ステルスマーケティングへの「対策」について 

ペニーオークション詐欺に関連して、広告塔となった複数のタレントがブログ上でやらせ口コミを行っていた件が、ステルスマーケティングだとして話題になっている。口コミマーケティングに関するガイドラインをつくっているWOMマーケティング協議会(WOMJ)のガイドライン委員会メンバーであるせいもあるかもしれないが、この件ではわたしも何度か取材を受けた。

 

件のペニーオークション詐欺事件に関するわたしの考えは、自分のブログでも書いた。基本的には詐欺事件が「本体」で、ステルスマーケティングはその広告のために行われたという意味で「傍流」の話だ。報道等では、またタレントがステマだ、けしからんと騒ぎ立てているが、どちらかというと、ただタレントの名前を出せば世間の関心が集まるだろうという売らんかな根性ばかりが目立つ。

 

「ステマというより芸能人詐欺広告塔事件だろうこれは」

http://www.h-yamaguchi.net/2012/12/post-0b25.html

 

こういうことを書くと、ステマ問題を過小評価しようとするステマ擁護派かと誤解する人が出てきたりするのだが、もちろんそうではない。ステルスマーケティングは、消費者に対して広告であることを堂々と開示するのではなくこっそり隠れて行うという意味で「卑しいマーケティング手法」であり、口コミへの信頼を失わせるという意味で、業界だけでなく社会全体にとって望ましくない行為だ。それはWOMJの考え方とも通じるものと考えており、だからこそWOMJ会員として活動しているわけだ。

 

だからこそ、こうした行為をネットだけの問題ととらえて、ネット上の口コミに対してすぐ「ステマ乙」と揶揄したり(実際、「ステマ」は2012年のネット流行語大賞の金賞に選ばれた)、法規制(それが何だかよく考えもせずに)が必要だとしたり顔で語る人がうじゃうじゃ出てきたりする状況にははっきりいって辟易している。というわけで、このあたりについて、個人としての考えをもう少しまとめて書いてみる。

 

 

ネットだけの話ではない

 

まず、ステマ問題について「ネットでは」と紹介するのは、少なくともミスリーディングだ。「ステルスマーケティング」は比較的最近使われるようになったことばだと思うが(兵器に使われるステルス技術に注目が集まって以降のことと推測する。英語では「undercover marketing」の方が一般的ではないかと思う)、広告やプロモーションをそれとわからないように行うという行為自体は、ずっと昔から、メディア業界のみならず一般的に、幅広く行われてきた。別の呼び名、たとえば「やらせ」や「サクラ」などと呼ばれていた場合もあるが、とくに呼び名もなく業界の慣習として当たり前のように受け入れられてきたものも多いだろう。

 

そしてそれらは、かつてほどおおっぴらであるかどうかは別として、今も行われている。マクドナルドがクォーターパウンダーを発売した際、対価を支払って人を集め、店舗前に行列をつくらせたのは2008年のことだった。後で批判を浴びた際「モニター調査」だったと苦しい説明をしていたが、サクラと受け取るのが一般的な考え方だろう。

 

http://marketingis.jp/wiki/ サクラバーガー問題

 

また、新聞や雑誌等の媒体資料などを見ていると、記事広告やタイアップ、ペイドパブといったことばがよく出てくる。あらっぽくまとめれば記事に似せた体裁の広告で、もちろん料金をとって掲載しているわけだが、これらも大きくいえば、そうしたものの「仲間」だ。

 

新聞や雑誌の記事は、一定の信頼性を持つものとして一般に受け止められている。そうした媒体に、記事に似せた体裁の広告を掲載することで、わたしたちが記事を読む際と似たレベルの信頼を寄せてくれるだろうと期待するわけだ。テレビ等の放送でも、グルメ番組や旅行番組など、番組内容と広告が入り交じっているのではないかと思われる番組は少なくない。画面でタレントが「うまいうまい」と言って食べていれば、本当にうまいのだろうと思うのがふつうだろうが、それを利用するわけだ。

 

