なぜ除染ボランティアに参加し、そしてなにを思うのか

他のボランティアとの違い

 

荻上 瓦礫の処理と除染は、同じボランティアと言ってもさまざまな点で違いがあると思いますが、いかがお考えでしょうか。

 

古口 やはり放射能の問題ですよね。わたしは被曝しようがしまいが気にせず気持ちだけでやっていますが、将来なにを言われるかわからないので、それを考えると心配にはなります。

 

わたしはいまバセドウ病という甲状腺の病気でクスリを飲んでいます。甲状腺ということですぐに「被曝しすぎたからじゃないか?」と根拠もなく関連づけられてしまうこともあり困ってしまいます……もちろんバセドウ病は被曝とは無関係ですが。

 

八下田 わたしはつねに線量計を持ち歩いているようにしています。

 

小林 わたしも同じものを持っていますね。

 

荻上 古口さんは持っていますか?

 

古口 わたしは持っていないです。線量計って高額ですよね……。

 

小林 古口さんのような若い人こそ持つべきだと思うよ。あなたが被曝して健康を害したらみんないろいろ考えちゃう。低線量でもその影響は心配です。余命が長く、結婚、子づくりなどのイベントを控える若手はより慎重であるべきです。

 

八下田 自己責任論にしたくないけれど、自己責任にせざるを得ない状況にあるわけですから、線量計はそれぞれの人が意識して持っているべきだと思いますね。

 

荻上 それ以外に、他のボランティアとの違いはありますか?

 

古口 年配の方が多いですね。あと小林さんのように他の地域で活動されていた方と八下田さんのように除染ボランティアオンリーの方と、参加者に2パターンあることでしょうか。

 

荻上 八下田さんは、除染以外のボランティアに参加されていないのでしょうか。

 

八下田 わたしがボランティアに参加できるようになったときには、すでに瓦礫撤去などがかなり進んでいたんです。それにわたしは休日しかボランティアに行けないので、宮城や岩手は遠くて効率的じゃないと思いまして。

 

荻上 参加する時期によって、どの作業に携わるか違いが出るんですね。いまは、除染ボランティアは人手不足に陥っていませんか?

 

古口 常円寺さんに関して言えば、わたしが行き始めた去年の1月頃はそれほど多くはいませんでしたね。でも少しずつ話題になって、2012年のゴールデンウィークあたりからはキャパがいっぱいになるほど人が集まるようになりました。

 

他の地域が落ち着いてきて、新たな活動地として福島に来られる方がいましたし、2011年は放射能が怖くて福島に入らずにいた人が、徐々に周りが行き始めるのをみて福島に入った人もいるみたいです。

 

小林 他のボランティアと違う点といえば、自主規制することが多いこともあげられるでしょう。除染ボランティアの場合、目に見えない放射能が相手であり、行政や地元の皆さんとのデリケートな関係があり、団体が決めている方針と手法に従って作業しなくてはいけないので、自己裁量でできる部分が小さいんですよね。

 

荻上 参加するハードルは高いのでしょうか?

 

小林 そうは思いませんね。

 

ただ年齢のハードルはあります。仮置き場は線量が高くて、半日で5マイクロシーベルトにもなるので、若い人には計測など、より安全な作業を担当してもらって、年齢の高い人が仮置き場の作業のようにより被曝機会の多い作業を担当するようになっています。われわれも仮置き場での作業はあまり嬉しくないんです。被曝のリスクというよりは、仮置き場での作業はかなりキツイので(笑)。

 

 

除染の方法論、避難の権利

 

荻上 反原発の人のなかでも、除染ボランティアに対する評価はわかれていますよね。除染作業を批判する人もいます。そうした批判を受けたことはありますか?

 

古口 わたしはSNSで「ボランティアで除染すること自体ありえない」「あなたのやっていることは福島への裏切りだ」などかなり厳しいご批判をいただいています。

 

小林 周りに反原発・脱原発の人がたくさんいるわけでもないので、直接言われたことはありませんが、そういう批判があることは知っています。その点は大きな論点だと思います。

 

もう少し絞ってお話をすると、除染作業に空間線量を下げる効果があるかというと、現実的ではないと思っています。除染作業で根本的な解決ができるとは考えていません。福島市が行っている放射線量の定点計測ではおおむね0.8~0.9マイクロシーベルトですよね。わたしが福島に行くようになってから自分で計測してみても少なくとも0.7マイクロシーベルトくらい。年間1ミリシーベルトの追加線量が限度と言われるなかで、この値がどれくらい危険なのかわたしにはわかりませんが、少なくとも自分の娘には住んでほしくないと思います。

 

ただ、その土地に住む人々のなかには、住みつづけたいと思っている、あるいは住まざるをえない人がいるわけですよね。いま居る人々は住むと決めている。そしてその土地には、子どもが普段通るような道端にホットスポットがある可能性がある。

 

「花に願いを」では、地表面3マイクロシーベルト以上をホットスポットにしようと決めて、人が住んでいる地域から遠ざけようと除染活動を行っています。少なくとも好奇心旺盛で身長が低く地面に近い子どもたちが、普段通るような道端にホットスポットがあるのはよくない。放射性物質を吸い込んで内部被曝する恐れも考えられますから。わたしはこの点に関しては効果があると思っています。

 

荻上 ボランティア以外にも、ゼネコンによる除染もありますね。「ゼネコン除染」の不備を批判するような記事もでていますが、どう映りますか。

 

小林 複雑な気持ちです。除染すれば空間線量が下がると住民の方は期待している。でも除染作業にどれだけのコストがかかり、どのくらい空間線量が下がっているかは明らかにされていない。今後も空間線量を下げるために除染作業をするのであれば、この部分を明らかにしなくてはいけないでしょう。

