「商売の王さま」と呼ばれる障害者集団――コンゴ川の国境ビジネスの展開

障害者ビジネスが生み出す人・物

 

荷物の梱包や運搬作業をおこなうのが著しく困難な運動障害を抱えた人たちが運搬業で生計を立てられるのは、「介助者」と呼ばれる若者たちがいるからである。障害者は、ストリート・チルドレンやこそ泥をしていた若者に声をかけ、介助者として各々に雇用している。「介助」といえば一般には障害者に対する「支援」が想定されるが、国境ビジネスを担う障害者の場合はそれとは異なり、雇用という形で「介助者」との関係が成り立っていた。

 

障害者が生計のために生み出したものは、介助者との雇用関係だけではない。障害者トレーダーのあいだでは、改良三輪車が人気を集めていた。コンゴでは、障害者用の補助具などに対する公的給付はなく、慈善団体や篤志家などからの寄付も限定的である。そのため障害者は、自ら車いすなどを購入しなければならない。そのような状況下で障害者自身がつくり出したのが、オートバイを改良した三輪車であった。この改良三輪車の利用によって、障害をもつトレーダーは、日々の仕事の効率を上げている。障害者自身の創作物だからこそ、彼らの生計活動に真に役立つ器具が生まれてきたのだろう。(注)

 

(注)ただし、オートバイは1台約1000米ドルもするため、国境ビジネスで儲けてはじめて改良三輪車を手に入れられる。わたしも、「日本には中古バイクがたくさんあるんだろう、買い取るから持ってきてくれないか」と何度も要望を受けた。

 

 

身体障害者用の改良三輪車。左手でギアチェンジをおこなう。(2013年11月21日、筆者撮影)

身体障害者用の改良三輪車。左手でギアチェンジをおこなう。(2013年11月21日、筆者撮影)

 

 

障害者ビジネスの行く末

 

コンゴ川における障害者の国境ビジネスは、政府に頼らず生活を成り立たせてきた人びとの生き残り術のひとつとして生まれ、公的な機関や関係者とかかわることで長期にわたって維持されてきた。ただし、変動するアフリカの社会・経済状況のなかで、障害者の国境ビジネスには常に不確実性も内在している。

 

2013年には、アフリカ開発銀行の資金を得て、ブラザヴィルとキンシャサに橋と鉄道を架ける大型プロジェクトが進行していた。この橋ができれば、障害者の国境ビジネスの形態は変わっていくだろう。(注)

 

(注)たとえばケニアとウガンダの国境では、手こぎ車いすを利用した陸上の国境ビジネスが展開されている(Whyte and Muyinda 2007)

 

また、国際的な潮流としての経済の自由化がコンゴでも進み、関税が撤廃されたら、やはり障害者の国境ビジネスは成り立たなくなる。機会平等や経済の自由化が重要であることは否定しないが、それが結果として社会的マイノリティの生活をより困難なものにしてしまう危険性を内包していることには注意を払う必要があるだろう。そして実際に、2014年にコンゴ川の障害者による国境ビジネスは大きな転機を迎えたのである。

 

 

誰ひとりいない港(2014年11月24日、筆者撮影)

誰ひとりいない港(2014年11月24日、筆者撮影)

 

 

わたしが1年ぶりにコンゴ川の両港を訪れると、そこには誰もいなかった。港で30年以上続いてきたブラザヴィルとキンシャサの人や物資の行き来が、6カ月以上も停止していたのである。

 

近年、ブラザヴィル市ではキンシャサの若者たちによる犯罪の増加が問題となっていた。そしてブラザヴィルで起きたある殺人事件をきっかけに、2014年4月、ブラザヴィルに暮らす全てのコンゴ民主共和国籍者を対象に、「バタ・ヤ・バコロMbata ya Bakolo」作戦と呼ばれる、不法滞在者のキンシャサへの強制送還がはじまった。警察官1500人以上が動員され、2014年5月5日までに、自主帰国も含めるとブラザヴィル市の人口の1割を超える20万人以上がキンシャサに送り返されたと伝えられている。

 

強制帰国させられたコンゴ民主共和国籍者のなかには、何十年もブラザヴィルで暮らしていたために、家族も住む場所もなくキンシャサ市内の路上やスタジアムでテント暮らしを余儀なくされた人びとが1000人を越した。こういった事態を受けて、国連は「バタ・ヤ・バコロ」オペレーションを重大な人権侵害として警告している。

 

コンゴ共和国の警察は、港で利用されてきた通行許可証が、キンシャサから犯罪者の入国を許してきたと発表し、全面的にその利用を禁止した。2014年5月には、両コンゴでビザの取得が義務化されたが、大使館は一般市民への発行を許しておらず、実質的に市民は移動することができなくなっている。

