『安全・安心』を超える〈価値〉とはなにか――危機を転機に変えるために

2013年3月31日に開かれた、復興アリーナ(WEBRONZA×SYNODOS)主催シンポジウム「『安全・安心』を超える〈価値〉とはなにか――危機を転機に変えるために――」。経済学者飯田泰之氏を司会に、波大学大学院人文社会学系准教授の五十嵐泰正氏、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任助教石井秀樹氏、農家兼野菜ソムリエ藤田浩志氏、「いわきの子供を守るネットワーク」「子ども未来NPOセンター」代表團野和美氏の五名をお迎えしました。毎日口にするものだからこそ、安全安心は非常に重要な「食」。「食」が提供できる価値は安心安全だけなのか、各パネリストが安全安心を超える「食」の価値を模索する。(構成/小嶋直人)

 

 

はじめに

 

飯田 さて第二部では、第一部の基調講演でご講演いただいた石井秀樹さん、五十嵐泰正さんに加えて、郡山市で農家をやられており、また野菜ソムリエとしても活動されている藤田活志さんと「いわきの子供を守るネットワーク」「子ども未来NPOセンター」の代表を務められている團野和美さんをお迎えして、ディスカッションを行っていきたいと思っています。

 

まずはお二人に簡単に自己紹介をしていただきたいと思います。

 

藤田 こんにちは、福島県で農家をやっている藤田と申します。わたしは8代目の農家で主にコシヒカリやひとめぼれなどのお米や酒米などを作っています。また昨年からは、福島県の新品種「天のつぶ」も作付けをはじめました。また野菜も育てていまして、靜御前から名前をいただいた、御前人参、このニンジンは郡山のブランド認証も受けておりますが、こういった野菜も生産しております。

 

また私は震災以前に野菜ソムリエの資格を習得しました。というのも、加熱すると美味しいシシリアンルージュというトマトを栽培していたのですが、いくら料理研究家にお話をしても、なかなか加熱する調理法が浸透せず、むしろトマトサラダにされてしまっていて(笑)。野菜ソムリエとして発言すれば、ちゃんと話を聞いてもらえるんじゃないかと思ったんです。まあ、あと女の子にモテたかったというのもあるんですけど(笑)。

 

この2年間、これからの福島の農業は、黙々と生産していく姿をみせていなかなければいけないと感じています。今わたしは「ふくしま新発売」という事業を行っているのですが、この事業は県が行ったモニタリング検査をウェブサイトで検索できる、というのがメインコンテンツにあります。これまでに合計でおよそ7万件のデータが集まり、200以上の品目を地域ごとに検索できるようになっています。もうひとつ、情報員として在籍している一般の方がそれぞれの視点で生の声を発信するというコンテンツもこの事業のメインコンテンツです。

 

なぜわたしがこの事業に携わっているかというと、震災直後から福島の農業は、データ、そして前向きな物語と悲劇の物語でしか伝えられてこなかった。しかし実際は、それぞれが違う環境のなかで、それぞれの思いを抱いている。わたしはそのリアルな情報を発信したいと思ったんです。

 

いまでこそ「ふくしま新発売」というネーミングは評判がいいのですが、当初は大バッシングを浴びました。Googleで「ふくしま新発売」と検索すると、検索候補に「笑わせるな」が出てくる。この事業は2011年の8月11日に始まったのですが、「いきなり売り込む気満々じゃねえか」と批判もされています。観測データを公開することが事業内容なのに、です。

 

最近はこの名前をほめてくれる方もいるので、タイミングにあわせてネーミングすることが重要なのだと思います。この二年で、私もいろいろなことを考え、変わってきました、そんなことをお話できればと思っています。

 

飯田 ありがとうございます。日本では、農業は一種特別な扱いを受ける産業です。だれもが仕事をしてお金を稼ぐように、農業をしてお金を稼いでいるのに、一種の聖職者のように取り扱われる。かつては「農家がお金を稼いでいる」と知られると、なぜかバッシングを受ける風潮があったくらいです。

 

そして最近では被災地全体で同じような現象が起きています。たとえば、被災地が「被災地らしく」していると支持されるのに、立ち上がろうとすると「被災地をマーケティングのツールにしている」と叩かれてしまうことがある。このような話を聞くたびに、「いやいや、マーケティングのツールにしていいじゃないですか」と言うのですが、なぜか不謹慎だと言い返されてしまうんですね。

 

福島の農家は、「農家であること」そして「被災地」であることで起こりうるバッシングを上手にすり抜けていかなければいけない、とても難しい状況にある。

 

