福島レポート

2019.08.29

暮らしのために伝える――福島第一原発廃炉が「見える」情報発信

服部美咲 フリーライター

福島の暮らし

東京電力福島第一原子力発電所の事故から8年が経過した。原発構内では今も廃炉作業が続く。

福島県浪江町の夏祭りの2日間、町の依頼を受けた資源エネルギー庁の若手スタッフらが、仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」の一角に、福島第一原発の廃炉の現状を説明するブースを設けた。

浪江町には、原発事故後に避難指示が出された。2017年3月に一部地域で避難指示が解除されたものの、現在帰還している住民は1割に満たない。浪江町は、福島第一原発にもっとも近いところで約4㎞、遠いところで約30㎞に位置する。町役場の職員は、町の生活の近くで続く廃炉の現状を住民に知ってもらおうと考えた。2019年5月には、原発事故当時居住していた人を対象に、廃炉現場である福島第一原発構内の視察も行った。

ブースでは、福島第一原発のジオラマを使って廃炉の現状を説明していた。ジオラマは、福島県いわき市の一般社団法人AFW(Appreciate FUKUSHIMA Workers)が、奈良県の(株)大和工藝の協力で制作した。

AFW製作のジオラマ

原発の敷地の全体像が俯瞰できるため、各施設の位置関係や占める割合など、実際にバスで構内を回るよりも把握できる。立地している土地の地形や、桜並木、浜辺の土の質感までが精巧に表現された。しゃがんで、ちょうど子どもの目線で見ると、構内を歩いているかのように臨場感が増す。祭りに訪れた小学生が足を止め、興味深そうに見入る姿があった。

ジオラマと共に展示された原子炉の模型にも工夫が凝らされている。家やキリン、人、犬のミニチュア模型が横に置かれ、それらと比較すると、原子炉のサイズ感も一目でわかる。今後内部の調査が進めば、原発事故後の原子炉内の様子も反映していくという。

原子炉の模型図と吉川さん(AFW)、木野参事官(資源エネルギー庁)

AFWの代表である吉川彰浩さんは、東京電力の社員として震災と原発事故を体験した。2012年に東京電力を辞めた後、廃炉の現状や周辺地域の生活を伝える活動を続けている。遠くから原発が見える場所から、資料を配布して廃炉の現状について話しているとき、話を聞く人たちの表情を見て、「本当に理解が深まっているのだろうか」と不安を感じた。質疑応答の時間にも質問はあまり出ず、伝えることの難しさを実感した。あるとき、100円ショップで手に入る材料を使って、自作の模型を製作し説明に使ったところ、相手に伝わりやすいことに気づいた。そこで、持ち運びができて、廃炉の現状を正確に伝えられる精巧なジオラマの製作に本格的に着手した。クラウドファンディングで協力を募ったところ、目標金額の支援を得ることができた。

吉川さんは、被災地のツアーガイドも手掛ける。いわき海洋調べ隊「うみラボ」の船から福島第一原発を臨んで話したり、木戸(楢葉町)の古民家や田んぼで作業をしながら語らったりと、廃炉がそばにある土地での暮らしを伝える。AFWの取り組みによって、県外や海外の人々が廃炉や周辺地域の生活に関心を持ち、訪れるようにもなった。

資源エネルギー庁は、これまでも「廃炉の大切な話」などの小冊子やインターネットのサイトなどを中心に情報発信を行ってきた。また、福島県内に常駐する職員も、地元で開かれる様々な会合に参加し、廃炉の現状について伝えようと試みてきた。しかし、冊子やサイトを読む人は限られる。情報発信の手法を模索していた。

今回、資源エネルギー庁の若手スタッフが実際に浪江町のブースで、来場した人々と対面して説明した。「福島第一原発構内の全体が一望できる状態で説明すると、よりイメージを共有しやすい」という効果を感じている。AFWのこれまでの経験に学んだかたちだ。

今回、資源エネルギー庁に町内での情報発信を依頼した浪江町役場の職員は、「廃炉は、浪江町で生活する人にとっては身近なものだと感じている」という。しかし、廃炉が続いていることは知っていても、実際に構内で何が行われているのかは伝わってこない。ニュースで報じられるのはトラブルが起きたときばかりで、不安をかき立てられる。せめて、今の廃炉の進捗状況や、どんな問題があって、どのようなリスクがあり、その低減のためにどのような対策が講じられているのかなど、具体的な情報が、浪江町に帰還して生活を再開した住民や、町外に避難している住民に伝わることを望む。「安心して皆が帰ってきて生活を再開できれば理想です。それぞれ事情があって帰還は難しくても、なにかの折に里帰りしようと思ったときには、安心して帰ってこられる町でありたい」と語る。

5月の構内視察の際には、参加した住民から「こんなに進んでいるのか」という感想と、「思ったより進んでいない」という感想があった。一度視察して終わりではなく、継続的に視察をすることで進捗状況がわかる。2019年10月、12月、翌2月には原発周辺13市町村に当時住んでいた人々を対象に、資源エネルギー庁主催の視察が初めて行われる予定だ。

リンク

・一般社団法人AFW

http://a-f-w.org/

・廃炉・汚染水ポータルサイト(経済産業省)

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/

・すぐわかる浪江町の現況(浪江町)

https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/2/namie-factsheet.html

プロフィール

服部美咲フリーライター

慶應義塾大学卒。ライター。2018年からはsynodos「福島レポート」(http://fukushima-report.jp/)で、東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島の状況についての取材・執筆活動を行う。2021年に著書『東京電力福島第一原発事故から10年の知見 復興する福島の科学と倫理』(丸善出版)を刊行。

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