出版業界の方々は、記事広告には「広告」「PR」などと表記してあるから消費者もわかるはずで問題ないと主張されるだろうが、多くの場合、言うほどわかりやすく表示されているわけではないし、実際、消費者にその違いがはっきりと意識されているわけでもない。中には表示がまったくないものもある。テレビ番組の最後に高速で流れるエンドロールのクレジットにしても、何と書いてあるかわざわざ読もうとする人はまずいないだろう。建前はどうあれ、それらの表示は消費者から無視されることを期待され、無視されやすいようにデザインされている。

 

 

何が「ステマ」なのか

 

だから問題だ、といいたいのではない。ステルスマーケティングが通常のマーケティング活動とまったく異なる世界のものというわけではないということだ。

 

いうまでもないが、商品やサービスについて何かを伝える際に、なんらかの意味で「事実」とはいえない要素が入り込むことや、事実の一部が開示されないことは、むしろふつうといってもよい。街のレストランの店頭に並ぶ食品模型やメニューの写真は、その店内で出される実際の料理よりたいてい豪華だったりおいしそうだったりする。タレントが広告で乗っている車にプライベートでも乗っていることは少ないだろうし、「宇宙人ジョーンズ氏」の目がピカっと光っても携帯電話の電波がつながるわけではない。これらはみな、いじわるな表現をすれば、何らかの意味で事実とは異なる「誤認」を引き起こすことで人に意図する印象を形成させたり、望む行動へと誘導したりする活動だ。

 

http://www.softbankmobile.co.jp/ja/news/press/2012/20120820_02/

 

しかしこれらは、別に消費者を騙して損害を与えたいわけではない。その商品やサービスに関心を持ってもらい、それらのよい点をはっきり伝えたいというのが意図だろう。結果としてわたしたちが購入した商品等が、わたしたちの期待とそう大きくずれていなければ、何か実害があったというわけでもない。わたしたちは、大きな実害がない限り、こうした「演出」の多くを違和感なく受け入れている。

 

先日わたしのところに来られたNHKの取材の方々も、「研究室を訪ねてきてわたしと挨拶を交わす映像」を撮りたいと希望された。挨拶を交わした後、打ち合わせの中で出た話だ。やらせ口コミはいかんというコメントを取りに来た取材の方が、当たり前のように映像的な演出のための「やらせ」を求める図というのは、見ていてシュール、というよりむしろ滑稽だ。指摘すると「たしかにそうですね」と笑っておられたが、もちろん彼らの意図が視聴者を騙そうというものでないことは理解できる。

 

とはいえ、これらがまったく損得抜きの話であろうはずもない。広告を広告とわかりにくくすることによって、金を払って人を集めて行列や賑わいを演出することによって、少なくとも間接的には自らの得になることを期待しているにはちがいない。わかりやすい映像を演出することも、番組評価に反映すると期待されるから同類だろう。こうした、誰しも自然に考え、日常的に行なっていることとステルスマーケティングとは、地続きの行為であるということだ。

 

もう少し具体的な例を出してみる。たとえば、新商品に関する口コミを起こそうとして、ブロガーイベントを開いてブロガーを集め、報酬を払って自社商品に関する記事を書いてもらったとする。報酬付きであることが記事に書かれていなければ、これはまさしくステルスマーケティングになるわけだが、では会場でペットボトルの水をもらったらそのことも書かなければならないのか?イベント会場までの交通費の実費を負担してもらったら?金銭ではなく、ステッカー1枚やらポイントやらの場合はどうだろう?書く際に報酬の額まで書かなければいけないのだろうか?「商品の提供を受けた」と書くのはだめなのか?「キャンペーンに協力している」だったらどうか?

 

もう少し日常生活に近いものだと、以下のような例はどうだろうか。たとえば同窓会の幹事を任された友人に店の相談を受けたとき、行きつけの居酒屋を推薦するようなことはふつうにあるだろう。ではそのあと居酒屋主人からお礼に一品つけてもらったら、それは対価をもらった口コミとはいえないのだろうか?「またよろしく」と主人に言われたらそれは報酬付きの依頼ということになるのか?そのことをすべての出席者にあらかじめ開示しないまま参加申し込みを受け付けた場合、同窓会に出席する他の同窓生たちを騙したことになるのだろうか?

 

 

 

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無題

 

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