いま、中東ってどうなってるの?――イエメンから読み解く混乱の中東情勢

混迷が続く中東情勢に新たな動きが出てきている。サウジアラビアなどのアラブの連合軍がイエメンの軍事介入を行った。アラブ合同軍の創設、イランの核問題、そして、ISIL……。複雑に入り組んだ中東問題を整理し、今、中東で何が起きているのかを解きほぐす。 2015年03月31日(火)荻上チキ・Session-22「中東情勢を整理する」より(構成/八柳翔太)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

「スンニ派」、「シーア派」、「フーシ派」

 

荻上 イエメンではアラブの春以降、フーシ派の武装勢力が力を強めています。サウジアラビアなどが空爆に踏み切りますが、それに対しフーシ派を支援していると言われているシーア派のイランが反発しております。さらに、イエメン情勢をめぐってアラブ連盟では「アラブ合同軍」の創設が話合われました。

 

今夜は、混迷を極める中東情勢について、イエメンから読み解いていきたいと思います。ゲストは、放送大学教授の高橋和夫さん、元在イエメン日本国大使館専門調査員で、放送大学非常勤講師の川嶋淳司さんです。

 

高橋・川嶋 宜しくお願いします。

 

荻上 まず、基本的なお話から伺いたいと思います。今回、イエメンの武装勢力の話の中で、いろいろな「派」の名前が出てきています。スンニ派、シーア派、フーシ派。まず改めて、スンニ派とシーア派の違いから、教えて下さい。

 

高橋 まず、7世紀にイスラム教が興ります。ムハンマドが預言者として、神の言葉をつたえたわけです。このムハンマドが存命の間は、彼がリーダーという事で何の問題もなかったのですが、彼の死後、後継者=「カリフ」をどうするか、という事でいろいろ揉めた。ですからスンニ派とシーア派の違いは、カリフを誰と考えるかの違いです。

 

荻上 それ以外に、両派の何か違いはあるんですか?

 

高橋 はい。例えばモスクの装飾の仕方だとか、礼拝の呼びかけの声だとかが違います。長年派閥を異にするうちに、同じイスラム教でも教義体系が微妙に変ってきたんです。

 

荻上 加えて、「フーシ派」。これは、どういうものでしょうか。

 

高橋 フーシ派という言葉は、シーア派の中の、一部の人々を指しています。フーシ、というのは人の名前ですね。言ってみれば「チキ派」とか、そういうニュアンスなんです。

 

荻上 なるほど。では、「アラブ連盟」というのは?

 

高橋 アラブ人の国の組織、という事になりますね。我々は、アラブ人=イスラム教徒という認識を持ちやすいですが、イスラム教徒の多い国でも例えばイランはペルシャ人の国です。だからアラブ連盟には入れない。インドネシアも然りです。

 

 

「アラブの春」とイエメン

 

荻上 ここからは、イエメンの話を伺いたいと思います。川嶋さんは、イエメンの大使館に勤めていらっしゃいましたよね。イエメンというのは、どのような国なのでしょうか。

 

川嶋 非常に貧しい国です。中東の最貧国ですね。存在感も、サウジアラビアだとか、エジプトだとかの地域大国に比べると、やはり希薄です。そんな中、テロ組織の拠点として、逆に注目されるようになってしまった。貧しさにつけ込まれたのだと思います。

 

荻上 イエメン滞在中は、どのようなお仕事をされていたんですか。

 

川嶋 イエメン政府や国際機関から現地の情勢に関する情報を集め、日本の外務省に報告していました。とくに、治安の情報には細心の注意を払っていましたね。開発援助などを目的にイエメンに滞在している邦人の安全を確保しなければならないからです。

 

荻上 イエメン国内の宗教対立、格差、地域差について、何かお感じになった事はありましたか。

 

川嶋 国全体が経済的に困窮しているのですが、なかでも首都に富が集中して、地方の開発が遅れている状態です。インフラの整備もなかなか進みません。今回の問題でも、地方の不満は大きな背景になっていると思いますね。

 

荻上 宗教対立はあるのでしょうか。

 

川嶋 イエメンでは長らくスンニ派とシーア派が共存していて、宗教対立が政治問題化する事はありませんでした。今でもないと私は思っています。一方、周辺諸国は今回の問題について宗派間の不和ありきで考えている。その視点がそのままイエメン国内に持ち込まれ、事態を悪化させたのではないか、と思います。

