落語とポリコレ――変化しながら継承される伝統芸能

はじめに

 

新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

 

早速、2018年最初のαシノドスのラインナップをご紹介いたします。今回のテーマは「伝統と現代」です。

 

巻頭インタビューは「落語とポリコレ」です。近年では若者の間でもブームになっている落語。一方で、寄席の中では現代のポリティカル・コレクトネスとは相いれない表現も耳にします。ポリコレが気になって、寄席で素直に笑えない増田が、古典からポップカルチャーまで、文化芸能に詳しい九龍ジョー氏にお悩み相談に行きました。

 

第2稿は、同志社大学教授のコリン・P.A.ジョーンズ氏によるハーグ条約Q&Aです。夫婦関係の破綻後、片方の親が一方的に子をもう一人の親から引き離す、子の連れ去り問題。国際的に「拉致大国」と呼ばれる日本の現状について、ハーグ条約を起点にご解説いただきました。

 

続いては、家族社会学者の永田夏来氏による「今月のポジ出し!」です。「いる」ことが共有される空間としてのロックフェス。その先駆けとなったフジロックファンの対立から共通点を見出し、近年のSNS上の対立解決のための提言をします。

 

最後は、教育経済学がご専門の畠山勝太氏による論考です。貧困層への良質な未就学児教育が高い収益率を示す研究結果がアメリカで発表されました。それに伴い、日本でも幼児教育の無償化政策がすすめられています。果たしてこの方針は、国境を越えて日本でも有効なのでしょうか。畠山氏が解説します。

 

以下に巻頭インタビューの冒頭を転載しております。

どうぞ、ご覧ください。

 

 

九龍ジョー氏インタビュー 「落語とポリコレ――変化しながら継承される伝統芸能」

 

編集部増田、数年前に笑点で桂歌丸師匠にほれ込み、寄席通いを始めました。今でもたまに、落語会に行っています。しかし、ネタを聞く中でどうしてもすんなり笑えない場面がありました。それが、演目や小話の中にある一部の人への嘲笑的な場面。今回は、そんなもやもやを取っ払うべく、「落語とポリコレ」をテーマに、九龍ジョーさんにお話を伺いました。(聞き手・構成/増田穂)

 

 

◇寄席にいるのに素直に笑えない

 

――本日は、落語とポリティカル・コレクトネスをテーマにお話を伺えればと思っております。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。このテーマ、どういう経緯で関心を持たれたんですか。

 

 

――私は落語が好きで、時間を見つけてたまに寄席に行ったりするのですが、落語の話を聞いていると、時折、今でいうと差別に当たるような表現が出てくることが気にかかりました。女性や障害者などを蔑視的に表現している場面などですね。そしてそれを笑いに変えています。落語を楽しみながらも、そこが突っかかって、心から笑えない部分があったんです。

 

なるほど。そこをスルーしてしまうんだ、と。

 

 

――落語界では、このような問題はどのように認識されているのでしょうか。

 

そういう表現を含む噺はあるにはあるんですが、そこまで問題になることはないですね。なかにはあきらかに差別的な内容が含まれていることで、テレビなどでは上演されない演目もあります。例えば「心眼」ですね。目の不自由な方を「めくら」などと表現し、今でいうとメディアが放送を自粛していうるような言葉が使われています。結果として、メディアではほとんど見ることはありません。

 

しかし、これは落語にかぎらない話ですけど、メディアはポリコレに関して、基本的に自主規制という立場をとっていますよね。つまり、何か強制的に規制されているわけではない。最近よく使われる言葉で言うなら、「忖度」に近いものがあります。ですから、一部の落語を放送しないのも、あくまで自主規制なんです。寄席でも、こうした表現については、ケースバイケースで、演者サイドの自主規制というかたちがとられていると思います。

 

「心眼」ですと、ただ単に目の不自由な人が登場するというレベルでなく、この人を貶めるような表現があちこちに含まれています。なので、寄席でもそういう障害を持った方がお客さんの中にいるとわかった際には、楽屋で情報を共有して、そうした内容で笑いを取るネタは避けるようする、ということはしているようです。とは言っても、これもあくまで自主規制であって、やってはいけないということではありません。あくまで配慮というかたちですが、そうした差別的な演目を避けるということはありますね。

 

あとは、廓話(くるわばなし)など、遊郭を扱った話では、そもそも吉原というシステム自体が女性の人身売買と絡んでいるわけで、ポリコレに抵触しがちではあります。ただ、落語に登場する吉原は今の店舗型風俗とは位置づけが異なりました。太夫など、上位の花魁になれば、今とは比べ物にならないような高給取りでした。現代でいうと、アイドルに近い存在だったと思います。まあ、今のアイドルだって、ある種人身売買ではないか、という批判はありますよね。とはいえもちろん、落語の中に疑問を抱かせる労働環境の描写があったり、女性を買いに行くことを笑いにしている部分があるのは確かです。気になる人がいるのは当然だと思います。

 

 

◇いない人のことは馬鹿にしてもいい?

