クルド人は、イスラエルを熱い思いで見つめる――クルド独立への思い

シリーズ「クルド人の風景」では、日本で報道が少ないクルド地域について、毎月専門家がやさしく解説していきます。(協力:クルド問題研究会)

 

 

クルド人とトルコ、イラン、シリア、イラク

 

シリア内戦では様々な国や勢力が痛手を受けた。その中で、唯一の勝者となったのがクルド人だ。近年のイラクの混乱で「独立国家」を築きつつある。

 

クルド人は、現在はイラクという国の枠組みの中での自治政府(クルディスターン自治政府)という地位を受け入れている。しかし、クルド人が本当はイラクから分離した独立国家を求めているのは良く知られている話である。

 

だが、独立にはトルコやイランなどの近隣諸国の反対が予想されるだろう。というのはクルド人というのはイラン、イラク、シリア、トルコなどの国境地帯に生活しているからである。その総人口は、正確な統計はないが、4000万程度だと推測される。これはイラクの総人口3500万を上回る。

 

しかしながら、クルド人は自らの国を持たない。第一次世界大戦後に中東が英仏によって分割された際には、クルド人の希望は反映されなかった。クルド人は、それぞれの国でマイノリティとして分断された。現在の世界で、国を持たない最大の民族だと考えられている。逆に考えると、各国がマイノリティとしてクルド人を抱え込んでいるともいえるだろう。

 

もし仮にイラクのクルド人が独立宣言などすれば、イラクの中央政府はもちろんのこと、シリア、トルコ、イランの強い反発が予想される。自国のクルド人に影響が及ぶのを各国が懸念するからである。イラクは、既に分割されている。そして中央政府は混乱しており、イラク北部に支配を及ぼす力はない。

 

 

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緑部分が主なクルド人居住区域、オレンジ部分がイラクのクルド人自治地域

 

 

またシリアも内戦状態である。シリアのクルド人は、アメリカやロシアの支援を受けて「IS(イスラム国)」などと戦っている。シリアの反対も何ら実効力を持たない。

 

問題は、イランとトルコである。両国の予想される反対を、どう抑えるのか。解決策は、見つかっていない。クルド人が、いまだに独立を宣言していない理由である。

 

中東で唯一、イラクのクルド人の独立を支持している国がイスラエルである。それはイラクの分裂の固定化を意味するからだ。分裂したイラクはイスラエルを脅かさないからである。本稿では、イラクのクルド独立自治区と、イスラエルの関係性について解説したい。

 

 

クルド人とイスラエル

 

5月という月には、ユダヤ人にとって記念すべき日が続く。5日が、中東のイスラエルでは、ホロコーストの追悼の日だった。ホロコーストとは、第二次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺のことである。イスラエル各地で追悼行事がおこなわれた。これにあわせて世界各地のユダヤ人も追悼の行事を行った。

 

そうした中で目を引いたのが、イラク北部のクルド人の自治地域での行事だった。イラク北部を実質上支配するクルディスターン自治政府が、その首都アルビルでホロコーストの追悼行事を初めて行った。

 

この行事に象徴されているように、イラク北部のクルド人とイスラエルの関係が深まっている。そもそも両者は長年にわたって友好的な関係を維持してきた。1948年にイスラエルが成立すると、イスラエル政府は世界各地のユダヤ人に「帰還」を呼びかけた。

 

これに応える形で、またアラブ世界各地で発生した反ユダヤ暴動などに追われる形で、多くのユダヤ人がイスラエルへ移住した。イラク北部のクルド人地域からも少なからぬユダヤ人がイスラエルへと移った。現在のイスラエルにおいてクルド系の市民は約10~20万人と推定されている。その中から国防大臣になった人物も出ている。とはいえイスラエルにおけるクルド系市民のランクは高くない。

 

イスラエルという国は、出身地によって同じユダヤ教徒でも無言の格差がある。クルド系の人々はイエメン系などと共にユダヤ教徒の中で最も下層だと考えられてきた。ヨーロッパ系のユダヤ人が中心となって建国したという経緯を踏まえれば、遅れてきたアラブ諸国出身のユダヤ教徒たちが社会の末席にしか座を与えられなかったのは、避けがたい現象であったかもしれない。

 

ヨーロッパから既に高い学歴を持ち資本と技術をもたらした人々と、イスラエルへの飛行機の中で火を起こそうとしたといったエピソードが残っているアラブ社会出身者の間の格差は歴然としていた。なお現在では、エチオピア出身のユダヤ教徒が最底辺とみられているようだ。もちろん、その下にはイスラエル市民権を持つパレスチナ人がいるのだが。【次ページにつづく】

 

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