データジャーナリズムに見る報道イノベーション――英米から学ぶ最新知見

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チームで取り組む意義とは?

 

木村 次は、イギリスでの取材についてご報告します。ウェールズのカーディフにあるメディアウェールズ、BBCのほか、バーミンガム市立大学、シティ大学、などを調査しました。赤倉からも報告があった、チームでの取り組みに焦点を当てたいと思います。

 

BBCでは、テレビ制作とウェブ制作の部署が統合して約1年前にできたビジュアル・ジャーナリズムチームという部署がデータジャーナリズムに取り組んでいます。記事のグラフィック化、ビジュアル化もやっていて、必ずしもデータを駆使した記事だけを作成しているというわけではありません。

 

また、取材で訪れた2013年9月より数カ月前に、データチームという小さな部署も立ち上がっています。ジャーナリスト、エンジニア、デザイナーが各1人ずつ所属する、データに特化したチームです。今回はビジュアル・ジャーナリズムチームに所属し、ウェブサイトの立ち上げなどにも従事したジャーナリストのジョン・ウォルトンさんにインタビューをしました。

 

ジョンさんが関わっていたデータジャーナリズムのプロジェクトに、“Population who have paid a bribe”という、95カ国で公共機関などに賄賂を渡したことがある人の割合を可視化したものがあります。

 

例えば、贈賄に関わった人口の割合をパーセンテージで示す棒グラフをクリックすると、同じパーセンテージのカテゴリに分類される国すべてに地図上で色が付きます。贈賄率の高い国の多くがアフリカに属していることが視覚的に分かります。自国と他国の贈賄率の比較に注目してもらい、データに関心がない人でもとっつきやすい記事になると考え、地図でマッピングしたそうです。

 

このプロジェクトに関わったのは、デザイナー、ジャーナリスト、デベロッパーの3人。いつもこのようなチーム編成で働いていますが、アプリケーションやインタラクティブな仕組みが必要ないときは、もっと少人数の場合もあるそうです。チームメンバー全員がお互いの仕事を良く知る必要があると話されていました。

 

チームで取り組むメリットの1つは、学びや実践の機会が増えて、技術を磨けるという点です。データチームを新たに設けた理由は、自分たちのスキルが増すと考えたからだそうです。ジョンさんはプロジェクトの中でマッピングする必要に迫られ、時間をかけて独学で身に付けたということでした。また、チームでやれば個人がすべての専門知識を持つ必要がありません。データジャーナリズムの場合多分野のスキルが求められるので、協働は必須です。

 

異業種同士が一緒に働くには壁もありそうですが、ジョンさんが「チームの取り組みで困ったことや難しいことはない」と話していたのが印象的でした。異なるバックグラウンドを持つ人のスキルを組み合わせて創り上げることはとても楽しい、と。

 

チームワークを機能させるには、共通の知識を持つことが大切です。どんな図表がストーリーを伝えるために効果的なのか、などという点についてメンバー全員が理解している必要があり、BBCでは社内教育プログラムも用意されています。また、お互いの仕事をよく知ることもプロジェクトを円滑に進めるためには必要です。他の部署や組織など、チームの外にもアドバイスを求めることでアイデアが生まれるとも話していました。

 

 

課題は「読者に届ける工夫」

 

メディアウェールズでは、データセクションに所属するクレア・ミラーさんという、2013年のデータジャーナリズム・アワードを受賞された方にお会いしました。

 

受賞作は、虐待などを理由にウェールズで保護された何百人もの子どもたちが地元から何マイルも離れた場所に送られており、見知らぬ土地で適切なサポートを受けられない状況を作り出している、という問題意識から生まれた作品です。

 

 

Concerns raised over Welsh children taken into care sent to live miles from their homes

http://www.walesonline.co.uk/news/wales-news/concerns-raised-over-welsh-children-2026375

 

 

クレアさんの場合、チームではなく1人で取り組んでおり、この記事の作成には20日間かかったそうです。情報公開請求で18の議会からデータを集めましたが、フォーマットがばらばらのデータをクリーニングするところから始めたため、かなりの時間を要したそうです。

 

この記事は受賞により有名になったと思うのですが、ソーシャルメディアを通じた読者とのコミュニケーションや、アプリケーションを使った読者との関わりを広げる取り組みもあまり行っておらず、地元からの反応は薄いということでした。

 

メディアウェールズはローカルメディアですが、データユニットという部署があります。ジャーナリストが3人在席していますが、社内教育などは特にありません。クレアさんは2日間のデータジャーナリズム講座を受講して学んだそうです。公開請求で情報を集めたり、Google Fusion TablesやGoogle Chartsなどのフリーツールを使えば、小さなニュースルームでもデータジャーナリズムに挑戦できます。その一方で、個人で取り組むことの課題も感じました。

 

まず、1つの記事作成に長期間かかってしまいます。また、より大きなデータを扱うためには専門的知識やスキルが必要になりますし、多様なビジュアライゼーションやアプリケーションが必要なときには、やはり個人では難しい部分があります。

 

読者とのコミュニケーションになかなか手が回らない、というのもあります。メディアウェールズの記事はツイート2件、フェイスブックの「いいね」が5件。データジャーナリズム・アワードを受賞した他の記事でも、確認出来る中で一番多かったものでツイートが22件、いいねが474件。せっかく時間を費やして良い記事を書いても伝わらなくては意味がないと思いますし、どう情報を発信するかが課題だと感じました。

 

(10月21日 JCEJ「データジャーナリズム調査報告会」より抄録)

 

JCEJはデータジャーナリズムに関する「キャンプ(11月30日-12月1日)」と「アワード(12月27日)」を実施します。キャンプは、ジャーナリスト、エンジニア、デザイナー、アナリストがチームを組み、これまでにないニュースを見つける実践的な取り組みです。アワードでは、2013年のデータジャーナリズムプロジェクトの中から秀逸な作品を表彰する予定です。参加申し込みやプログラムは特設サイト「Journalism Hacks !」からご確認いただけます。

 

(本稿は、「α-Synodos vol.135(2013/11/1) 発信の重みを感じて」からの転載です)

 

サムネイル「ddj – hashtag community」Tony Hirst

http://www.flickr.com/photos/25451952@N00/4926982491/in/photolist-8vo5eZ

 

 

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vol.269 

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