『1984 フクシマに生まれて』刊行記念 大野更紗と開沼博が選ぶ「生き抜くためのブックレット」

『難病カルテ 患者たちのいま』(生活書院)

 

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開沼 『難病カルテ』ですか。どんな本ですか?

 

大野 新刊ですね。毎日新聞佐賀支局の一記者が、難病患者を1人ずつ、ほぼ週1回のハイペースで紹介する連載の枠を紙面に勝手に組んじゃったんです。その連載記事をまとめたものです。

 

開沼 難病を特集するだけじゃ貴重な紙面の連載枠はなかなか貰えないと思うんですけど、なんでそれが出来たんですかね。続いたのはいい反響があったからだと思うんですけど。

 

大野 まずは地域性だと思う。地域に密着して、佐賀の読者に読んでもらえるような記事を書き続けたから。

 

開沼 それはローカリティーを強調するような記事ということですか?

 

大野 ううん、そうじゃなくて。あの町に住んでいるあの人の人生を描く中で、難病について触れられている、という感じ。病気が先にあるわけでなく、「こんな人がいるよ」って。

 

開沼 なるほど。82年生まれ。若いですね。

 

大野 若いのに、取材がすごいの。佐賀県で難病患者の方の実態調査をしたときに、いろいろお手伝いしてもらったのですが、わたしたちがやるような、学術的な調査とはやり方が全然違うんですよ。プロフェッショナルな記者の取材方法を垣間見ました。

 

開沼 新聞記者の方って3、4年したら異動しますよね?

 

大野 そうです、もう既に異動したと聞きました。数年の期間で、異動する記者が一つの成果を出すってものすごい難しいことなんですけど、彼はそれをやってのけたんですね。

 

 

『ももクロの美学 ~<わけのわからなさ>の秘密~』(廣済堂新書)

 

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開沼 次は『ももクロの美学』。アイドル批評はいろいろと出てきていますけど、この本はももクロ(ももいろクローバーZ)を通して、あらゆる現代的な文化現象の裏にあるカラクリを解き明かしていく異色なものです。筆者の安西信一さんは東大の美術史の先生で最近急死されました。いろいろ話したいことはあるんだが、話し出すと長くなるので……。

 

大野 開沼くんって、アイドルけっこう好きでしょ。

 

開沼 まあ、基本情報をおさえる程度には。

 

大野 いや。開沼ウォッチャーの私は知っていますよ。開沼くんがAKB48の曲で踊っているところを、私はYoutubeで確かに見た。

 

開沼 恋するフォーチュンクッキーですね。宇野常寛バージョンで踊っていました。

 

いや、いい話をしてくれました。この本はまさにそういうことを書いているんですよ。つまりかつてのコンテンツ消費の構造というのは、美空ひばりのような絶対的なスターが頂点にいて、みんなはそこから落ちてきたものを鑑賞し、思いを投じて感動するという一極集中型の形態だったのが、いまはバラバラの多極分散型で、いろいろな個性をもった多様なスターに対して、AKB48の総選挙だったら「この子がいい!」と票を投じる。そうやってファンが遍在していくようになっているんですね。しかもそのコンテンツを今度は自分たちでプロデュースするという感覚まで持ち始めて、自分たちで踊りだす。Youtubeで検索してもらえばわかると思うんですけど、恋するフォーチュンクッキーだけでも何百というバージョンがあります。

 

大野 県が作ってたり、病院の職員が踊ってたりしていますよね。衝撃だった……。

 

開沼 一極集中のスターじゃなくて、多極的なものに自分が参加していく感覚。これは『交渉プロフェッショナル』の話と似ていて、「社会に自分が参与しているんだ」って実感が社会を構築していく。そういうことを書いているんですよ。

 

大野 ……まあ、うん、わかりましたよ。読みますよ、はい。わかりました。

 

開沼 ええ、ありがとうございます。

 

 

『遺伝子医療革命 ゲノム科学がわたしたちを変える』(NHK出版)

 

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大野 この本は一押しです。2000円代だからちょっと高いんだけど。やっぱり一般書は、1000円代超えるとなかなか手が遠ざかりますからね。

 

開沼 そうですね。

 

大野 これはフランシス・S・コリンズというアメリカの研究者が書いた本の翻訳です。遺伝子診断とか出生前診断とかいろいろ聞くけど、そもそも遺伝子情報ってどういうものなのか、今は何ができるようになっているのか、まとまっている本は意外にない。これを読めば、たぶん、町内で一番遺伝子について詳しい人になれる。

 

開沼 戦後の科学史を振り返ると現代において遺伝子って非常に重要なものだということがわかりますよね。日本だと戦後に科学技術庁ができたとき、宇宙開発と原子力開発が2大メニューであった。宇宙開発におけるロケットを飛ばす技術はミサイルを飛ばす技術と直結している。他方、原子力政策はミサイルに搭載される核弾頭を開発する技術と直結している。

 

もちろん、日本が核兵器を開発していたというわけではありません。そうではなく、言いたいのは、グローバルな科学技術の最先端というのが冷戦構造と表裏一体のものとしてあり日本もそのグローバルな枠組みの中で科学技術開発競争の末端に位置づけられていたのは確かだということです。インターネットなどの情報技術の開発もまた、元は軍事技術ですからね。

 

しかし冷戦が終わると、この人類の限界を超える試みは衰退していき、一方でマクロとミクロに分化して新しい潮流も生まれてきます。つまり、環境問題を背景としたCO2削減問題が現れ、他方で生命科学も注目されるようになってくる。いま話題の小保方問題も、あるいはiPS細胞の捏造で注目された森口尚史もその他の様々な捏造問題も、考えてみるとここらへんの分野で起きているんですよ。これらは科学と政治の汽水域にある。純粋な科学を追求する身からすればきな臭いことがいろいろとおこる可能性が高まるのは必然であるとも言えるでしょう。

 

大野 バグが起きるということは、その背景にものすごいたくさんの人たちが参入しているということですもんね。

 

開沼 そうですね。この本の結論は、遺伝子によってなにができるようになったか、ですか?

 

大野 いろんな見方ができます。私の読み方は、遺伝子情報がアルファベットの羅列になったことについてです。つまり遺伝子が「情報」になった。ということは、この情報をいかに社会が扱うかということは、自然科学ではなくて社会科学の問題になってくる。だから社会科学系の人間こそこの本を読んで、「われらがやらなくてはいけない仕事が増えた」ことを実感しないといけないと思います。

 

開沼 ああ、それは大事なことですね。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
・穂鷹知美「マルチカルチュラル社会入門講座――それは「失礼」それとも「人種差別的」? 」
・福原正人「戦争倫理学と民間人保護の再検討――民間人殺害はなぜ兵士殺害より悪いのか」