ステルスマーケティングへの「対策」について 

わたしたちの「常識」は何か

 

他にもさまざまなケースが考えられる。これらの行為は、ステルスマーケティングとみていい場合もそうでない場合もあるが、いずれも広い意味では、ごく近い種類の行為といえる。そのうちステルスマーケティングをわたしたちが許容できない行為であると定義するとして、わたしたちはそのどこまでを許容し、どこからを許せないと思うのだろうか。

 

何がステルスマーケティングにあたるかが、そう単純明快な基準で分けられるものでないことは、上にあげた例でおわかりいただけたと思う。わたしたちはこの判断を、日常生活の中で、半ば無意識のうちに行なっている。そしてそこに、ネットかリアルかといった区別はない。別の言い方をすれば、わたしたちが何を許せない行為と感じるかは、どこかにあるアプリオリな倫理基準というより、さまざまな要因を含めながら総合的かつ感覚的に判断する「常識」によって決まってくるということだ。

 

最近「ステマ」だとして問題になったケースを思い出してみると、有名企業や有名人等がからんでいたり多額の金銭が動いていたりしたケース、犯罪や健康被害、多額の金銭的損害など無視できない消費者被害が発生したケース、あるいは消費者が信頼していたメディアで偽装が行われたケース、ぐらいになろうか。もちろん、その「常識」は時とともに変わる。マクドナルドが「モニター調査」で批判を浴びたのも、そうした「常識」の変化のあらわれのひとつだろう。全体として、こうした行為に対する許容度は下がりつつあるのかもしれない。

 

それら、マスメディアやそれ以外の業界や個人までも含む、社会の中で一般的に行われている行為全般について、そのあり方を抜本的に見直せというのであれば、一応、一貫した話ではあるが、ネットだけ取り上げて、さまざまあるものをひとくくりにしてしたり顔で問題視してみせても意味はない。ネットでは小さい事業者や個人がいるから問題が起きやすくなっていると指摘する向きもあるが、それらはネットが普及して初めて登場したのではない。ネットは可視化されやすくなっているから目立つだけで、ステルスマーケティング的な広告手法は、ネット普及以前からごく当たり前に行われてきた商業活動の一部であり、そしてそれらはわたしたちが日常生活の中でふつうに行なっていることの一部だ。

 

つまり、わたしたちがなくしたいと考えるステルスマーケティングと、このくらいならいいだろうと考える行為との差は、一般に考えられているほど大きくはないのだ。したがって、ステルスマーケティングをなくしたいと思えば、何が許されて何が許されないか、わたしたちの「常識」とは何なのかをひとつひとつ細かく判断していかなくてはならない。刻々と変化する技術やビジネスモデルもどんどん取り込み、随時判断を変更していかなくてはならないということだ。

  

 

「新たな法規制」は必要なのか

 

 こうした「細かい判断」を行うための具体的な基準を、WOMJは2009年に口コミマーケティングにおけるガイドラインとして発表した。その中核となる部分は、ブロガーなどの情報発信者が金銭、物品、サービスの提供を受けた場合にはその旨がわかるように表示するという、いわゆる「関係性明示」の原則だ(ガイドラインは2012年12月に改訂され、新たに「消費者行動偽装の禁止」が原則として盛り込まれた)。

 

会員事業者はこれに沿った各社独自の方針を設定し、口コミマーケティングを行う際には、個々の情報発信者に対し、関係性を明示してもらうよう努めることとなっている。具体的に問題となる事例や手法が出てくれば逐一検討し、ガイドラインは随時改訂されていくしくみだ。

 

残念ながら、現状でガイドラインが完全に守られているとはいえない。今回問題となったペニーオークション詐欺のステルスマーケティングが行われたアメーバブログも、会員事業者であるサイバーエージェントが運営しているものだった。同社自体は本件ステルスマーケティングに関わっていなかったようだが、契約ブロガーに対する管理が甘かったという批判は免れない。今回の事件を受け同社は、2012年12月20日付で同社のガイドラインを見直し、ガイドラインに反したブロガーへの罰則規定を定め、不正業者などへの対応策をとると発表した。他の会社も、今まで以上に取り組みを進めていくだろう。

 

こうした状況下で、ステルスマーケティングに対して、新たな法規制は必要なのであろうか?

 

たしかに現在、日本には、ステルスマーケティングを直接規制する法律はない。広告等における不当な表示に関しては、不当景品類及び不当表示防止法(いわゆる景表法)にこれを禁止する規定がある(第4条)が、これは実際より優良ないし有利と消費者に誤認させるような表示を禁じるものであり、ステルスマーケティングそのものへの規制ではない。

 

また、ネット販売も含む通信販売に関しては特定商取引に関する法律(特商法)が適用され、広告の表示内容に関する規制(第11条)や誇大広告等の禁止(第12条)などの規制があるが、これも「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止対象としたものだ。

 

今回のステマ騒動を受けて、法規制論を唱える人々がいる。彼らが具体的にどんな規制を主張しているのか詳細はわかりかねるが、しばしば出てくるのは海外の事例だ。

 

たしかに欧米には、法的な規制を導入している国もある。たとえば英国では、EUが2005年に採択した「不公正商行為についてのEU指令」(UCPD)を受けて、2008年に「不公正取引から消費者を保護するための法律」(CPUTR)が制定された。米国では、2009年にFTCが「推奨及び体験談の広告への使用に関するガイドライン」を定めている。

 

これらにおいてはステルスマーケティング、つまり広告主その他スポンサーなどから金銭その他の提供を受けたにもかかわらずそれを表示せずに(つまり関係性明示を行わずに)推奨等を行うといった行為は禁じられている。消費者の「informed decision」を重視する考え方だが、事業者のみならず、個人のブロガーなどでも処罰されるおそれのある罰則を含む。個人間のコミュニケーションに直接介入されるおそれがあるという点では、強力な規制といえる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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