新潟県における広域避難の現状と今後の課題

2011年3月11日におきた東日本大震災、そしてそれに伴う東京電力福島第一原発事故によって、多くの人々が新潟県内に避難をしている。また新潟県は福島県に隣接し、早くから避難者の受入体制が整っていたことなどから、とくに福島県からの避難者が多い。そこで本稿では、2012年8月現在の、新潟県における広域避難の現状と今後の課題について報告したい。

 

 

新潟県における広域避難の現状

 

2012年8月3日の新潟県広域支援対策課の発表 1)によると、避難者数は6,413名(男性2,896名、女性3,517名)である。年齢構成は、未就学者数(6歳未満)1,126名、就学者数(6歳以上15歳未満)1,119名、高校生相当数(15歳以上18歳未満)158名、就労者等数(18歳以上65歳未満)3,484名、高齢者数(65歳以上)526名。男女の割合では女性が多く、年齢構成では就労者等がもっとも多く、また子どもが多いこと、高齢者が比較的少ないことがわかる。住所構成では福島県6,283名、宮城県107名、茨城県20名、岩手県3名となっている。

 

福島県について詳しくみていくと、避難者の住所構成は、警戒等区域内の市町村からが3,134名、警戒等区域外の市町村からが3,149名であり、警戒等区域内と警戒等区域外の避難者数がほぼ同数であることがわかる。

 

ここで警戒等区域内とされている市町村は、「市区内全域または一部が原子力発電所事故に伴う警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域に設定されている(または設定されたことのある)市町村 1)」で、南相馬市、双葉郡8町村、田村市、川俣町、飯館村が含まれる。また、警戒等区域外は、それ以外の市町村で、福島市、郡山市、いわき市等が含まれる。

 

受入市町村別避難者数では、避難者数が多い順に、①新潟市2,456名、②柏崎市1,262名、③長岡市484名となっている。なお、新潟県内30市町村のうち、弥彦村を除く29市町村が、避難者を受け入れている。

 

避難者数が多い新潟市と柏崎市について、さらに詳しくみていくと、新潟市の避難者数は2,456名、内訳は、警戒等区域内520名、警戒等区域外1,936名であり、圧倒的に警戒等区域外からの避難者が多い。これは、福島市434名、郡山市950名等、比較的都市部からの避難者が多いことから、新潟県内の都市部でも福島県にもっとも近い新潟市に、警戒等区域外からの避難が多くなったと推測できる。

 

次に、柏崎市の避難者数は1,262名、内訳は、警戒等区域内1,173名、警戒等区域外89名であり、こちらは新潟市とは逆に、圧倒的に警戒等区域内からの避難者が多い。これは、浪江町335名、大熊町241名、富岡町202名等、福島第一原発が立地しているか、または立地町に近接している市町村からの避難が多いことから、原発関係者であったり、仕事の関係で昔住んでいたことがあったり、親戚縁者を頼って等の理由によって、柏崎市に警戒等区域内からの避難が多くなったと推測できる。

 

 

避難者支援の現状

 

次いで避難者支援の現状だが、2012年6月に新潟県広域支援対策課が県内市町村に対して行った調査2)で、避難者を受け入れているすべての市町村で、何らかの支援が行われていることがわかった。具体的には、すべての市町村で郵送、電話、メール等による避難者向けの情報提供が行われている。また、避難者数が比較的多い市町村のほとんどで、①交流拠点の設置(15市町村19施設)、②見守りを行う臨時職員の雇用(11市町村)を行っている。その他、交流イベントの開催、市内循環バスの運行、保健師の巡回等も行われている。

 

そうしたなか、2011年11月に、東日本大震災復興支援協議会(以下、協議会)の主催により、第一回新潟県避難者支援連絡会議(以下、連絡会議)が開催された。そこで、避難者を受け入れている22市町村、県内で支援活動を行うNPO等14団体、新潟県関係者、福島県関係者等が集まり、避難者支援についての情報交換等が行われた。

 

