地産地消のためのセカンドオピニオン 

直販農家へのターゲティング

 

放射能のホットスポットとなってしまった千葉県柏市。この地で、農家・消費者・流通業者・飲食店が顔を合わせて、協働的な問題解決を試みた「安全・安心の柏産柏消」円卓会議。11月27日に当サイトで公開された記事「「My農家」方式の放射能測定がもたらしたもの」 https://synodos.jp/fukkou/925 では、円卓会議が採用したきめ細かな放射能測定と、自主基準値の意義について紹介した。

 

「My農家」プロジェクトが一定の成果を収めることができた大きな要因とは何か? そのひとつとして無視できないのは、巻き込んでいく農家にも、訴えかけようとする消費者に対しても、全方位的に目を向けなかったことだろう。

 

円卓会議のプロジェクトは「地産地消」という理念の確認からスタートした。当然ながら、このコンセプトからブレないかたちでターゲットを設定していくことになった。すなわち、消費者への直販を主軸に置き、どちらかといえば少量多品種の生産を行う中小規模の主業農家と、彼らの野菜の購買者層をターゲットとした。都市近郊という立地条件を考えると、ここが柏の地域農業のもっとも有望な成長軸になるだろうと、ストリート・ブレイカーズ(ストブレ)の数年間の活動からも確信していたからだ。

 

一般住民=消費者にとっては、抜群の鮮度で高品質、さらには大手の流通にはあまり乗ってこない特色ある少量栽培品種の旬の野菜を、地域の直売所・スーパーや野菜市で手軽に買えること、ときには農家に直接説明を受けながら買えたり、地域の飲食店で味わえたりすることは大きな魅力だ。

 

魅力ある地域の農業の存在が、住民の地域アイデンティティやシビックプライドの醸成にもつながっていくのだとしたら、こうした食をめぐる経験がシンプルに積みあがっていくことこそがその出発点となる。そうしたニーズとマッチングすべきは、生産効率を極限まで上げて規格化された「商品」を、市場や加工工場に大量に流通させる植物工場ではないし、また海外での生産に打って出るような大規模農場でもない。小規模でも地域の消費者に近い距離を保とうとする直販志向の農家なのだ。

 

一方、柏の農業者にとっても、直販はひとつの合理的な回答である。その理由の一端は、都市近郊であるがゆえの高コスト体質という宿命にある。

 

住宅地がスプロール的に広がっている都市近郊だけに、柏では各戸の農地が非常に細かく分散する傾向がある。農地をくまなく放射能測定してゆく中で、わたし自身あらためて驚愕したことだが、2~3ha程度の耕地面積を有する主業農家の圃場が、10~15箇所にも細分化されているケースも、決して珍しいことではない。数km単位で点在している10箇所以上の圃場を、軽トラックで巡回していく営農スタイルでは、いかに一戸当たりの耕地面積という意味では集積が進んだとしても、大型機械の導入による生産性向上を要する土地利用型農業(*1)で戦うことは至難だ。また施設園芸にしても、すべての圃場をシーズンごとに十分にケアすることすら難しくなる。

 

(*1)土地利用型農業とは、穀類や油糧作物など(稲、麦、大豆、そば、菜種、てんさい、でんぷん原料用ジャガイモ)を生産する、土地を直接的に利用して行われる農業をさし、政治的に強く保護されている主食のコメ以外はどれも自給率が低いことでもわかるように、広大な土地で大規模に生産することが重要になる。一方、野菜や果実、花卉などを集約的に生産する園芸の中でも、土地よりもビニールハウスなどの施設に投資して行う、高い技術で高度にシステム化された営農形態を、施設園芸という。

 

柏のような都市近郊においては、農家の競争・淘汰による農地集積・規模拡大と、生産性の向上や高収益性が必ずしも一致しない。そのため、別の方向での収益向上を考えなければならないのだ。

 

また、住宅地と隣接していることから必要となる住民への配慮も、高コスト体質になりがちな一因となる。農薬の空中散布のハードルがきわめて高いのを筆頭に、堆肥の匂いや土ぼこりでの近隣住民とのトラブルもしばしば起こり、農村部では考えられないような周囲に気を遣った営農が求められるからだ。

 

そして決定的なのが、都市近郊として宿命的な地価と税金の高さである。合併前の旧柏市地域(*2)は、利根川河畔の遊水地と、手賀沼畔およびそこに流れ込む大堀川の周辺を除けば、ほとんどすべての地域が市街化区域に指定されている。そのため、市街化区域に圃場がある農家も数多いが、三大都市圏に立地している柏市では、そうした農地は特定市街化区域農地として宅地並みの固定資産税の対象になる。

 

(*2) 柏市は、2005年3月に東南隣の沼南町を編入合併している。旧沼南町の面積は、現柏市の約36.5%に相当する。

 

 

 

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