2013.05.13

なぜ除染ボランティアに参加し、そしてなにを思うのか

除染ボランティア座談会

社会 #震災復興#被ばく#除染ボランティア#常円寺

荻上 昨年末、特定のNPOに所属せずに個人でさまざまな支援活動に参加しているボランティアのみなさんにお集まりいただき、ボランティアの現状や課題についてお話いただきました(「働きながらできるボランティア支援 個人ボランティア座談会 https://synodos.jp/fukkou/3593 」)。

今日はボランティア活動のなかでも、除染作業をされているみなさんにお集まりいただき、除染ボランティアの課題や成果についてお話いただきたいと思っています。

ボランティアに参加しない言い訳ができなくなった

荻上 まずはみなさんの自己紹介とボランティアに参加されたきっかけをお聞かせください。

古口 古口です。前回の座談会にも参加させていただきました。前回お話したとおり、宮城・岩手のボランティアに参加し続けてきたのですが、まだ人手が足りないところがたくさんあるので、むしろ人が避けている場所に行かなくちゃという想いが募り、除染ボランティアに参加するようになりました。

小林 小林です。以前はイギリスのコートルズ社の日本法人で働いていました。日本でいうと東レみたいな会社です。いまは退職して年金暮らしです。

今日の座談会に声をかけてくださった古口さんとはちょうど1年前の2012年1月くらいに、福島県にある常円寺が中心となり活動している「花に願いを」の除染活動で知り合いました。常円寺はわたしたちが参加する前は、ひまわりをたくさん植えて吸線作用で除染ができるかどうかを試みるプロジェクトを行っていたようです。

わたしが参加するきっかけとなったのもそうですが、現在の除染ボランティアが始まってから人が集まり出しました。線量の高いホットスポットが点在していたので、物理的に取り除こうとすれば人が必要になるので募集をかけたのだと思います。

荻上 いままでにボランティアに参加されたご経験はありますか?

小林 東日本大震災以前に参加したことはありませんが、常円寺の除染ボランティアに参加する以前は、月に1度、長くて1週間ほど、気仙沼市や南三陸地方、大槌町、釜石市、陸前高田市などで瓦礫撤去のボランティアをしていました。

今回、ボランティアに参加するきっかけとなったのは2011年の5月頃にとある新聞記事を読んだことです。その記事には、東北三県に集まったボランティアは当時のべ30万人。しかし阪神淡路大震災では2、3ヵ月後には100万人集まっていたと書いてありました。あれだけ広い地域が被害に遭ったのに、たったこれしか行っていないなんて、と愕然としたんです。初めて参加したのはたしか2011年6月です。

荻上 ご自身が被災された経験はありますか?

小林 いえ、ありません。

阪神淡路大震災のときは会社を預かる身だったので、持ち場を離れるわけにもいかず。なにもできなくて申し訳ない思いをしていました。良心の呵責といいますか……。いまは、言ってみればもうお役御免の立場ですし、以前と違って行かないことに言い訳もできないので。

荻上 なにか募集を見てボランティアに参加されたのでしょうか?

小林 インターネットでボランティアを探していて、気仙沼市社会福祉協議会の募集を見つけたんです。初めて現地に入ったときはやはり圧倒されましたね。大変なことになっていることを実感しました。

プロボノとしてボランティアに参加する

荻上 ありがとうございます。詳しいお話はのちほどお聞かせください。次に八下田さんお願いします。

八下田 八下田です。普段は横浜の小さなベンチャー企業で、カーナビなどの電子機器の企画・開発を行っています。

わたしは大学の原子核工学科で修士を取得しています。仕事があるためになかなか遠くまでボランティアに行けず、震災から一ヶ月くらいはインターネットに原子力事故・放射線に関する書き込みをしていました。初めてボランティアに行ったのは2012年4月1日かな。それからはほぼ毎月行っています。

古口 八下田さんとは2012年の夏ごろに常円寺で出会ったんです。住職に連れられてご飯に行ったときにちょうど前の席にいらっしゃって。放射能や原子力にものすごく詳しかったので驚きました。南相馬など福島でお会いするボランティアさんのなかには、少なからず原発等に関して正確でない情報に踊らされたり、扇動屋に振り回されてしまう方がいました。八下田さんみたいにきちんとした専門知識の裏づけがある方を何人かお友だちに持つと、わたしのような専門外でもリテラシーがつきますね。

荻上 常円寺の活動はなにで知ったのでしょうか?

