グルジア紛争から3年 交錯するグルジアとロシアの内政・外交事情 

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最近のグルジア・ロシア問題に苦悩する米国

 

一方、グルジアとロシアの関係改善が不調なことで被害を受けているのは米国かもしれない。

 

拙稿「ロシアのWTO加盟問題の政治化とジレンマ」で述べたように、グルジアはロシアのWTO(世界貿易機関)加盟問題をカードにして、アブハジア、南オセチアの税関ポストに対する主権だけでも奪還しようとしているが、スイスでの交渉は難航している。ロシアとの関係を「リセット」する政策を推進する米国は、ロシアのWTO加盟を支援するため、グルジアを説得しているというが、それが実ったという「確固たる」報道はまだない。

 

また、米国の情報当局は7月末、2010年9月22日にグルジアの首都トビリシにある米大使館付近で発生した爆弾の爆発事件などの犯人は、アブハジアに駐留するロシア軍の情報将校だったと断定した。オバマ大統領もその結論を受け、ロシア側と本事件についての協議を行なった。

 

じつはオバマ政権は「リセット」政策を維持するために本事件を隠してきた。だが、米国のワシントン・タイムズ紙が7月22、27、29日の3回にわたって同事件を暴露したため、公式に認めざるを得なくなったという経緯がある。

 

しかも、米国当局はロシアとの「リセット」政策が米国メディアなど、さまざまな主体によって妨害されているという捉え方をしているようだ。本事件はグルジアと米国に対するロシア側の挑戦であるにもかかわらず、米国当局は懸命にロシアを守るような論拠をもち出して、「リセット」を維持しようとしているからだ。

 

具体的には、米国政府は本事件に関して、以下の2点を強調している。第一に、本事件はロシア当局やGRUの意図ではなく、ボリソフ少佐が独断で実行したかのような印象を与え、ロシア当局の関与が一切ないという構図を強調している。第二に、本事件は米露関係よりもロシア・グルジア関係に影響があり、被害者はグルジアだということを強調している。つまり、ロシア側のターゲットは米国ではなく、米国とグルジアの関係を悪化させるために、グルジアの米国大使館を狙ったのであって、真のターゲットはグルジアだ、というわけだ。

 

これら2点の真偽を証明する根拠は何もなく、米国が自国の利益のためにつくり上げた構図という見方もできよう。ともあれ、これらの米国の行動から、米国が「リセット」政策をどれほど重視しているかがみてとれるだろう。

 

ともあれ、7月28日には、米国家情報局(DNI)の分析機関である国家情報会議が、上下両院の情報委員会に対し、2010年12月の報告につづく第二の報告書を提出した。アブハジアの軍事基地に駐在するロシアの参謀本部情報総局(GRU)所属のエフゲニー・ボリソフ少佐が、アブハジアからグルジア国内の協力者数人(うち、1人は2010年12月に拘束された)に対し爆弾と報酬を手渡し、大使館外で爆発した爆弾1個を含め約1ダースの小型爆弾を大使館内外やポチなどに仕掛ける指揮を執ったというものだ。

 

なお、爆発した1個以外の爆弾は爆発前に発見され、処理されたが、それらが未然に防がれたことと、ボリソフ少佐が容疑者として確定した背景には、ロシア軍のミスがあった。ロシア側が爆発していないポチ港周辺の鉄橋に仕掛けられた爆弾について爆発したと誤認し、犠牲者救援をグルジア国内に駐在する欧州共同体(EU)の停戦監視団に電話してしまったことや、協力者とボリソフ少佐との電話をグルジアが盗聴していたことがあったからだ。こうして、グルジア当局は昨年12月、容疑者6人を起訴し、ボリソフ少佐と副官のムフラン・ツハダイアGRU将校は被告人不在のまま長期刑を宣告された。

 

なお、クリントン米国務長官は、今年2月と7月のロシアのラブロフ外相との会談時に、この問題について、新戦略兵器削減条約(新START)の批准書交換、児童養子に関する両国間協定締結の「ついで」として軽く言及したが、そのあまりに軽い対応が議論を醸すこととなった。

 

そのため、オバマ政権は上述の2点の主張、すなわち、①本事件はボリソフ少佐の独断によるもので、ロシア政府が意図したものではない、②被害者はグルジアで、ロシア側に米国との関係を壊す意図はない、という点を強調して、そのそしりを逃れようとしているのである。

 

しかし、米国も一枚岩ではない。米国上院が「アブハジアと南オセチアをロシアに占領されたグルジアの地域」だとし、ロシアがグルジアとの停戦合意にしたがって、即時に軍を徹底させるべきだとする決議を満場一致で採択したのだ。

 

それにロシア側は神経質に反応した。ロシア外務省のスポークスマンは、米国上院議員らの声明には法律上も権利上も根拠がなく、ロシア軍はアブハジアと南オセチア両当局の承諾を得て現地に駐留しているのであるから占領軍ではないとし、さらに米国の決定を「グルジアの報復の志気を高める誤ったPR」と述べた上で、米国が国際法に関して無知であるか、現実を完全に軽視しているかのどちらかであると強調した。

 

また、それを受けたメドヴェージェフは、前述の8月5日の3社に対するインタビューで、本件について「高齢の」米国上院議員(престарелых членов Сената)がロシアに軍の撤退を要求していると怒りをあらわにした。なお、「престарелых」は含みの多い単語で、メドヴェージェフのこの発言が物議をかもしている。

 

つまり、普通に「高齢の」米国上院議員と訳すことも可能だが、ソ連時代には引退した政治家などを軽蔑の意味を込めて形容していた経緯もあり、「もうろくした」という訳し方も可能で、そのニュアンスをどうとるかと、西側メディアで話題になっている。さらにメドヴェージェフは、グルジアが2008年に先制攻撃を行なったのは、米国のそそのかしによるものであるということも強調している。ともあれ、メドヴェージェフは外国議会がロシアのことについて何をいおうと、とるに足らないということを強調している。

 

このように、米国政府はロシアとのリセットを進めたいと願っても、グルジア、米国メディア、米国議会はそれに同調してくれず、リセットが困難となっている状況があるのだ。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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