その一方、消費者のなかで、福島産品について最も気にされるのは子どもを持つ家族でしょう。團野さんには、福島、あるいは東北産の商品がどのように受け入れられていくのかといった視点を含めてお話をいただければと思っています。

 

それでは團野さん、自己紹介をお願いいたします。

 

團野 いわきの子供を守るネットワーク代表の團野と申します。よろしくお願いします。

 

福島県の農業は震災以前でも、右肩下がりで衰退傾向でした。それが震災の影響で、急降下していき、農家の方を苦しめていくことになりました。

 

風評被害だ、実害だと騒いでいる中で、廃業に追い込まれた農家さんもたくさんおります。私達は何の利害や縛りもなく子供を抱える母親という立場から、“子どもを守る”そして“故郷の未来を考える”時に欠かすことの出来ない、食の安全という生きるための根底について考えていく活動をしています。具体的には「いわきの食のフォーラム」という活動を始めました。食べる人と、作る人・売る人の間には大きなギャップがあります。作る人は「こんなに安全なのに」と思い、食べる人は「本当に安全なの?」と思ってしまう。それは当然のことだと思います。そこで、作る人、売る人、食べる人が一緒になって食の安全について考えていこうという活動です。

 

また市の委託事業として保育所の放射能測定をしています。いわき市内の食材を測定すると、高い数値はそれほど出ません。しかし保育所は、食品の8~9割が遠方の西日本・九州・北海道産を使用しています。最終的に地産池消を進めていきたいということは分かりますが、遠方の食材を測定し“安全”をアピールする現在の施策は方向性が違うように感じます。その場しのぎの安全の在り方(測定など)で得られるものよりも、その間に失われるものの大きさを考えてしまいます。

 

飯田 ありがとうございました。どうしても検査がどの程度の精度で行われているのかという不安、また農地に関しては、どの時期の検査値を使っているのかなど不安を消費者は抱いている。そのような不安を解消するために、線量の計測をできるだけ細かい区分けでしていくという方法があります。

 

しかしこの方法は、行政・地元の側からみて非常に難しい問題があります。ひとつが細かく区分けしていくと、問題のない農家と問題のある農家がはっきりとでてしまう。確かに消費者側はその情報を知りたいと思われるでしょう。しかし生産者側からすると一種の犯人捜しになりかねないことは避けておきたい。

 

このように両者の都合が相反するような状況で、石井先生がいま行われているプロジェクトはどのようなお考えをお持ちなのか、お話いただけますか?

 

石井 今の飯田先生のご質問はとても本質的なもので、大きなジレンマがあります。

 

福島大学ではJA新ふくしまと提携して、福島市内の全水田、全果樹園の放射能計測を一枚一枚毎に進めています。土壌の測定は際限なく細かくしてゆくと、個人が特定できてしまうし、その公開が難しくなります。際限なく測定を細かくしてゆけば良いものではなく、それが対策に結びつかなければ何の意味がありません。逆に対策を視野にいれながら、労力や時間を勘案しつつ計測をすることが必要でしょう。

 

福島大学の小山良太先生は、何らかの対策や行動を起こすためには、何よりもまず実態把握が重要だと言っています。どこが・どの程度汚染されているのかがわからなければ、暮らせるのか、農業ができるのか、どこから除染をしたらよいのか、全く計画を立てることも判断をつけることもできません。一方、汚染状況を明らかにするということは、風評被害を助長したり、不動産価格の低下につながると考える人もいます。けれども放射能計測をすることによって風評被害が生じたり、不動産価格が低下するのではなく、放射能計測などしなくても、既に風評被害はあり、そこを離れざるを得ない人が多いのです。

 

現実に汚染はしているわけですから、状況を打開するためにも、実態把握から始めよう。実態把握なくして何も方針は定まらない、「そこは譲れない!」という想いで、農地を計測する事業を展開してきました。

 

もう一つ考えていることは、この放射能計測を農業対策に結びつけることの重要性です。公害でも指摘されることですが、「被害者は被害を隠したがるし、隠さざるを得ない」側面があります。放射能計測をすることで風評被害が生じるだけならば、地権者にとっては迷惑でしょう。逆に被害や損害の全容を明らかにするためにも、ポジティブな解決策を見出さなければならないと思います。健康診断をして病気があることが判明しても治療法がなければ、途方に暮れてしまうのと同じです。処方箋があるからこそ、人は健康診断を受けることができるのと同じです。

 

 

 

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