防災教育の最前線――「自ら考える」防災訓練の試み

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「自ら考える」防災訓練

 

先に述べたような防災訓練を筆者は、従来の防災訓練のアンチテーゼとして、「自ら考える」防災訓練と呼びたい。特定の標語を丸暗記させ、繰り返すことにより身体に覚え込ませる従来の防災訓練は、状況が変化した途端に応用が効かない。

 

筆者は大学生を対象とした授業の最初に、必ず「グラッと来たら」と尋ねることにしている。ほぼ例外なく皆「机の下に隠れる」と答え、「近くに机が無かったら」と再度尋ねると黙り込む学生を何人も見てきた。こうした大学生も、ある意味従来の防災訓練を徹底した結果であるわけだが、この延長に文部科学省の有識者会議が提言している「主体的な行動」や「危険を予測し、回避する能力を養う」ことにつながらないのは明らかであろう。

 

筆者が関わった小中学校では、校長・教頭先生方の積極的な協力もあり、より実践的な訓練が行われるようになっている。繰り返し行う事により、生徒・児童の判断力や行動力は確実に高まることが確認された。保健室に隠れる子どもや負傷した子ども(写真4)を準備して、安否確認や救助体制の検証が行われ、校舎内に児童が残っていないことを確認する態勢ができていないことが判明し、マニュアルの修正につながった例もあった。校長・教頭先生以外の教員には一切予告せずシナリオも知らせない、教員自身が本気で取り組む、そういった防災訓練が徐々に浸透している。

 

 

(写真4 休み時間:避難途中に階段で転倒し歩けない児童(小学校D))

(写真4 休み時間:避難途中に階段で転倒し歩けない児童(小学校D))

 

 

「おはしも」については、しゃべらないことが目的化してはいけないことが理解され、必要な声がけは積極的に行うべきと指導方法も変わった。ある中学校では、場合によっては走ることを認めても良いのではという意見が出た。また、訓練後に実施してもらった振り返りシートや訓練映像による事後指導についても、その効果が教員間で認識されるようになった。

 

訓練の企画については、校長・教頭先生が毎回担当するのでは無く、持ち回りにした方が良いといった前向きな意見や、教員主導の防災訓練から児童・生徒の主体性を高める訓練方法への移行について議論されるなど、「課題を出す」訓練の重要性が理解され、学校として防災訓練のPDCAサイクルが確立しつつある。

 

 

おわりに

 

本稿では「自ら考える」防災訓練について筆者の取り組みを紹介した。大阪教育大学付属池田小学校の事件以降、事件や不祥事が発生する度に、学校現場には分厚いマニュアルが作成され、内容はどんどん複雑になり、標語が増える結果となっている。皮肉なことは、複雑なマニュアルを作れば作るほど、本来の目的である「身の安全を守ること」が見落とされ、応用が効かない生徒・児童を生み出す状況に陥ってはいないだろうか。東日本大震災において、迅速な避難の判断ができなかったために児童・教職員ら84人が犠牲となった大川小学校の悲劇は、学校教育現場における問題の縮図のように筆者は感じている。

 

忙しい学校現場において、新しい試みを行うのは容易ではない。まずは毎年実施している防災訓練を手始めとして、実践的な内容に変えていくことを提案したい。イベント型の訓練を行っている小中学校は少なくないが、本稿で紹介した防災訓練は、実は緊急地震速報が導入されていなくても実施可能である。「自ら考える」防災訓練の取り組みが広がることを期待している。

 

繰り返しになるが、「身の安全を守る」ことこそ最優先させるべきことであり、状況に応じて「身の安全を守る」行動は1つではない。過剰なマニュアル整備や、特定の場面における行動を指南する標語の徹底は、かえって状況に応じた臨機応変な対応を困難にさせる危険がある。

 

学校で地震に遭遇する確率は、休日や夏休みなどは学校に居ないと仮定すると、わずか2割に過ぎない。授業中に限定すればもっと低くなる。だからこそ、いつどこで地震に遭遇しても慌てず、的確な行動ができるような心構えと日頃の訓練が大切なのである。

 

最後に、筆者に防災教育に関わる貴重な機会を提供いただいた山梨県教育委員会、甲府市教育委員会、貢川小学校、富竹中学校、道志村教育委員会、道志小学校、道志中学校、身延町教育委員会、下部小学校、下部中学校、忍野村教育委員会、忍野小学校、忍野中学校の関係者の皆様に心より感謝申し上げる。

 

(本記事は3月15日配信α-synodos vol.144「3.11を振り返る(後編)」からの転載記事です。ご購読はこちら → https://synodos.jp/a-synodos

 

 

 

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