オバマよ、フォード政権から学べ!――海外報道からみるアジア回帰政策のいま

米国のオバマ政権は2011年後半にアジア回帰政策(「ピボット」、「リバランス」)を発表、アジア太平洋地域に地政学的戦略の軸足を置くことを宣言した。この政策によって2020年までに、米国の空軍と海軍の軍事力の60%をアジアに再配置すると決定を下した。

 

しかし、その後、国務長官や国家安全保障問題担当大統領補佐官などが交代する中で、ウクライナ情勢と中東情勢に大きな変化が生じ、米国はそれらの事態への対応に追われている。世界の他の地域に米国の注意を向ける必要が強まる中、アジア回帰政策は既に行き詰まっているという声も一部にある。

 

そこで本稿では、米国のアジア太平洋地域における外交政策の現状に注目する。

 

 

国防総省と軍主導の米国のアジア太平洋地域政策

 

まず最初に、アジア太平洋地域情勢を中心に報道を行っている雑誌『The Diplomat』が、8月16日付の記事(ザカリー・ケック氏)で報じた内容について見てみたい。

 

本記事では、中東、アフリカおよび欧州における米国の軍事行動が拡大している一方で、アジア太平洋地域における外交政策は国防総省と軍主導で動いており、政府高官の訪問は実質的な成果につながっていないことが強調されている。

 

記事の冒頭で、国防総省のジョン・カービー報道官が8月14日(木)の記者会見で語った、次のような発言が紹介されている。

 

 

「世界中の様々な情勢を考慮し、我が国はアジア太平洋地域の重要性を認識している。350,000人以上の米国軍兵士、200隻の艦船、海軍の大部分が太平洋に配備されている。また、我が国が同盟関係を結んでいる七ヶ国のうち五ヶ国が太平洋地域に位置しており、我々は太平洋地域を非常に重要視している」

 

 

続いて、米国の政府高官が相次いでアジア太平洋地域を訪問していることが紹介されている。

 

 

チャック・ヘーゲル国防長官がインドとオーストラリアを訪問し、その直後には、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長[注1]がベトナムを訪問した。米国の統合参謀本部議長がベトナムを訪問するのは、ハノイの中央政府の下でベトナムが統一国家となって以来、初めてのことだ。この際に、ベトナム軍の最高幹部と国防大臣と会談しただけでなく、グエン・タン・ズン首相との会談も実現している。続いて、ボブ・ワーク国防副長官も六日間の日程でグアム、ハワイ、日本、韓国を訪問することになっている。

 

[執筆者注1]:米統合参謀本部とは米軍の最高参謀機関。国防総省に属し、大統領・国防長官・国家安全保障会議を補佐する。

 

 

ケリー国務長官とオバマ大統領の動向

 

記事ではさらに、ジョン・ケリー国務長官とオバマ大統領の動向にも言及している。ケリー長官の外遊は実質的な成果にほとんど結びついていないこと、またオバマ大統領はアジア回帰宣言以降、アジア太平洋地域についてほとんど触れていないことに注目している。その詳しい内容は、以下の通りだ。

 

 

ジョン・ケリー国務長官も七月に中国とインドを訪問、両国との戦略対話を行っている。また八月に入ってミャンマーで開催されたASEAN地域フォーラムに出席し、ヘーゲル国防長官と共にオーストラリアで開催された外務・国防閣僚会合(2プラス2)にも出席、ソロモン諸島も訪れている。さらには、ハワイの東西センターでアジアをテーマに講演も行っている。

 

しかし、ケリー長官の外遊はオーストラリアでの2プラス2以外、実質的な成果をほとんど生んでいない。東西センターでの講演でも、実質的なビジョンはほとんど何も語られなかった。さらに、中東情勢が重くのしかかっている。そのため、アジアにいても、心ここにあらずという状態だ。

 

