グルジア紛争から3年 交錯するグルジアとロシアの内政・外交事情 

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メドヴェージェフの自己正当化と強硬姿勢

 

第一に、前述のように、アブハジア、南オセチアでの軍拡についてのパフォーマンスがある。

 

第二に、メドヴェージェフは8月4日、グルジア紛争から3周年を記念し、ロシアの「今日のロシア」テレビと「モスクワのこだま」ラジオ、グルジアのロシア語テレビ局「PIK」から長時間のインタビューを受けたが、その内容がきわめて興味深いものであった。

 

内容に入る前に指摘しておきたいのは、彼が国営放送局を選ばず、あえてロシアの政権に批判的な放送局を選んだことに大きな意味があるということだ。「今日のロシア」は欧米の聴衆を強く意識しており、「モスクワのこだま」は独立志向が強く、また「PIK」はロシアの政策批判で有名だからである。つまり、ロシア、欧米、グルジアの三方向にメッセージを発したことになる。とはいえ、メドヴェージェフがこれらのメディアを選び、困難な話題について率直に語ったことは、彼の株を上げたといわれるものの、実際の効果は高くなかったとみられている。

 

このインタビューで特徴的だったのは、まずメドヴェージェフが先制攻撃を仕掛けたグルジアのサアカシュヴィリ大統領に対して、無礼な発言を繰り返したことである。これはWTO加盟問題でグルジアがロシアに対して強気に出ており、苛立ちが増していることも背景にあるとされている。

 

そして、グルジア紛争の際に、軍に攻撃を命じたのは「自分」であり、攻撃開始から24時間以内にプーチンとは対話をしていないと強調していることも示唆的であった。ロシア側の攻撃は、メドヴェージェフが休暇中、プーチンが北京五輪の開会式に参加中であったことから、軍の独断でなされたという見解も広くもたれてきたが、それを打ち消し、自身の軍に対する統制力と、プーチンの影響を受けずに独立独行的に動けることを強調したかたちだ(ただし、この発言には疑問の声が多々聞かれる)。

 

さらにメドヴェージェフは、自分が停戦合意を破っていないということを主張する。アブハジアと南オセチアは「独立国」であり、ロシアとそれら「二国」のあいだには、軍事の駐留に関する明確な協定があるのだから、停戦合意には違反しないという論法だ。

 

実際、メドヴェージェフはアブハジア、南オセチア、そしてグルジアを攻撃する場合に重要となる北コーカサスにおいて、近代兵器による軍拡を進めている。たとえば、アブハジア、南オセチアの駐屯基地には、最新のT-90戦車、長距離砲、イスカンデルミサイル、新しい装甲部隊と砲兵隊などが配備され、北コーカサスのすべての空軍基地には最新のMi-28N夜間攻撃用ヘリコプター、Su-34長距離爆撃機、Su-25SM攻撃機などが配備されている(拙稿でも再三述べているように、北コーカサスも混乱しているが、これら兵器は北コーカサスには用いられず、あくまでも南コーカサス用とされている)。これはグルジア紛争の際、グルジアに辛くも軍事的に勝利したものの、グルジアの近代兵器に衝撃を受けたことのあらわれだ。さらに、停戦地域にも1500の国境警備隊が配備されている。

 

つまり、メドヴェージェフはグルジアに対して軍事面でも強面の対応を強化しており、ふたたび戦闘が起きた場合の備えもしているのである。

 

 

プーチンとの対抗

 

第三に、プーチン首相が最近、南オセチア住民が希望すれば、同地はロシア連邦の一部になりうる(実際、南オセチアはロシア連邦に属する北オセチアとの統合をかねてより望んできたし、2004年の社会調査では、ロシア国民のほとんども同地はロシアに併合されるべきだと考えていたというような経緯があり、グルジア紛争の流れのなかで、「独立」を強調せざるを得なくなったと考えられている)と発言していることに対して、メドヴェージェフが反発していることがある。

 

メドヴェージェフはインタビューで、ロシアが南オセチアを併合するにあたっては、法的根拠や前提がないと、プーチンの発言をきっぱりと否定したが、プーチンの提案は、11月に南オセチアで予定されている「大統領」選挙に大きな影響を与えうるといわれている。

 

本稿では詳述しないが、南オセチアでは、2期「大統領」を務めたココイトィ(ソ連時代はレスリングチャンピオン、コムソモール活動家として、ソ連解体後はビジネスマンとして活動していた)の権威主義化が顕著になっている一方、彼は三選禁止条項のため(さらに、これを撤廃するための政治的な動きは失敗に終わっている)、「南オセチア」の大統領としては出馬できないため、後継者問題が注目されている。しかし、ココイトィは政治の世界に残ることを強く主張しており、もしプーチンの示唆のように南北オセチアが合併すれば、その大統領として出馬できるという含みがある。

 

ここでも、メドヴェージェフがグルジア紛争をめぐり、プーチンと対抗している図式がみてとれるだろう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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