすい環境づくり」を整備していくことが、わたしたち全員にできることなのではないでしょうか。

 

 

Q5 LGBTのことを知るきっかけになるような漫画や映画、本はありますか?

 

いろいろな漫画や映画、本で、セクシュアル・マイノリティは描かれています。そのなかには、「実際にはちょっとズレている」ものも多くありますが、なかなかうまく実態を描いているものも最近はたくさんあります。

 

漫画では、現在「週刊モーニング」で連載中の、よしながふみ作『きのう何食べた?』(モーニングKC)は40代ゲイカップルの日常をよく描いており、出てくる料理もシンプルながら美味しそうなので、初めての方にも非常におすすめです。また、志村貴子作『放浪息子』(BEAMS COMICS) は、自分の「性のあり方」に揺らぐ思春期の少年少女をとてもうまく描写している名作です。当事者によるコミック・エッセイでは、竹内佐千子作『ハニー&ハニー 女の子どうしのラブ・カップル』(メディアファクトリー)は、女の子どうしのカップルの日常をゆるく描いており、「なるほど」と思いながら楽しめる1冊です。

 

映画では、TSUTAYAなどで借りられるなかでは、『MILK』と『ハッシュ!』がお勧めです。ガス・ヴァン・サント監督の『MILK』は、1970年代にゲイを公言して米サンフランシスコの公職に選ばれたハーヴェイ・ミルクの生涯を描いた映画で、2009年に主演のショーン・ペンがアカデミー主演男優賞をとったことでも注目されました。社会のなかで抑圧されながらも、人間が人間として生きていくために立ち上がったミルクと仲間たちの力強さと、自らが暗殺されることを予感し、その思いをテープに吹き込みつづけた彼の晩年の姿には、セクシュアル・マイノリティというテーマを超えて、わたしたちの心を揺さぶります。

 

橋口亮輔監督の『ハッシュ!』は、2001年に公開されてキネマ旬法ベストテン第2位となった日本の映画です。子どもがほしい独身女性と、ゲイのカップルとの日常を細かく描いており、生活のリアリティがじわじわと伝わってくる一本です。

 

また、昨今では国内各地でセクシュアル・マイノリティを扱った映画祭が数多く開かれています。東京では「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」、関西では「関西クイア映画祭」、その他にも青森や香川、愛媛、福岡などで同様の映画祭が行われており、多くの映画ファンからの支持を得ています。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

 

書籍は、多数出版されています。大きな書店で社会学や女性学のコーナーを見てみると、面白そうな本が多数あるかと思います。ここでは、セクシュアル・マイノリティのことをあまり知らない方が最初に出会う本という設定で、2冊をご紹介します。まずは太田出版から出ている『LGBT BOOK』。こちらはNHK教育テレビの「ハートをつなごう」という番組を書籍化したものですが、当事者や家族のエピソードが豊富で、写真も多いことから親しみやすいと思います。リリーフランキーさんや石田衣良さんからも文章が寄せられています。砂川秀樹・RYOJI編著『カミングアウト・レターズ』(太郎次郎社エディタス)は、レズビアンやゲイの子とその親、生徒と教師の往復書簡を集めたもので、家族や身近な人への告白を通じて描かれる葛藤と受容をめぐるやりとりが描かれています。電車のなかで読んでいて、思いがけず涙がこぼれた方も多いとか。【次ページにつづく】

 

 

 

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