学校空間をもっと自由に――いじめを減らすために本当に必要なこと

はじめに

 

皆様こんにちは。シノドス編集部です。

今回の収録内容をご案内いたします。

 

巻頭インタビューは弊社編集長、荻上チキです。いじめ対策のNPOでも代表を務める荻上氏。近年の研究から見える日本のいじめの特徴と、その対策について、エビデンスに基づいたご意見をいただきました。

 

続いては、神戸女学院大学准教授河西秀哉氏による「天皇制」のご解説です。一昨年の「おことば」以降、改めて注目を集める天皇の存在。その在り方は果たしてどのように変化してきたのでしょうか。「権威性」と「象徴性」の狭間にある、天皇の存在に迫ります。

 

第3稿のテーマは、教育と民主主義です。今、アメリカを筆頭に、民主主義の危機が叫ばれています。義務教育は、民主主義の要。アメリカにおける義務教育制度の変遷を振り返りながら、昨今の危機の原因と対策を再考します。

 

そして最後はおなじみ「めっちゃ平日!」です。今回のお題は、さむーい夜に欠かせないナイトキャップ。どのようなお話なのか、こうご期待です。

 

下記にインタビューの冒頭を転載しております。

どうぞ、ご覧ください。

 

 

荻上チキ氏インタビュー「学校空間をもっと自由に――いじめを減らすために本当に必要なこと」

 

いじめ対策と聞いて、皆さんはどんなアプローチが適切だと思いますか?メディアでは、いじめを犯罪と位置づけ、厳罰化の必要性を訴える声も聞かれます。果たして一連の動きは、いじめ対策として有効なのでしょうか。シノドス編集長で、「ストップいじめ!ナビ」代表の荻上氏が語ります。(聞き手・構成/増田穂)

 

◇注目を集めた時だけ議論になる

 

――荻上さんは「ストップいじめ!ナビ」で代表をされています。近年のいじめの報道については、どのような印象をお持ちですか。

 

ストップいじめ!ナビは2012年にできました。ちょうど滋賀県大津市でのいじめ自殺事件がメディアで大きな注目を集めた年です。いじめ自殺事件は決してめずらしい事件ではありませんが、だからといってそこまで頻繁に起こっているものではありません。毎年十件から数十件で推移しています。

 

しかし、ある時何らかの理由でメディアが特定のいじめ自殺事件をクローズアップすることがあります。そうすると連鎖的にその事件ばかりが報道され、センセーションとなる。毎年一定数いじめ自殺が起きているにも関わらず、メディア上でお祭り騒ぎのようになった時だけ、いじめ論壇が花開き、活発な議論が行われています。

 

そうした報道を見ていると、個別の事件の加害者がどうで、教育委員会や学校がいかにだらしない対応をとっているのかという議論に注目が集まりがちな印象があります。いじめ問題をどう解決するか議題設定しているつもりなのでしょうが、そのための研究やデータを活かした議論になっていない。この状況は、僕が子どもの頃から基本的に変わっていません。

 

いじめ自殺事件が起きると、社会部が事件としてとりあげます。新聞にもテレビにも、それぞれニュースのテーマごとに部署がありますが、社会部では主に犯罪報道などを扱っています。社会部記者は、誰が何をしたのか聞き込みであぶりだしていくような作業は得意です。しかし、いじめの社会科学や文科行政に関しては詳しくありません。結果として、誰がどれだけ悪いのか、事件が悲惨なものだったのかという、物語ありきの個別事例を掘り下げることなり、科学的事例をもって、いじめを社会的にどう改善していくのかという報道がされないのです。

 

 

――確かに、いじめ報道を見ていると「誰が悪い」という議論ばかりが聞かれる印象があります。

 

いじめ事件がセンセーションになると、テレビのワイドショーなどでも取り上げられます。そうすると、コメントの質は基本的に下がっていきます。「加害者ひどい」「昔はこんないじめなかった」「加害者懲らしめよう」「学校は全くなっていない」など、さまざまなコメントが飛び交いますが、ほとんどは科学的に間違ったコメントです。

 

 

――2012年以降、いじめ対策の法律なども審議、成立しましたが、そちらはいかがですか。

 

大津のいじめ自殺事件は、2012年の夏ごろにクローズアップされました。その年の12月には政権交代が起こる衆院選があるのですが、この報道過熱を受け、当時の選挙戦ではどの党もいじめ対策をマニュフェストに盛り込んでいました。つまり、対策法をつくるというコンセンサスは存在していたのです。

 

政権が交代して、自民党はすぐに草案を書き上げました。しかし、その法案には多くの課題がありました。加害者を退学させる方法や、警察との連携など、「何かあった時に懲らしめるためにどうしたらいいのか」という視点で法案が組まれていたのです。

 

