データに付加価値を与える――インテリジェンスとは何か

インテリジェンスと情報

 

平たく言えばインテリジェンスとは情報のことである。そしてその本質は、行動のために論理的で正確な情報を得ることにある。例えばスニーカーを買う場合、ほとんどの人は立ち寄った店やネットショップで選ぶだろうが、これはインテリジェンスに基づいた行動ではない。

 

インテリジェンスを実践する場合は、まず目的に応じてデータを集める必要がある。データとは、スニーカーの価格やサイズ、ブランドのことである。これらのデータを集めているうちに、自分が欲しているのはどのブランドの幾らぐらいのスニーカーであるという具体像が絞られてくる。次に購入するショップも検討しないといけない。A店なら6980円だが、そこまでの電車賃が往復480円程度かかる、B店なら7080円で電車賃が240円、ネットショップのC店なら6700円だが送料が500円、しかしスニーカーは一度履いてみないとフィット感がわからないので、ネットはちょっと……、しかし週末は雨の予報だから……、と色々検討を進めていくことになる。そして最終的に、「この週末にこの店でこのスニーカーを購入する」という結論が導き出される。

 

この結論こそが様々なデータから導き出されたインテリジェンスなのである。もちろん、最初に言ったようにスニーカー一つでここまでやる人はそういないだろうが、国益がかかってくる国レベルのインテリジェンスの現場になると、やはり多くのデータから有益な情報を抽出する必要性があろう。

 

政治や国際関係の分野においてインテリジェンスという用語を使う場合、その定義は「国家の外交・安全保障政策に寄与するために収集・分析・評価された情報、またはそのような活動を行う組織」の意味で使われることが多い。長らく日本では「諜報」という言葉が当てられてきたが、諜報というと秘密裡に行われる情報収集活動という意味になり、インテリジェンスの定義に比べるとかなり狭い。そもそも「インテリジェンス」という言葉は、知性や知能の意味で使わることが普通だ(ちなみに「あの人はインテリだ」という場合の「インテリ」は、ロシア語の「インテリゲンチャ」(知識階級)に由来している)。

 

この点をもう少し深く考えると、インテリジェンスとは、生物に備わっている外部認知機能と捉えることもできる。生物は捕食したり外敵から身を守るために、外部環境から様々なデータを取捨選択しており、データを最適化して自己の生存を確保しているともいえる。この考え方は国家のようなレベルにも適用することができよう。つまり国家にとってのインテリジェンスとは、国際関係という法的な秩序の弱い世界にあって、その安全を確立するために、日々情報を収集し、活用するための国家知性にあたるということだ。

 

極端な例を挙げれば、戦時に相手の軍隊の武装や規模が全く分からなければこれに対抗しようがなく、国土はただ蹂躙されるがままとなってしまうだろう。平時においても情報は、「政府が政策を実行するために必要なもの」といえる。そして当然のことながらこのような情報を取捨選択する能力が必要であり、これをインテリジェンスと置き換えることができる。すなわち国家レベルのインテリジェンスとは「国家の知性」を意味し、情報を選別する能力ということになる。

 

さらに英語圏ではインテリジェンスに「情報」という意味合いが与えられるようになった。ウェブスター大辞典には「知性」に続く二番目の定義として、「インテリジェンスとは敵国に関する評価された情報」とある。今や国際政治や安全保障分野でインテリジェンスと言えば情報を指すが、同じ情報でもインフォメーションは「身の回りに存在するデータや生情報の類」、インテリジェンスは「使うために何らかの判断や評価が加えられた情報」といった意味合いになる。

 

インフォメーションやデータの類は、我々の周りに無数に存在している。しかしそれらはそのままでは使えないことが多い。そのため我々はデータを取捨選択し、加工して利用するのである。これを天気予報で例えるなら、気圧配置や風向きはインフォメーションにあたり、それらデータから導き出される「明日の天気」が加工された情報、これがインテリジェンスということになる。

 

 

公開情報の収集

 

我々が日常レベルでデータを収集する際は、大抵ネット、もしくはテレビや新聞などの媒体に頼ることがほとんどである。これは国レベルでも同じで、こういった誰にでもアクセスできるものを公開情報と呼ぶ。米国のCIA(中央情報庁)や英国のMI6(秘密情報部)といった各国の情報機関も基本的にはまず公開情報をチェックする。そして公開情報だけでは判断できない場合にその他の情報源にアクセスするのである。

 

ただ公開情報と一口にいっても、ネット情報は玉石混交であるため、その情報がどれぐらい確かか判別するのが難しいし、最近ではダーク・ウェブと呼ばれる、ネット上にはあるが検索に引っかからない情報も多い。情報機関というのは正確さを追求する傾向があるので、今でも紙媒体の情報を重視している。それは新聞や書籍、また「ジェーンズ」や「ミリタリー・バランス」のようなデータベースだ。

 

ネットは「Googleマップ」のような地図情報や、ピンポイントのデータを得るのには適しているが、そのデータが全体像の中でどのような位置にあるのかを把握するのが難しい。やはり体系的な知識、論理的な筋道を理解するためには、学術書のようなものが今でも一番である。例えば関ケ原の戦いが何年何月何日に起こったのかを知りたいだけなら、ネットですぐに調べられるだろう。しかし戦いの背景や戦闘の様相を理解しようとなれば、それについて書かれた本を一読するのが最も良いということだ。

 

またネットやテレビで公開されている画像も重要な情報源となることもある。太平洋戦争中、日本海軍は欧米の雑誌を買い集め、そこに載っている艦船の写真に着目した。最近では北朝鮮によるミサイル発射の映像がテレビを通じて流されているが、専門家が見ればそこから多くの情報を得ることができるのである。

 

 

人類最古の職業-スパイ

 

次に思いつく情報収集の手段はやはりスパイなどの人的な情報収集だろう。『007』の例を引っ張り出してくるまでもなく、スパイは昔から情報収集の花形で、人類の歴史の中で二番目に古い職業の候補とされている。しかしこの21世紀において、相手国に潜入して情報を得るような活動は時代錯誤と言わざるを得ない。最も多いのは現地で情報提供者を雇い、報酬と引き換えに情報を提供してもらうことである。しかしこの手の情報は真偽のほどが確かではないため、事後の確認作業が不可欠となってくる。

 

その他にも、国際会議やパーティーなどの場における意見交換がある。パーティーはよく各国の大使館公邸で行われることが多い。そこで情報機関のスタッフは、そのような各国大使館のパーティーに出席し、片手にグラスを持ちながら先方の政府関係者や経済界の要人と意見交換を行うのである。また国際会議などに出席すると、休憩時間にティータイムが取られ、ざっくばらんに参加者と会話ができる。ここでも様々な情報がやり取りされているのである。

 

そう考えると現代のスパイに必要なのは腕力ではなく、外国語によるコミュニケーション力(コミュ力)ということになる。ここで言うコミュ力とは、初対面の人物と外国語で長く話すためのものなのである。長く話すのは、なるべく多くの情報の断片を得るためには必要不可欠だからである。名刺を渡して「○○の××です」と言ってお終いではなかなか有意義な情報は得られない。長く話すためには言語能力と、会話の引き出しの多さが求められるのであり、これにはある程度の訓練が必要である。『007』で有名なMI6でもこの会話のセンスを磨くために、時間をかけて訓練すると聞いたことがある。さらに会話から貴重な情報を得ることができてもそれをメモに書きとどめるわけにはいかないので、記憶力も求められる。そう考えるとパーティーのタダ酒で酔っぱらうことなど論外なのである。【次ページにつづく】

 

 

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