この協議会は、新潟県広域支援対策課と㈳中越防災安全推進機構が事務局となり、市町村並びに各種民間支援団体によって主体的に行われている支援活動の後方支援を行うために、また官民・団体間連携による支援活動の促進のために設置された。その活動は、①新潟県避難者支援連絡会議の開催(情報交換、連携促進)、②市町村の枠を超えた全県単位での交流イベントの開催、③福島県、国、全国の各種民間支援団体との連携等である。

 

2012年4月に開催された第二回連絡会議では、2011年度の活動を振り返るとともに、2012年度の支援活動の方向性が確認された。①継続的な交流促進と避難者の自立促進、②避難者の孤立を防ぐための町内会、民生委員等を通じてのゆるやかな見守りの推進、③市町村、団体間の課題の共有とその課題の国、福島県へのつなぎなどである。また、福島県からの避難者の状況は、その心理状態および避難元地域によって一様ではないこと、そして、一様ではない避難者それぞれに合った支援が求められており、これにもとづいた支援を行っていくことが確認された。

 

 

避難者の状況

 

時間が経過するにつれ、新潟市の交流施設においては、警戒等区域内の避難者が交流施設から足が遠のく状況が生じた。また反対に、柏崎市の交流施設においては、警戒等区域外からの避難者が交流施設から足が遠のく状況が生まれた。

 

警戒区域などの区域設定による「物理的に戻れるか、戻れないか」、そして、「賠償があるか、ないか」によって、当初は同じ境遇(福島県から避難してきている)にあった避難者が、それぞれの置かれた状況の違いから、話がかみ合わなくなっていったからである。

 

そして、新潟市では多数派をしめる警戒等区域外の避難者が、柏崎市では多数派をしめる警戒等区域内の避難者が、それぞれ交流施設の中心的な避難者となるにつれ、もう一方の避難者たちの足が遠のく状況が生まれたのである。また、警戒等区域外、警戒等区域内の避難者同志であっても、地元に戻りたいと考えている人と戻りたくないと考えている人との間にも、距離感がでてきている。

 

このような状況が顕在化したことから、協議会では、避難者の対立、支援のミスマッチを防ぐために、避難者の状況を整理した(図1)。避難者の心理状態(戻りたい、戻りたくない)を縦軸に、避難元地域の警戒区域等の設定状況(戻れる、戻れない)を横軸にとり、避難者の置かれている状況を大きく4つに区分したのである。

 

図の右上には「心理的には戻りたいけど、現実には戻れない」という状況、右下には「心理的に戻りたくないし、現実にも戻れない」という状況、左下には「戻れる状況にはあるが、心理的に戻るつもりがない」という状況、左上には「戻れる状況にはあるが、心理的にはいつかは戻りたいけど、今は戻りたくない」という状況が、それぞれあてはまる。

 

 

図 1 避難者の状況

図 1 避難者の状況

 

 

この4つの状況は、横方向と縦方向の両方で対立構造が生じやすい。避難者支援を行っていくうえでは、避難者間で対立構造が生じやすいことを事前に理解しておくことが重要となってくる。また、県外避難者と福島県に残っている人たちとの対立構造もあることも忘れてはならない。

 

加えて、今後進む長期帰宅困難地域等の線引きの確定によって、縦軸が右方向にずれていくこととなる。すなわち、これまで帰宅困難とされていた地域が帰宅可能となり、その地域からの避難者が警戒等区域外からの避難者と同じ立場になってくる。また、警戒等区域内の同じ市町村の避難者間でも、これまでは縦方向のみの対立構造だったものに、横方向の対立構造も加わってくる。これまでと異なった対立構造が生じてくることが予測できる。

 

 

 

シノドスのサポーターになっていただけませんか?

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「スノーデンと監視社会の現在」塚越健司

 

 

無題

 

vol.230 日常の語りに耳を澄ます 

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」

 

vol.229 平和への道を再考する 

・伊藤剛氏インタビュー「戦争を身近に捉えるために」

・【国際連合 Q&A】清水奈名子(解説)「21世紀、国連の展望を再考する」

・【あの事件・あの出来事を振り返る】桃井治郎「テロリズムに抗する思想――アルジェリア人質事件に学ぶ」

・末近 浩太「学び直しの5冊<中東>」

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.230 特集:日常の語りに耳を澄ます

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」