TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が投げかける「古くて新しい課題」  

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APECとTPP

 

つぎに報道でも取り上げられているTPPについてふれよう。TPPとは環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership)の略であり、元々はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイによる経済連携協定(通称P4:Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)として06年に批准された協定を端緒としている。

 

10年3月に、4カ国に加えて米国、豪州、ペルー、ベトナムを加えた8カ国でTPPとして交渉が開始され、さらにマレーシアが10年10月の会合で参加して9カ国となった。このTPP交渉が重要であるのは、それがAPECにおける課題と今後に関係しているためである。

 

APECはアジア太平洋経済協力会議(Asia-Pacific Economic Cooperation)の略称であり、貿易・投資の自由化・円滑化および経済・技術協力を推進することで、アジア太平洋地域に自由で開かれた貿易・投資地域を創出し、同地域や世界経済の成長に貢献することを目標としている。

 

そしてこの目標を達成するための手段は、WTOのように法的拘束力を伴う交渉・協定・条約に依存するのではなく、各メンバーの自主性に委ねられている。さらに、APECにより実施された自由化措置を、非メンバーにも適用するという最恵国待遇を採用している。

 

つまり、自由貿易協定(FTA/EPA)は、域外国に対しては域内国と異なる貿易障壁が適用されるという差別的要素を持ち、かつ法的拘束力のある協定を有しているが、APECは無差別、非拘束、自主性という行動規範を有することが特徴だということだ。

 

だがAPECのもつ特徴は課題もはらんでいる。貿易自由化は資源配分の効率化を通じて経済成長を促進させる効果をもつが、比較劣位にある財・産業に対しては短期的に輸入が増加することで、該当財・産業の国内生産の抑制、雇用悪化をもたらす可能性が高い。

 

害を被る人びとは、政治的圧力を用いて自由化を阻止しようとするため自主的な自由化は難しくなる。自主性に頼ると自由化が進まない現状のなかで、APECの一部の国々では、自由化に関して同様の考え方をもつ国々のあいだでFTAを締結する動きが進むようになり、実際、NAFTA、AFTA、ASEAN・日本FTA、ASEAN・韓国FTA、ASEAN・中国FTAといったFTAが締結された。TPPも以上のような流れの一貫として位置づけられる。

 

さまざまなFTAの締結が進むと、貿易制度が複雑化することで貿易が抑制される(スパゲティ・ボール現象)可能性が高まるため、これらのFTAを包括するFTAの必要性が認識されるようになるが、そのなかで浮上してきたのがAPEC全域を含むFTAとしてのFTAAP構想である。

 

 

TPP参加の意義と留意点

 

TPPの参加国は、TPPがFTAAP成立に繋がることを期待しているが、日本は09年12月の新成長戦略(基本方針)において、「2020年を目標にFTAAPを構築する。わが国としての道筋(ロードマップ)を策定する」とし、大枠においてすでに閣議決定がなされている状況である。

 

そして政府資料では、日本がTPPに参加した場合の意義と留意点が「包括的経済連携に関する検討状況」(http://www.npu.go.jp/date/pdf/20101027/siryou1.pdf)としてまとめられている。

 

そこには、TPPに参加することで日本経済を活性化するための起爆剤となり得ること、TPPがアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展する可能性があること、今後同地域における実質的基本ルールになる可能性があるため、TPPに参加しなければ日本抜きでアジア太平洋の実質的な貿易・投資ルールの構築が進む懸念があること、主導的役割を果たす政治的意義やルールづくりにおける影響力を高め交渉力の強化に貢献することが可能になること、という意義が記載されている。

 

日本の競争相手でもあるアジア諸国が、日本に先んじて貿易自由化のメリットを享受すれば、日本がTPPに加入しないことのデメリットは拡大する。日本に有利なルールづくりが可能となれば、日本の経済的現状に有利なかたちで交渉を進めることができる可能性が高まり、そのことが自由化による痛みを軽減することにもつながるかもしれない。

 

だが、一方で留意事項もあげられている。それは、TPPでは特定財の自由化を除外したかたちで交渉に参加することが、認められない可能性が高いという点である。さらに、10年以内の関税撤廃が原則であり、かつ例外品目はきわめて限定的であるという点である。

 

日本がこれまで締結したFTA/EPAでは、農林水産品(約850品目)と鉱工業品(約95品目)は例外品目として設定され、関税撤廃をしたことがない状況である。品目ベースの自由化率(全品目に占める関税撤廃を行う品目の割合)を見ると、日本の既存FTA/EPAにおける自由化率は90%未満だが、TPPを基点としたFTAAP交渉で主導的役割を果たすと考えられる米国の自由化率は100%近い自由化率であり、韓国や中国の場合も日本を上回る水準である。

 

つまり、TPPはAPECをFTAAPというかたちで深化させていくための地域経済統合という意味では意義があり、日本もFTAAPを目指す以上は従来から検討していたASEAN+3(日、中、韓)やASEAN+6(日、中、韓、印、豪、NZ)に加え、TPPの枠組みに入っておくメリットはある。

 

しかし一方で、TPPの枠組みに入ることは、従来のFTA/EPAで例外品目としていた農産品や鉱工業品の自由化を進めることにも繋がるため、これらの産品に対するデメリットが懸念される。

 

TPPに参加する諸国が拡大するなかにあって、自由貿易協定に参加することのメリットとデメリットをどう評価し、デメリットをどのようなかたちで軽減・是正して経済成長につなげていくかという、古くて新しい課題がふたたび俎上に上がったといえるのである。

 

 

推薦図書

 

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本書は、貿易、投資、金融、エネルギーといった主要な経済分野におけるAPEC地域の動向を、APECの成立と課題、加盟国の経済環境、米国の戦略、自由化の達成可能性、FTAAPの経済効果シミュレーション、域内の生産・投資ネットワークの特徴、通貨・金融協力の道筋、エネルギー需給、貿易自由化と農業の扱い、人の移動、といった多面的な観点から分析している書籍である。TPPや2010年日本APECの議論の理解を進めるにあたっても示唆に富む書籍のひとつだろう。

 

 

 

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