八下田 インターネットですね。仕事が落ち着いた頃に、大学で専攻していた分野だし、なにかできることがあるだろうと思って調べていたんです。

荻上 八下田さんは、いわゆる「プロボノ」にあたると思いますが、はじめて常円寺で除染ボランティアを行ったとき、放射線の測定方法など、プロの目からみてどのように映りましたか?

八下田 除染方法はどこも試行錯誤です。経験がありませんからね。除染活動を行っているところはいくつか見てきましたが常円寺が一番しっかりしていたと思います。スタッフ・常連さんによる指導や機材もそろっていましたし。

荻上 他にプロボノの方はいらっしゃいましたか?

八下田 原発の設計に従事していた人、国の機関や大学の研究者もいました。専門家でなくても、放射線に対する防護の三原則「短時間で済ませること、線源から離れること、遮蔽すること」を考えながら作業している方もいたので、放射線に関する知識を持っている方は複数いたようですね。

八下田好一さん(51歳・左)と古口正康さん(38歳)
八下田好一さん(51歳・左)と古口正康さん(38歳)

原発問題に対するメディアや行政への不満

荻上 小林さんは東日本大震災以前に、放射能物質や原発に対する知識や関心はお持ちでしたか?

小林 八下田さんほどではありませんが、伊方原発計画に対する1970年代末の反原発訴訟をきっかけに関心を持ち、原発に関連する本は読んでいました。その後、チェルノブイリ原発事故が起き、国内でも国際的にも反原発運動が盛り上がった。わたしはそんな世代の人間です。

だから今回の原発事故に対するメディアの不勉強さには憤りを感じていました。反原発運動を見ていながら、まるっきり素人のように振る舞っていた。あの時の経験と知識はどこにいってしまったんだ、と。

八下田 報道だけでなく意味が良くわからない、という点で政府の発表自体もおかしかったように思いますね。大学の研究室のメーリングリストでは、どの物質が検出されているのかが話題になっていました。ヨウ素やストロンチウムなど核種ごとに危険度は違いますから、シーベルトで一律に発表されても困る。

荻上 お二人とも、原発問題に対する行政やメディアの姿勢に不満があったわけですね。

八下田 行政に不満があったと言っていいのかはわかりませんね。当時、行政はなにも想定していなかったと思いますし。報道の方も行政の間違いに何も修正しようとしていなかったし、間違った解説をしていたところもありました。

小林 わたしは明確に反原発なので不満はありましたよ。

荻上 反原発への意識は除染ボランティアへのモチベーションと一致していますか。

小林 あまり関係ないです。年寄りが普通のボランティアで足手まといになるくらいなら、年齢が功を奏する除染ボランティアに、と思ってシフトしたところがあります。

小林伸吉さん(64歳)
小林伸吉さん(64歳)

他のボランティアとの違い

荻上 瓦礫の処理と除染は、同じボランティアと言ってもさまざまな点で違いがあると思いますが、いかがお考えでしょうか。

古口 やはり放射能の問題ですよね。わたしは被曝しようがしまいが気にせず気持ちだけでやっていますが、将来なにを言われるかわからないので、それを考えると心配にはなります。

わたしはいまバセドウ病という甲状腺の病気でクスリを飲んでいます。甲状腺ということですぐに「被曝しすぎたからじゃないか?」と根拠もなく関連づけられてしまうこともあり困ってしまいます……もちろんバセドウ病は被曝とは無関係ですが。

八下田 わたしはつねに線量計を持ち歩いているようにしています。

小林 わたしも同じものを持っていますね。

荻上 古口さんは持っていますか?

古口 わたしは持っていないです。線量計って高額ですよね……。

小林 古口さんのような若い人こそ持つべきだと思うよ。あなたが被曝して健康を害したらみんないろいろ考えちゃう。低線量でもその影響は心配です。余命が長く、結婚、子づくりなどのイベントを控える若手はより慎重であるべきです。

八下田 自己責任論にしたくないけれど、自己責任にせざるを得ない状況にあるわけですから、線量計はそれぞれの人が意識して持っているべきだと思いますね。

荻上 それ以外に、他のボランティアとの違いはありますか?

古口 年配の方が多いですね。あと小林さんのように他の地域で活動されていた方と八下田さんのように除染ボランティアオンリーの方と、参加者に2パターンあることでしょうか。

荻上 八下田さんは、除染以外のボランティアに参加されていないのでしょうか。

八下田 わたしがボランティアに参加できるようになったときには、すでに瓦礫撤去などがかなり進んでいたんです。それにわたしは休日しかボランティアに行けないので、宮城や岩手は遠くて効率的じゃないと思いまして。

荻上 参加する時期によって、どの作業に携わるか違いが出るんですね。いまは、除染ボランティアは人手不足に陥っていませんか?