 

加えて、強制送還のために政府が要請したフェリーの運航代約75万米ドルが未払いのままであったため、港の職員への給料の支払いが滞り、港ではストライキが実施された。こうして4月以降、フェリーの運航が停止し、それにともなって港での活動が全て停止していた。これにより、キンシャサで製造される工業製品を中心にブラザヴィルでは物価が高騰し、ブラザヴィルの市民の生活は厳しくなりつつあった。そして警察による強制送還は、コンゴ川で流通を担ってきた障害者に最も大きな打撃を与えた。

 

河川貿易の停止によって、大多数の障害者トレーダーは稼ぎを失った。問題はお金だけではない。キンシャサとのパイプが国境ビジネスに役立つこともあって、障害者男性トレーダーの多くがキンシャサ出身の配偶者をもっていた。しかし、強制送還によって、多くの男性トレーダーは、キンシャサ出身の妻や子どもと離ればなれになってしまった。

 

仕事と日常の移動を手伝っていた介助者も、お金を求めて、これまでキンシャサ出身者が担ってきたインフォーマル雑業へ転身し、彼らの元を離れてしまった。2014年11月時点では、100人近くのトレーダーが、家を出るための手段もなく、家族になんとか支えられながら生活していた。

 

「生まれてからこんなにひどい対応を受けたのははじめて(障害者トレーダー40代男性談)」。

 

「お金があれば、障害者は社会のなかにいる、家族のなかにいる、お金がなければなにもなくなる(仲介業を担う団体職員秘書50代男性談)」。

 

彼らが語る言葉は、障害者トレーダーが置かれている困難な現状を表している。

 

 

おわりに

 

障害者が担ってきたコンゴ川の国境ビジネスには、両コンゴにおける国家の仕組みが垣間見える。障害者優遇措置を利用した障害当事者たちによる自律的なビジネスに見られるように、彼らはあいまいな制度のなかで商才を発揮してきたといえる。こうして収入を得るすべを見つけた障害者の周辺では、介助者は被雇用関係として機能しており、障害の社会モデルでいう「無力化する社会(Disabling Society)」とは逆に、障害当事者が活躍する状況が生まれていた。他方で、2014年に規制が厳しくなると、障害者は非障害者以上に大きな影響を受けて、生活が立ち行かなくなっていた。

 

このことは否定的な見方をすれば、「違法者が<正しく>取り締まられた」や「国のお荷物が整理された」というふうに見られるかもかもしれない。しかし障害者の国境ビジネスを目の当たりにしたわたしには、そのようには思えない。

 

彼ら障害者もブラザヴィルに暮らす住民の一人として警察の実力行使に巻き込まれていった。彼らは社会の中で生活しているからこそ、時に国家に翻弄され、生きにくい都市社会を逞しくも生きている。そしてコンゴ川の国境ビジネスからは、日本や欧米のように平等を目指してきた社会では逆に、障害者の主体的な生活基盤が維持しづらいのはなぜなのかという問いも生まれてくる。

 

彼らのビジネスがどうなっていくのか、わたしにはまだわからない。次に訪れたときには、彼らのどのような姿に出会うのだろうか。期待と不安を抱えて、わたしはまたコンゴ川の港へ向かうことにする。

 

※本稿に関するより詳しい内容については、拙著「国境をまたぐ障害者―コンゴ川の障害者ビジネスと国家―」(森壮也編、 研究双書No.622『アフリカの障害者―障害と開発の視点から―』、 2016年1月刊行予定)にまとめられているので、合わせてご一読いただきたい。

 

 

参考文献

野元美佐2005.『アフリカ都市の民族誌―カメルーンの「商人」バミレケのカネと故郷』明石書店.

Chimedza, Robert and Suzan J. Peter 2006. “Disability in Contemporary Africa.” In Encyclopedia of disability, edited by Albrecht, Gary L. Thousand oaks: Sage Publications, pp. 423-429.

Kisangani, Emizet F. and F. Scott Bobb.2009. Historical Dictionary of the Democratic Republic of the Congo . (Historical Dictionaries of Africa, no. 112). Lanham: Scarecrow Press.

Mayele, Isaac. 2008. “Les principales causes et perspectives de développement pour la lutte contre la pauvreté urbaine à  Kinshasa. ” Université catholique du Congo.

Whyte, S Reynolds and Herbert Muyinda. 2007. “Wheels and New Legs: Mobilization in Uganda.” In Disability in Local and Global Worlds, edited by Benedicte Ingstad and Susan Reynolds Whyte. Berkeley: University of California Press, pp. 287-310.

 

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