アメリカが創り出した原爆言説――70年にわたる日米共犯関係を直視するために

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

70変わらない基本認識

 

アメリカをはじめとした世界の多くの国々で、このハーシーの『ヒロシマ』はいまだに読み継がれています。北米やヨーロッパの学界でも、『ヒロシマ』は原爆被害に関する主要文献としてよく参照され、その名を聞けば多くのアメリカ人が「知っている」と首肯する有名な本です。

 

しかしそれは同時に、戦後70年たった今でも、原爆被害に対する基本的な認識が『ヒロシマ』に描かれている以上先に進まずに、打ち止めになっていることも意味しています。西洋中心主義的に形成されて来た「言及の網」の中で、トルーマン声明の原爆観が維持され生産され続けて来たのです。

 

一方で、日本はどうでしょうか。皆さんが知っているように、原爆の爆発力の強調にとどまらない、多様な被爆体験の語り口があります。大田洋子や原民喜、林京子はもちろんのこと、井伏鱒二の『黒い雨』や大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』など、より複雑で広範な問題を扱った作品が思い浮かぶでしょう。

 

これらの作品は英訳されていますが、日本研究の分野を除くと、欧米研究者にはあまり知られていません。日本語の著作は英訳されていても、なかなか英語読者にとっては「我々の」テキストであるとは思われないのです。

 

この状況に、残念ながら日本ではほとんど関心が払われて来ませんでした。日本語以外を話す人たちの言説空間に参加して、日本語以外で一緒に議論し、アメリカが創り出した原爆観を変えていこうとする努力を怠って来たのです。

 

まるでずっと米軍占領期の検閲下にあるかのように、日本の外を見ようとせず、日本とその外部が実際にどうつながっているか無関心のままで来ました。これが、被爆国日本の戦後70年です。

 

 

日本はアメリカの原爆言説の拠点

 

日本においても、ハーシーの『ヒロシマ』的な語り口が、被爆体験の語りに組み込まれて来ました。たとえば、占領下にあって例外的にベストセラーになることが許された永井隆の『長崎の鐘』や、占領終了の数か月前に刊行された長田新編のロングセラー『原爆の子』などです。両者は被爆体験を国民共有の物語にしたと指摘されています。

 

これらにおける被爆体験の描き方を見ると、原爆が爆発した「あの瞬間」どこで何をしていたか、ということから書き起こし、その後の出来事を描写する、という『ヒロシマ』に準じたアプローチを採用しているのです。

 

それも当然で、他国からは数年遅れで紹介された『ヒロシマ』は、日本でも注目を集め参照項とされました。実際に、両者とも、『ヒロシマ』に比肩する書だと序文で自らを位置づけています。

 

皮肉なことに、爆発直後の悲惨さが強調されればされるほど原爆の威力が証明されます。ひいては背後にあるアメリカの力を暗に称揚することにもつながっていくのです。

 

『ヒロシマ』的な語りは今や、被爆体験の代表的な語りとして日本でもすっかり定着しています。その起源はほぼ忘れられてしまいました。結果、実質的に日本は、原爆の爆発力とアメリカの強大な力を称揚するトルーマン声明を踏襲するアメリカの原爆言説の拠点になって来たのです。

 

 

日米共犯関係を直視するために

 

戦後70年の現在、「対米従属」「永続敗戦」といった日本の政治状況を巡る論議が活発になっています。こうした政治状態の起源として、戦後の日米関係を規定した原爆による爆撃と被爆体験を抜きには語れないでしょう。

 

アメリカは、原爆攻撃による民間人無差別大量虐殺を正当化し、原爆の強大な破壊力から連想されるアメリカの象徴的な力を強調することによって、戦後世界の支配を続けて来ました。さらに、放射能の影響を過小評価することによって、原発を含めた核開発を推進するための環境を整備したと言えます。

 

また、戦勝国として原爆使用を肯定する言説を保持し続けることによって、国内にいるアメリカ人被爆者をも沈黙させる状況をも作り出して来ました。拙著でも触れていますが、原爆及び核兵器の製造や保管、度重なる核実験を行って来たアメリカが無傷のはずはなく、放射能による国民の被爆や国土の汚染が起きています。

 

一方日本は、そうしたアメリカの実態を批判しないことによって、アメリカのナショナリズムと併存することを選んで来ました。ヒロシマ・ナガサキを通じて日本の被害者性は強調しても、アメリカの原爆による空爆の責任追及は避けるという独特の平和主義を保持することによって、アメリカと衝突しないようにして来たのです。

 

それは「被爆国」として、「世界に被爆体験を役立てる」という姿勢とはかけ離れたものでしょう。人類が初めて経験した核兵器による被爆という体験が、加害国のアメリカにとって都合のいい形で表象されて来たことに、異議申し立てをしないで来たのです。

 

拙著では、そうした日米の共犯関係をあぶり出しました。戦後70年の節目を迎えるいま、真に「過ちを繰返さない」ために、私たちの原爆イメージの形成過程に疑問を投げかけ、再検討する必要があるでしょう。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

『“ヒロシマ・ナガサキ”被爆神話を解体する―隠蔽されてきた日米共犯関係の原点』

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

・畠山勝太「こうすれば日本の教育はよくなる」
・穂鷹知美「マスメディアの将来――マスメディアを擁護するヨーロッパの三つの動きから考える」
・大賀祐樹「リチャード・ローティ」
・西山隆行「学び直しの5冊〈アメリカ〉」
・知念渉「「ヤンチャな子ら」とエスノグラフィー」
・桜井啓太「「子育て罰」を受ける国、日本のひとり親と貧困」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(8)――「シンクタンク2005年・日本」第一安倍政権成立」