古口 常円寺さんに関して言えば、わたしが行き始めた去年の1月頃はそれほど多くはいませんでしたね。でも少しずつ話題になって、2012年のゴールデンウィークあたりからはキャパがいっぱいになるほど人が集まるようになりました。

他の地域が落ち着いてきて、新たな活動地として福島に来られる方がいましたし、2011年は放射能が怖くて福島に入らずにいた人が、徐々に周りが行き始めるのをみて福島に入った人もいるみたいです。

小林 他のボランティアと違う点といえば、自主規制することが多いこともあげられるでしょう。除染ボランティアの場合、目に見えない放射能が相手であり、行政や地元の皆さんとのデリケートな関係があり、団体が決めている方針と手法に従って作業しなくてはいけないので、自己裁量でできる部分が小さいんですよね。

荻上 参加するハードルは高いのでしょうか?

小林 そうは思いませんね。

ただ年齢のハードルはあります。仮置き場は線量が高くて、半日で5マイクロシーベルトにもなるので、若い人には計測など、より安全な作業を担当してもらって、年齢の高い人が仮置き場の作業のようにより被曝機会の多い作業を担当するようになっています。われわれも仮置き場での作業はあまり嬉しくないんです。被曝のリスクというよりは、仮置き場での作業はかなりキツイので(笑)。

除染の方法論、避難の権利

荻上 反原発の人のなかでも、除染ボランティアに対する評価はわかれていますよね。除染作業を批判する人もいます。そうした批判を受けたことはありますか?

古口 わたしはSNSで「ボランティアで除染すること自体ありえない」「あなたのやっていることは福島への裏切りだ」などかなり厳しいご批判をいただいています。

小林 周りに反原発・脱原発の人がたくさんいるわけでもないので、直接言われたことはありませんが、そういう批判があることは知っています。その点は大きな論点だと思います。

もう少し絞ってお話をすると、除染作業に空間線量を下げる効果があるかというと、現実的ではないと思っています。除染作業で根本的な解決ができるとは考えていません。福島市が行っている放射線量の定点計測ではおおむね0.8~0.9マイクロシーベルトですよね。わたしが福島に行くようになってから自分で計測してみても少なくとも0.7マイクロシーベルトくらい。年間1ミリシーベルトの追加線量が限度と言われるなかで、この値がどれくらい危険なのかわたしにはわかりませんが、少なくとも自分の娘には住んでほしくないと思います。

ただ、その土地に住む人々のなかには、住みつづけたいと思っている、あるいは住まざるをえない人がいるわけですよね。いま居る人々は住むと決めている。そしてその土地には、子どもが普段通るような道端にホットスポットがある可能性がある。

「花に願いを」では、地表面3マイクロシーベルト以上をホットスポットにしようと決めて、人が住んでいる地域から遠ざけようと除染活動を行っています。少なくとも好奇心旺盛で身長が低く地面に近い子どもたちが、普段通るような道端にホットスポットがあるのはよくない。放射性物質を吸い込んで内部被曝する恐れも考えられますから。わたしはこの点に関しては効果があると思っています。

荻上 ボランティア以外にも、ゼネコンによる除染もありますね。「ゼネコン除染」の不備を批判するような記事もでていますが、どう映りますか。

小林 複雑な気持ちです。除染すれば空間線量が下がると住民の方は期待している。でも除染作業にどれだけのコストがかかり、どのくらい空間線量が下がっているかは明らかにされていない。今後も空間線量を下げるために除染作業をするのであれば、この部分を明らかにしなくてはいけないでしょう。

結果次第では行政が大きな決断をしなくてはいけません。どこからどこまでが住んでいいのか、数値の線引きをする必要がでてきますから。

八下田 そもそも年間1ミリシーベルトという基準は平常時のものですよね。広島市や長崎市、チェルノブイリの例を見る限り、疫学的には20~100ミリシーベルトが基準になる、とされています。安全基準は段階的に引き下げていくべきものであるのに、最初から最終目標の1ミリシーベルトという基準だけが一人歩きしている印象があります。

荻上 除染よりも避難の権利を、と訴える方もいらっしゃいます。

八下田 避難の権利は権利であって義務ではないわけですよね。避難すべきか否か判断する基準値がはっきりしていない限り、それぞれの自主性に任せるしかない。どんな数値であれ福島県に留まりたい方もいるし、すでに避難している方でも戻りたがっている人がいる。そういった状況のなかで、公共でいかに取りこぼしなくサポートしていけるのか、が問われているのだと思います。

