そこは地上の楽園か?――『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』(他)

『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』(勉誠出版)/溝井裕一

 

今回紹介する本は動物園にスポットを当てた『動物園の文化史』です。先史時代から古代ローマ、中世ヨーロッパ、ナチスドイツ、現在まで、動物園を通してヨーロッパの自然観、動物と人間との関係を紐解いています。

 

そう書くと、ちょっと難しそうですが、特筆すべきは、随所にちりばめられているユーモラスな(ちょっと残酷な)エピソードの数々です。

 

たとえば、神聖ローマ皇帝のフリードリヒ二世は大規模な動物コレクションを有していました。しかも彼は諸地域を訪問する際、ライオン、トラ、ゾウやラクダを連れてまわり、さらに、「英国王ヘンリー三世の妹の結婚したときも、動物たちが華をそえた」というのです。(「動物が華をそえた」という表現を、本書ではじめて目の当たりにしました)

 

一方、イギリスのヘンリー三世はホッキョクグマを手に入れますが、あまりにも飼育費がかさむため、ロンドン市民に飼育費を負担させました。しかし、それでも足りないので飼育係は川までホッキョクグマを連れて行き、自分で魚を取らせることにしたようです。ほほえましいですね。

 

また、マクシミリアン二世はゾウを飼っていました。彼は当時キリスト教を脅かしていたオスマン帝国の皇帝の名前からゾウに「ゾリマン」とつけます。「さすれば、この人物もいずれはこのゾウのごとく、マクシミリアンの奴隷になるだろう」とのこと。ひどい話です。

 

中世ヨーロッパにおいて、動物コレクションを持っていることは、権力の象徴でした。また、『旧約聖書』に出てくる地上の楽園を再現する試みでもあり、キリスト教の概念と自身の権力とが結びついていることをアピールできる効果もありました。「自然」はだんだんと人間が支配・管理可能なものであると捉えられていきます。

 

19世紀末になると、動物園は動物だけではなく、西洋人にとって「僻地」に住んでいた「未開人」を展示する場にもなります。人とはなにか、動物とはなにか――自然を管理・支配する動物園の歴史は、まさに「人」と「自然」との関係の縮図です。奥深き動物園の世界にぜひ足を踏み入れてみてください。(評者・山本菜々子)

 

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