 

――「どろぼう、けちんぼう、つんぼう」を「さんぼう」といい、この人達は寄席に来ないから何をいってもいい、というような冗談もあったと聞いています。

 

そもそも泥棒は悪人だし、わざわざ寄席で冗談にされて大っぴらに文句を言うことはない。けちんぼうは、大切なお金を払ってまでこんなばかばかしい話を聞きにはこないから寄席にはこない。つんぼう、つまり耳の聞こえない人は話が聞こえないのだから寄席にはいない。したがってこの「さんぼう」については悪口をいっても構わない、というものですね。

 

 

――はい。そういう話を聞くと、今いない人のことならけなしてもいい、というような正当化にも見えてしまって、それは違うのではないか、と思ってしまうんです。

 

今は手話で落語を上演したり、演じる方の落語家にも、桂福点さんという視覚障害の落語家さんがいますね。そういう意味では、以前よりバリアフリーな落語文化が広がってきていると思います。とはいえ公共性の視点から言えば、ご指摘の通りです。「いないから悪口を言っていい」というのは間違っている。差別的な表現は当事者がいてもいなくても言ってはいけないんですよね。

 

 

――私はそう思っています。

 

わかります。

 

 

――もちろん、冗談だとわかっているので、笑ってしまう自分もいるのですが……

 

素直に笑えない、ということですよね。

 

 

――そうなんです。

 

落語には、笑いの生み出し方として、どうしても他人の間抜けな部分を笑うという構造があります。例えば、「狸賽(たぬさい)」という演目では狸が間抜けなことをする。話の中では間抜けなのは狸ですが、これを外国人の暗喩と捉えることもできますし、そうすると差別的な演目と取れなくもありません。よく間抜けなことをする登場人物「与太郎」だって、本当は何らかの障害を抱えている人物かもしれません。そういう、「劣っている」人たちの失敗を笑ったりする構造が、ポリコレと紙一重なのは確かです。笑いを扱った伝統芸能という意味では、狂言などにも、そういう表現は見られます。

 

 

――たとえばどんな話がありますか。

 

「月見座頭」という演目なんてひどいですよ。とある場所で、ある人が月を見ながら酒を飲んでいたら、目の見えない人が来ます。そこでその人は目の見えない人を仲間に入れて一緒に楽しく酒を飲む。2人が別れて、目の見えない人が「ああ、こんな楽しさもあるのだな」としみじみ感じていると、戻ってきた同じ人が、目の見えない人を突き飛ばす。突き飛ばされ方は「世の中にはなんてひどい人がいるんだ」と思うのですが、その人はさっき一緒に楽しく酒を飲んだ人なんです。だけど、本人は目が見えないからそれがわからない。見ている方はそれを笑うんですよ。ひどい話です。

 

でも、同時に言えるのは、人間はそういう残酷なところもあるということだと思うんです。もちろん、笑いの構造として、相手を馬鹿にしたような要素はあるのですが、ただ単に、目の悪い人を笑う作品としてでなく、そういう人間の二面性を見出す恐い作品という見方もできます。

 

 

◇客のツボが変われば落語も変わる

 

――見る方のリテラシーが高ければ、そうした解釈も可能ですよね。一方で、鑑賞側のリテラシーに頼って何でもかんでも出せるわけではない。今後もブームが続き、より多くの方が落語を目にするようになったとき、個人的にポリコレの問題は避けることができないのではないかと感じています。……つづきはα-Synodos vol.236で!

 

 

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2018.1.15 vol.236 特集:伝統と現代

 

1.九龍ジョー氏インタビュー「落語とポリコレ――変化しながら継承される伝統芸能」

2.【ハーグ条約 Q&A】コリン・P.A.ジョーンズ(解説)「権利としての親子のつながり――ハーグ条約で親子のつながりを守れ」

3.【今月のポジ出し!】永田夏来「グリーンステージにU2が出れば、フジロックはもっと良くなる」

4.畠山勝太「幼児教育無償化から考えるーアメリカの研究結果は日本にとって妥当なのか?」

 

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