小林 たしかに選択の自由だと思いますが、わたしたちは選択するだけの科学的な知識を持っていないですよね。

古口 難しい論題ですが、福島に居住するか避難先で定住するかは、当事者の自己判断になっていますよね。当人たちにそのような選択をゆだねるのは、たいへん精神的に重荷になっています。たんに放射能の問題だけではなくなります。

わたしはボランティアとして、ご本人の選択を尊重するし、悩むときは一緒に悩もうと思っています。そのなかで、福島に住みつづける選択をした方には住みつづけるお手伝いを、避難先で長期にわたり生活をつづける方には、避難先でのお手伝いをしています。

なので埼玉県の騎西高校にいまも生活されている双葉町避難所の皆さんや、広域避難者の皆さんの支援にも携わっています。一時帰宅のお手伝いもやりました。除染ボランティアで知り合ったベテランさんや、放射線の資格を持っている方にお手伝いいただき、助かりました。

変化する除染への関心

荻上 常円寺は除染作業以外にも講演会を開いて、積極的に情報を発信しています。メディアや政治家も常円寺に訪れていますが、いまでも訪問者はたえませんか?

小林 メディアの訪問は減りましたね。最初はすごかったですよ。インタビューだけじゃなくて、作業現場に複数社のカメラが同時に入っていましたから。

なにより除染活動に対する態度が変わったのは地元の住民の方々です。いまではわれわれがなにをしているのか、なぜしているのかをほとんどの人が知っていると思いますよ。当初はそうでもなかったので。

古口 以前はあまりいい関係ではなかったんです。「道路の使用許可をとって除染しているのか」と言い寄られたこともあったと聞いています。やっぱり抵抗感があったみたいですね。でも一緒に作業すると、次第に打ち解けるようになって、最後になると「来てくれてありがとう」と言われるようになりました。

小林 「花に願いを」のリーダーである常円寺のご住職は、除染活動だけでなく、問題点を広く知ってもらい町内会単位で自主自立的に活動してもらおうという方針をお持ちなんです。

荻上 なるほど。時間が経過することで、関心が薄れていくといったネガティブな変化もあると思いますが。

小林 関心が薄れていくのは東京の人であって、福島ではそれどころではないですね。

これからの除染ボランティア

荻上 少し失礼な質問かもしれませんが、除染ボランティアはわりと年配の方が多く参加されていますよね。ただこの問題は、何十年という単位で付き合っていかなくてはいけないものですから、必然的にプレイヤーの交代が必要となります。最後に次世代へのバトンタッチをどのように意識されているかお聞かせください。

小林 とても心配しています。

でもじつは「花に願いを」で活動している人のみで言えば、年配の方が多いわけではないんですよ。全体の10%くらいかな。たしかに次世代育成の問題意識は持っていますが、わたしと同世代の人がもっともっと参加してもいいと思っています。

荻上 古口さんはいかかがですか。

古口 若い方もふくめ、さまざまな年齢層の方やお立場の方が、まずは除染活動に参加するとか、見学・視察だけでもよいので現場に立ち会っていただくことなどが大切ではないでしょうか。

NPO法人オンザロードという団体では20歳以上の男子が参加できる除染ボランティアを募集していました。つねに同じ人が除染をやりつづけるのではなく、多くの人たちでちょっとづつ除染をやることで一人当たりの被曝リスクを減らせるのではないかと思います。「負の再配分」という考え方ですね。岩手や宮城などで活動実績のあるいろいろな団体が、少しずつ除染や街づくり支援、避難者支援などに取り組み始めているので、この動きが広まるといいですね。

八下田 除染作業に限らず、みんな孤立してやっていますよね。もっと連携して方法論とかを共有していくのがあってもいいと思います。それとどうやって組織的な活動を継続して進めていくか、が問題ではないでしょうか。NPO・ボランティアの自主的活動では継続性に疑問が残りますね。

古口 まったくその通りで、わたしは今後、全国のボランティア仲間のネットワークを活用し、西日本で福島のボランティア活動報告会・交流会をやっていこうと準備中です。

荻上 今日は長い時間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

●参考記事:「福島市「常円寺」による除染活動を取材しました」(荻上式ブログ) http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20120331/p1

(2013年1月19日 銀座にて 構成/金子昂)

プロフィール

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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