さらに重要なのは、ホワイトハウスの存在感が、アジア太平洋地域から完全に消えてしまっていることだ。カート・キャンベル前国務次官補やトム・ドニロン前国家安全保障問題担当補佐官が政権を去った今、オバマ政権の中国政策およびアジア政策の鍵を握る人物が誰なのかという問題は、依然としてはっきりしていない。ホワイトハウス補佐官のほとんどが、アジア太平洋地域に関心を持っていないような印象を与える。オバマ大統領自身、アジア回帰を宣言したにもかかわらず、その後は外交政策に関する演説の中でアジア太平洋地域についてほとんど触れていない。

 

 

記事は、このような状況の中で、アジア重視の方針転換は軍事分野が中心となっているのが実態であることを強調しており、「例えば、新たな協定によって、オーストラリア北部ダーウィンに海兵隊が駐留することになり、米軍のフィリピン軍基地へのアクセスも強化されている」と伝えている。

 

以上が、雑誌『The Diplomat』の記事(ザカリー・ケック氏)のまとめだ。

 

次に、『The Diplomat』記事の後半で言及されていた、米国とオーストラリアの軍事面での関係について見てみよう。

 

 

安全保障で連携を強める米国とオーストラリア

 

同じく『The Diplomat』が8月15日付の記事(ケヴィン・プラセック氏)で報じた内容について見てみよう。記事では、外務大臣と防衛大臣の協議や軍の共同演習といった、米国とオーストラリアの軍事面での緊密な関係がクローズアップされている。

 

詳しい内容は以下の通りだ。

 

 

シドニーで行われた米豪外務・防衛閣僚協議(AUSMIN)[注2]には、米国とオーストラリアの外務大臣と防衛大臣が出席し、二国間関係の長期的な戦略の方向性について計画を策定した。今年の最重要議題は、防衛と安全保障における協力だった。両国の大臣は戦力態勢協定に調印したが、同協定によって、オーストラリア北部ダーウィンに、最大で2,500人規模の米海兵隊がローテーション展開することが定められた。この協定に基づいて、米海兵隊は豪海兵隊との共同演習および共同訓練を実施することになっている。さらに、米軍の戦闘機によるオーストラリア北部へのローテーションも増え、米国空軍とオーストラリア空軍の連携が強化されている[注3]。

 

[執筆者注2]:米豪外務・防衛閣僚協議(AUSMIN)は1985年以降、毎年定期開催されている。

 

[執筆者注3]:2011年11月、オバマ米大統領とギラード豪首相(当時)は共同発表を行い、(1)ダーウィンなどのオーストラリア北部において米海兵隊が毎年六ヶ月程度のローテーションで展開し、オーストラリア軍との演習・訓練を行うこと、(2)オーストラリア北部におけるオーストラリア軍の施設・区域への米空軍機のアクセスを拡大し、共同演習・共同訓練の機会を拡大することを内容とする米豪戦力態勢イニシアティブを明らかにした。

 

チャック・ヘーゲル米国防長官はこの協定について、「地域の安全保障に対する米豪両国の同盟による貢献を拡大・深化させ、アジア太平洋地域における米国の戦略的リバランスを前進させるものだ」と述べている。デヴィッド・ジョンストン豪防衛大臣は、アジア太平洋地域における米国のリバランスは「非常にスムーズに」進んでおり、「両国にとってメリットをもたらす理想的な状況だ」という点を強調している。

 

米国とオーストラリアはこのように協力関係が深まっており、2014年共同声明では、二年に一度行われている米豪共同演習「タリスマン・セーバー」[注4]を通じて、集団的能力を強化し、即応性を維持し、米豪軍の相互運用性を強化する重要性が強調されている。

 

[執筆者注4]:「タリスマン・セーバー」は2005年以降行われている米豪共同演習で、作戦分野における即応性や相互運用性(インターオペラビリティ)の向上を目的としている。2013年7月から8月にかけて行われた同演習には、約21,000人の米軍および約7,000人のオーストラリア軍が参加した。

 

また、ミサイル防衛における協力強化に関する計画も前進している。両国の大臣は、「アジア太平洋地域における弾道ミサイルの脅威増大に対抗するために共同で行動する」ことで合意した。

 

 

以上が、『The Diplomat』記事(ケヴィン・プラセック氏)のまとめだ。

 

 

 

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