 

荻上 なるほど。外側からの「眼差し」が、国中の分断を加速させたという事ですね。

 

川嶋 今回イエメンの混乱の発端となったのは、宗派ではなく、極めて国内政治的な原因でした。「あなたはシーア派じゃないか」「あなたはスンニ派じゃないか」という議論は、どこにも出てこない。ただ、揉めている片方にシーア派が、もう一方にスンニ派がいるだけの話です。

 

そしてスンニ派ならサウジアラビア、シーア派ならイラン、といった同派の大国の後押しを受ける事で、それぞれ国内で有利に事を運ぼうとしているんです。

 

荻上 なるほど。宗派対立は本質的な原因ではなく、周辺諸国の力添えを得るための、言わば「アピール」だったという一面があると。では、もともとの原因とは一体何だったのですか?

 

川嶋 2011年の「アラブの春」により、長期独裁政治を敷いていたサーレハ大統領が退陣しました。その後、新体制づくりに向けた動きの中で、ある人は不満を持ち、ある人は力を得、といったパワーバランスの変化があったんです。内輪揉めですね。その中で武力行使に打って出たのがフーシ派です。

 

彼らは新大統領に就任したかつての副大統領・ハーディを追い出してしまいました。ハーディ政権は、連邦制への移行を主張し、また強行しようとしました。フーシ派は、それに「待った」をかけたのです。

 

荻上 ハーディ大統領は、なぜ単一国家から連邦制にしようと考えたんですか?

 

川嶋 イエメンは1990年に旧北イエメンと旧南イエメンが合体して誕生しました。しかし、この統一は旧南側の人々に取って納得のいくものではなかった。蓋を開けてみると、政府の要職には北イエメン出身者ばかりが就いていたのです。

 

南側からは、「分離独立したい」という声まで上がるようになりました。しかし、独立されては困る。そこで妥協案として考え出されたのが、連邦制なのです。分離独立でもなく、単一国家でもなく、地方自治の裁量を大きくしよう、というわけです。

 

荻上 それに対し、フーシ派はなぜ連邦制に反発するのでしょうか?

 

川嶋 この場合の連邦制国家は、もともと旧南イエメンの人々を懐柔するための構想です。しかし、連邦制を導入するからには、当然イエメン全土が連邦制国家となる。旧北イエメンもそうです。しかし、彼等はべつだん連邦化を望んでいたわけではない。そこで政治的な問題が持ち上がってきました。

 

例えばどのように資源のある地域を分けるのか、海へアクセスし易い地域を分けるのか、などです。これらは非常にセンシティブな問題ですから、よく考えなければなりません。ところが充分な議論もないまま、連邦制の話はどんどん進んでいってしまう。我慢を切らしたフーシ派が、ついに武力を用いてしまったのです。

 

荻上 もともと、南北で対立していたのですね。宗派も分れていたのでしょうか?

 

川嶋 きれいに分れているわけではないのですが、旧南イエメンには、スンニ派が多いですね。旧北イエメンには、スンニ派とシーア派どちらもいて、政治的な実権はいつもシーア派が握ってきました。

 

荻上 とすると、宗派の違いは南北対立の根本的な原因ではない、但しひとつの要素であるにはある。ここで不思議なのはフーシ派が持つ不満だとか、あるいは各地域の人たちが持つ「自分たちの地域にこそ有利な点を引き寄せよう」という考えに対策を講じるという事は、できなかったのでしょうか?

 

川嶋 先ほどの話に戻るようですが、イエメンは中東の最貧国です。そんな最貧国が、国内の政治的な揉め事だけでなく、テロとの戦いや経済問題など多くの課題を同時に抱え込んでしまった事で、ひとつひとつの問題への対応が手薄になってしまった。

 

荻上 フーシ派は、どのような統治体制を構想しているのですか?

 

川嶋 自分たちを中心とする体制の構築を、着々と進めています。が、まだ支配基盤が盤石ではない事を彼ら自身も重々承知していますので、武力行使に打って出る場合も、いきなり首を切ったりはしない。懐柔策に出るわけです。基本的にはもともとあった行政組織を温存させています。【次ページに続く】

 

 

 

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