『1984 フクシマに生まれて』刊行記念 大野更紗と開沼博が選ぶ「生き抜くためのブックレット」

『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(筑摩書房)

 

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開沼 つぎの本は『日本語が亡びるとき』。

 

大野 物書きとして、このタイトルを推薦していいのか? とも思いますが。水村美苗さんは名だたる賞をとりまくっている作家さんです。お連れ合いは経済学者の岩井克人さん。

 

この本はアメリカで開かれた、世界中の作家が集まるワークショップに水村さんが参加したときに感じたことを軸に書かれているのですが。題字のごとく、いかにして日本語に亡びていくか……というよりは、あらゆる出版物が徐々に英語という言語に収斂していく可能性を危機感をもって書かれている本ですね。

 

開沼 データとかを使って、ですか?

 

大野 いえ、作家ですから。エッセイです。日本の近代文学は、比較的短い期間に、いろいろな偶然が重なって成立した。もはや過去の盛り上がりはあり得ないことを自覚的に正視するより他ないという、悲観的なお話です。

 

開沼 でも『恋空』(スターツ出版)みたいなケータイ小説もでてきてるじゃん、みたいな話は……?

 

大野 だから、作家だから。そういう話は、ガン無視。

 

開沼 年配の方ですか?

 

大野 まあ、そうですね。

 

開沼 そうか、じゃあ仕方ないかな。

 

会場 (笑)。

 

 

『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地』(講談社現代新書)

 

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開沼 これは、いまの話と似ていますね。毎日新聞の記者としてワシントン特派員をされていた方が、アメリカのメディア状況について書いているメディア論です。

 

日本の新聞制度は世界からみたら特殊です。アメリカでいう新聞って、日本の地方紙にあたるものなんですよ。だから毎日新聞や朝日新聞、読売新聞のような大きな組織もなくて、近年倒産したりする場合も増えています。そういうところは、NPOになったり、オンライン化しながら苦労して経営しているのが現状です。日本でも新聞を読む人が減っているといった指摘が随分前からされていますが、アメリカが陥っている戦国時代的な状態を知ることで、日本のメディアのこの先を見通す重要なヒントになるんじゃないかと思って選びました。

 

大野 紙メディアは全滅しないだろうけど、いままでと同じような規模じゃ残らないだろうね。過渡期にあって、みんなどういう形態に移行するか悩んでいる。

 

開沼 仕事上必要じゃない人は僕たちの世代でも新聞を読まないですよね。読むとしてもオンライン。今後どうなっていくんでしょうね。

 

つぎでお互い10冊目ですね。もう時間がないので10冊ずつで終わりにしましょうか。

 

 

『生きていく絵 アートが人を<癒す>とき』(亜紀書房)

 

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大野 『生きていく絵』です。作者の荒井裕樹さんは、若き文学研究者。私たちと同世代ですよ。障害をもった人たちやハンセン病者、精神疾患の人たちの文学表現を研究されている方です。この本では、精神科病棟の中でずっと絵を描き続けている患者さんたち作品を紹介しています。

 

こういう問題って、社会保障とか福祉の視点で語られがちですけど、荒井さんはとにかく「文学」にこだわるんですね。自己表現するということは人間にとって何なのかという、根源的な問題意識がある。

 

開沼 「治療行為ではなく」とも「作品論でもない」とありますけど、だとしたらどうやって書いているんですかね?

 

大野 明確な論旨を提示するような本じゃないんです。読んでいるうちに、この人たちにとって絵を描くこと、表現することが「生きる技法」なんだってことがなんとなく伝わってくる。精神疾患の領域は、まだ内部からの当事者研究は始まったばかりで、どういう問題があるのか十分に言語化されていないので、そういう試みのひとつになるんじゃないかと思います。

 

 

『海賊党の思想 フリーダウンロードと液体民主主義』(白水社)

 

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開沼 最後ですね。浜本隆志さんの『海賊党の思想』です。

 

大野 海賊党ってなんですか?

 

開沼 海賊党の「海賊」は、いわゆる海賊じゃなくて、「海賊版」の海賊。

 

大野 DVDとか勝手にコピーしちゃう人たちですね。

 

開沼 そういう意味の海賊でもあり、いわゆる「海賊」的な、グローバルに活動する側面もある集団のことを海賊党といいます。ある種の新しいリベラルの方向性としての方針も打ち出されているような本です。

 

大野 サブタイトルが気になりますね。「フリーダウンロードと液体民主主義」って初めて聞いた(笑)。

 

開沼 著作権のフリー化と液体民主主義がポイントです。液体民主主義は、シンプルにいえば直接民主主義と間接民主主義をあわせたようなものですね。

 

いまFacebookとか2chみたいなものに「こんなトピックあるけど、どう思う?」って問題提起をして、それをみた人たちがいろいろ書きこんで意見交換する状況がありますけど、それを仕組化し、投票できるようにして、政治制度として決定してしまおうということが、液体民主主義。

 

ただ、実際やってみると難しいよねという話も書かれている。この前の都知事選の家入さんも「俺の政策を充実させるためにみんなツイッターで意見を呟いて」とやってましたよね。

 

大野 「ぼくらの政策を」だっけ?

 

開沼 そうです。でも既存の民主主義の枠組みの中で液体民主主義をやろうとすると家入さんと同じように泡沫候補的な数字しかとれないということも経験的にわかってきています。海賊党の支部はヨーロッパにたくさんあるけど、気運として盛り上がって議席をとっても資金難になっていたり、若い人しかいないから政治的な作法がわからなくて潰れていったり、結構シビアな側面がでている。

 

とはいえ家入さん的なもの、海賊党的なものは、10年、20年後にデジタルネイティブが育っていくことを考えると、可能性として見続けていけないと思っています。

 

大野 そっか、面白そう。

 

開沼 ……というわけで、やはり30冊は紹介できませんでしたが、そろそろ時間なのでこのあたりでトークイベントを終了したいと思います。『1984 フクシマに生まれて』とあわせて、今日紹介できた20冊も、紹介できなかった10冊もぜひ手に取って読んでいただければ。

 

大野 そうだね。みなさん今日は長い時間ありがとうございました。

 

※当日紹介されなかった本は、こちらでご覧いただけます!

 

(2014年3月23日 池袋にて)

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
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・福原正人「戦争倫理学と民間人保護の再検討――民間人殺害はなぜ兵士殺害より悪いのか」