 

結果次第では行政が大きな決断をしなくてはいけません。どこからどこまでが住んでいいのか、数値の線引きをする必要がでてきますから。

 

八下田 そもそも年間1ミリシーベルトという基準は平常時のものですよね。広島市や長崎市、チェルノブイリの例を見る限り、疫学的には20~100ミリシーベルトが基準になる、とされています。安全基準は段階的に引き下げていくべきものであるのに、最初から最終目標の1ミリシーベルトという基準だけが一人歩きしている印象があります。

 

荻上 除染よりも避難の権利を、と訴える方もいらっしゃいます。

 

八下田 避難の権利は権利であって義務ではないわけですよね。避難すべきか否か判断する基準値がはっきりしていない限り、それぞれの自主性に任せるしかない。どんな数値であれ福島県に留まりたい方もいるし、すでに避難している方でも戻りたがっている人がいる。そういった状況のなかで、公共でいかに取りこぼしなくサポートしていけるのか、が問われているのだと思います。

 

小林 たしかに選択の自由だと思いますが、わたしたちは選択するだけの科学的な知識を持っていないですよね。

 

古口 難しい論題ですが、福島に居住するか避難先で定住するかは、当事者の自己判断になっていますよね。当人たちにそのような選択をゆだねるのは、たいへん精神的に重荷になっています。たんに放射能の問題だけではなくなります。

 

わたしはボランティアとして、ご本人の選択を尊重するし、悩むときは一緒に悩もうと思っています。そのなかで、福島に住みつづける選択をした方には住みつづけるお手伝いを、避難先で長期にわたり生活をつづける方には、避難先でのお手伝いをしています。

 

なので埼玉県の騎西高校にいまも生活されている双葉町避難所の皆さんや、広域避難者の皆さんの支援にも携わっています。一時帰宅のお手伝いもやりました。除染ボランティアで知り合ったベテランさんや、放射線の資格を持っている方にお手伝いいただき、助かりました。

 

 

変化する除染への関心

 

荻上 常円寺は除染作業以外にも講演会を開いて、積極的に情報を発信しています。メディアや政治家も常円寺に訪れていますが、いまでも訪問者はたえませんか?

 

小林 メディアの訪問は減りましたね。最初はすごかったですよ。インタビューだけじゃなくて、作業現場に複数社のカメラが同時に入っていましたから。

 

なにより除染活動に対する態度が変わったのは地元の住民の方々です。いまではわれわれがなにをしているのか、なぜしているのかをほとんどの人が知っていると思いますよ。当初はそうでもなかったので。

 

古口 以前はあまりいい関係ではなかったんです。「道路の使用許可をとって除染しているのか」と言い寄られたこともあったと聞いています。やっぱり抵抗感があったみたいですね。でも一緒に作業すると、次第に打ち解けるようになって、最後になると「来てくれてありがとう」と言われるようになりました。

 

小林 「花に願いを」のリーダーである常円寺のご住職は、除染活動だけでなく、問題点を広く知ってもらい町内会単位で自主自立的に活動してもらおうという方針をお持ちなんです。

 

荻上 なるほど。時間が経過することで、関心が薄れていくといったネガティブな変化もあると思いますが。

 

小林 関心が薄れていくのは東京の人であって、福島ではそれどころではないですね。

 

 

これからの除染ボランティア

 

荻上 少し失礼な質問かもしれませんが、除染ボランティアはわりと年配の方が多く参加されていますよね。ただこの問題は、何十年という単位で付き合っていかなくてはいけないものですから、必然的にプレイヤーの交代が必要となります。最後に次世代へのバトンタッチをどのように意識されているかお聞かせください。

 

小林 とても心配しています。

 

でもじつは「花に願いを」で活動している人のみで言えば、年配の方が多いわけではないんですよ。全体の10%くらいかな。たしかに次世代育成の問題意識は持っていますが、わたしと同世代の人がもっともっと参加してもいいと思っています。

 

荻上 古口さんはいかかがですか。

 

古口 若い方もふくめ、さまざまな年齢層の方やお立場の方が、まずは除染活動に参加するとか、見学・視察だけでもよいので現場に立ち会っていただくことなどが大切ではないでしょうか。

 

NPO法人オンザロードという団体では20歳以上の男子が参加できる除染ボランティアを募集していました。つねに同じ人が除染をやりつづけるのではなく、多くの人たちでちょっとづつ除染をやることで一人当たりの被曝リスクを減らせるのではないかと思います。「負の再配分」という考え方ですね。岩手や宮城などで活動実績のあるいろいろな団体が、少しずつ除染や街づくり支援、避難者支援などに取り組み始めているので、この動きが広まるといいですね。

 

八下田 除染作業に限らず、みんな孤立してやっていますよね。もっと連携して方法論とかを共有していくのがあってもいいと思います。それとどうやって組織的な活動を継続して進めていくか、が問題ではないでしょうか。NPO・ボランティアの自主的活動では継続性に疑問が残りますね。

 

古口 まったくその通りで、わたしは今後、全国のボランティア仲間のネットワークを活用し、西日本で福島のボランティア活動報告会・交流会をやっていこうと準備中です。

 

荻上 今日は長い時間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 

●参考記事:「福島市「常円寺」による除染活動を取材しました」(荻上式ブログ) http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20120331/p1

 

(2013年1月19日 銀座にて 構成/金子昂)

 

 

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発行光文社

発売日2012年7月18日

カテゴリー新書

ページ数300

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