ステルスマーケティングへの「対策」について 

関係性明示の法規制は有害無益

 

こうした規制を行えばステマ問題は解決するだろうか。なにがしかの効果はあるかもしれない。事業者や個人が、法で禁止された行為をおおっぴらに行うことは、少なくとも表面的には減るだろう。しかしそれらは実際のところ、わたしたちにさしたるメリットをもたらさない。まともな事業者のうち主だった企業はおおむねすでにWOMJの会員となってそのガイドラインを守るよう努めているし、WOMJ会員でなくても、善良な事業者は多い。まともな個人も大多数はこうした行為にあからさまに手を染めたりすることはないだろう。

 

一方、ステルスマーケティングが具体的な消費者被害につながるのは、今回のペニーオークション詐欺のように、もともと消費者を騙して商品やサービスを買わせるような場合だ。実際、国民生活センターが「サクラサイト」として注意を呼びかけている事例はいずれも、販売される商品・サービスの内容や契約条件等が詐欺的、背信的、あるいは消費者への配慮を欠くような場合で、関係性明示の有無に起因するものはあがっていない。出会い系サイトや内職・副業等に関するものが多くを占めるようだ。

 

http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/internet2.html

http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/sakurasite.html

 

こうした、それ自体違法な活動を行う事業者やその宣伝にあえて加担するような個人は、仮にステルスマーケティングが違法行為であったとしても、それを厭わないだろう。つまり、このような法規制をしても、もっとも防ぐべき状況には効果が期待できないということになる。

 

ステルスマーケティングは、外部から立証することが難しい。一般の口コミと金銭等に動機づけられた情報発信は、実際にはなかなか区別できない。法規制のある英米でもあまり摘発例は聞かないが、難しいのだろう。これをむりやり根絶しようとすれば、実効性のある手段は、きわめて広範かつ徹底的なインターネット規制しかありえない。それは当然ながら、事業活動の自由のみならず、個人の表現の自由やプライバシーを大幅に制限することになろう。コミュニケーション全体に対する萎縮効果は計り知れない。

 

一方、日本弁護士連合会は、2012年2月17日付で、「インターネットを用いた商取引における広告の適正化を求める意見書」を出している。

 

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120217_2.html

 

特定商取引に関する法律(いわゆる特商法)を改正せよという意見書だが、この中には口コミサイトについても言及があり、関係性明示の不備を、同法第12条の2に定めるいわゆる不実証広告規制の対象とせよ、と読める趣旨の意見が書かれている。具体的な意図は不明だが、これによって、関係性明示がない場合には消費者の側に解約権などを認めようという考え方と思われる。

 

特商法は「販売業者または役務提供事業者」が対象なので、この案では口コミをしただけの一般的な個人が刑事責任を問われるような規制にはならないかもしれないが、安心はできない。また、この案では『食べログ』その他で問題になったような、通信販売以外の事業者が行ったステルスマーケティングは対象にならないだろうし、ネットだけを規制しようとする意図がかいま見えるのも気になる。いずれにせよ、個人の口コミと見えるものがステルスマーケティングによるかどうかはわからないので、口コミマーケティングに関してもっとも防ぐべき悪質なケースには効果が期待できない、という点は同じだ。

 

上記意見書は、インターネット通販に関する国民生活センターへの相談件数が近年増加していると指摘するが、一方で、日本広告審査機構(JARO)が受け付けた広告に関する苦情・意見の中で、インターネットに関するものは、件数も全体に占める割合も伸びてはいない。

 

図1は、最近のJAROに対する苦情・意見の受付件数の推移と、そのうちテレビとインターネットがどのくらいの割合を占めるかを示したものだ。「意見」とは「問合せ」の中でも「苦情」に近いもので、要するに問題のある広告だとの情報が寄せられたケースということになろう。

 

 

※JARO審査統計より作成

※JARO審査統計より作成

 

まず、この期間を通して、広告全体に関する苦情・意見の受付件数が減少傾向にあることを確認されたい。JARO自体への認知度が上がってきている中での減少である点は重要だ。主な減少要因は折込広告など、ここでいう「それ以外」の部分だが、テレビやインターネットについても、件数はやはり減少傾向である。全体のうちネットが占める割合は、上下があるものの、この期間を通じておおむね15%前後で、増加の傾向は特段みられない。

 

JAROは、取引や契約内容に関するものなど、広告・表示に直接関係ないものは取り扱わない。国民生活センターへの相談件数が増えているのにJAROへの苦情が増えていないということは、問題が広告の手法ではなく、取引の内容やその方法自体にあると解すべきであろう。

 

また、全体のうちテレビ広告に関する苦情・意見件数が占める割合もおおむね同水準で推移しているが、それが40%前後と圧倒的に高いことは、メディアとしてのテレビのプレゼンスが、依然としてネットよりはるかに大きいことを示している。

 

そうした影響力の大きいテレビ広告は、景表法をベースに自主規制で対応しているのが現状だ。このような状況で、なぜ口コミマーケティング業界を巻き込んで、個人間のコミュニケーションにまで介入するようなかたちで関係性明示を法で規制しようという主張が出てくるのだろうか。

 

上記意見書を読む限り、日弁連としては、出会い系サイトや詐欺的な商品・サービスを売る悪質な事業者への責任追及を行いやすくするために、広告における関係性明示の不備を口実として使いたいという意図のようにもみえる。しかし、そうした一部の悪人たちへの対応のために、圧倒的大多数を占める善良な人々によるネット上の口コミ全般にまで大きな影響を及ぼす規制をかけようというのは、あまりに乱暴すぎる。

 

どのような法規制も、それが実効性をもつためには体制の整備やコストの負担が必要であり、それがなければ絵に描いた餅にすぎない。実際には、有効な取締体制をつくることは難しく、一罰百戒のようなかたちにならざるをえまい。中途半端な規制にとどまれば、善良な事業者や個人は退場し、残るのはもともと悪意のある事業者や個人だけとなる。実態は闇に潜ってさらにわかりにくくなり、副作用としての弊害だけが残るだろう。つまり、このような規制は、善良な者を萎縮させるか悪人を跋扈させるかのどちらか、あるいはその両方にしかならない。状況はより悪化することになる。

 

そもそも、法規制ではどうしてもきめ細かい対処ができず、急速に変化する技術やビジネスモデルにもついていけないという抜本的な問題点がある。要するに、現状で法規制を強化して対策をとろうという考え方は、あまりスジのいい話とは思えない。

  

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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