ここで重要なのは、いじめは発生してから対策をしても件数が減らないという点です。いじめの発生を減らすには、いじめが起きにくい教室環境を整えなければなりません。そのためにはどうすればいいのかといえば、学校空間をよりよいものにしていかなければなりません。

 

こうした視点でよりよい法案にするため、ストップいじめ!ナビでは超党派でできていた議連の議員さんを始め、各党の担当者にアプローチしました。当時議論をリードしていた議員さんたちが根拠に基づいて議論をすることを好む方々だったので、これまでのデータや研究を提示することで、よりエビデンスに基づいた対策法案とすることができました。

 

 

――法律が施行されて、いじめに関する報道や対応は変化しましたか。

 

報道も現場もかなり変化があったと思います。例えば、今回の法律により学校でいじめ対策チームを常設することが義務付けられました。法律上は担任の先生が一人で対応してはいけなくなくなったのです。また、仮にいじめの発生が疑われる場合、新たに特設のチームを立て、その事案に対応することになっています。つまり、一人の先生が丸っと抱え込むことがないようになっているのです。

 

この変化を受けて、報道の方も、先生や加害者を非難する報道ではなく、学校や行政が組織を作れていなかった点や、情報共有課題などを中心とすることが増えてきました。これまで、研究の知見が広まっていなかったことや、法律がなかったことで、本来注目されるべき論点がうやむやにされていた。その状況に一石を投じることはできたと思っています。

 

 

――ストップいじめナビではロビイングの他にどのような活動をしているのですか。

 

WEBサイトを作る他、学校に出張講義に行ったり、行政と一緒に対策を取ったり、あとは学校にいじめ対策アイテムを配ったりしています。特に重要なのは子供たちにSOSの発信の仕方を教えることです。

 

 

――SOSの発信方法を教える。

 

具体的には、「命の生徒手帳プロジェクト」というものを実施しています。よくNPOなどが、いじめホットラインの電話番号などを書いたテレホンカードサイズのカードを配って、いざという時はそこに連絡するよう伝えています。しかしその手法だと、ずっと保管している人は少ない。一方、多くの中学校では学生が生徒手帳を持っています。その中に2ページだけいじめ対策の情報を載せてもらう。例えは常設のいじめ担当の先生の連絡先や、NPOの連絡先などですね。そうすれば、カードのように捨ててしまうことはなくなります。

 

 

◇実態と乖離する言説

 

――日本のいじめには何か特徴があるのでしょうか。

 

日本のいじめの特徴は、コミュニケーション操作系のいじめが多いことです。コミュニケーション操作系のいじめとは、嫌なあだ名を付けたり無視をしたりといったいじめで、証拠が残りにくいのが特徴です。証拠として提示するためには、やられた行為を記録したり、目撃者情報などを頼りにしなければなりません。

 

「いじめは犯罪だ」と言われることがありますが、これはファクトベースでみていくと誤解を招く表現です。カツアゲやひどい暴行など、確かにいじめの中には犯罪として刑法で立件できるものもあります。しかし、コミュニケーション操作系のいじめ、つまり無視や変なあだ名を付けるような大半のいじめは、刑法には当たらない。犯罪ではないんです。警察も動いてはくれません。

 

いじめは犯罪だから、警察が動くべきだという議論には、僕も一部賛同します。確かに今よりは介入する必要がある。しかし、いじめに対して、ゼロトレランスな態度で臨もうというだけの論調には反対です。警察が介入すればいじめは何とかなるだというという考え方は、いじめの実態とは乖離していると言わざるを得ません。

 

 

――厳罰化の対策は、いじめの実態と乖離している。

 

はい。以前は理論ベースの語りが多かったいじめ研究ですが、最近は医療系や統計学の分野の研究者も参入し始めていて、よりエビデンスが分厚くなっています。そうした科学的な根拠を見ていくと、一般的に理解されているいじめの認識が、かなり現実とはずれていることがわかります。

 

例えば、「いじめは増加している」という言説ですね。……つづきはα-Synodos vol.238で!

 

 

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2018.2.15 vol.237 特集:尊厳を守るために

 

1.荻上チキ氏インタビュー「学校空間をもっと自由に――いじめを減らすために本当に必要なこと」

2.【天皇制 Q&A】河西秀哉(解説)「『権威』と『象徴』の狭間で――天皇制を問い直す」

3.【今月のポジ出し!】畠山勝太「こうすれば民主主義はもっと良くなる」

4.齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第十一回

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

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無題

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.248 「論壇」の再構築に向けて

・大内悟史「こうすれば「論壇」はもっと良くなる――政治や行政を動かす「意見」や「論争」を」
・中里透「物価はなぜ上がらないのか?――「アマゾン効果」と「基調的な物価」のあいだ」
・牧野雅彦「知の巨人たち――カール・シュミット」
・西垣通「人工知能を基礎情報学で解剖する」