文在寅大統領は「反日」?「親北」?そんな素人議論は聞き飽きた!!――『だまされないための「韓国」』第8章

前回の失敗に学んだ「盧武鉉政権パート2」?

 

浅羽 その話は面白いですね。今回の選挙は韓国が民主化して3回目の政権交代を実現したものです。保守派→進歩派→保守派ときて、今回は進歩派。

 

通常、政治学では、民主化後、選挙を通じて2回の政権交代を経ると「体制が定着した」とみなされます。ただ今の話は「実は3回目が大事なんじゃないか」ということですよね。つまり、いちど政権を担当して、そのあと野党になって、で、もういちど政権に返り咲いた時にどうするか、というわけです。「野党時代にちゃんと準備していたか?」ということですね。文在寅のセールスポイントは「準備された大統領」でした。

 

「あー、これをやるとダメなんだ」と、前回政権を担当していた時の失敗から学んで、今回は政権発足当初からハンドリングを慎重にするか、ですね。

 

文在寅政権の滑り出しを見る限り、それなりに教訓を得たんだ、とわかりますし、これは日本の民進党が、この先もういちど本気で政権交代を狙うのであれば、再チャレンジを果たした安倍政権にこそ学べ、となりますね。

 

木村 僕は盧武鉉政権の内政に関しては評価高いですよ。

 

浅羽 経済成長率も、実は、その後の保守政権より高かったですしね。

 

木村 だから、たとえば経済政策については路線を踏襲してもいいでしょう。いっぽうで盧武鉉政権は外交に関して実績を残せなかったばかりか、末期に北朝鮮に核実験までされてしまった、という政権でもあるから、反面教師として、学んだ結果を生かしてもよい。

 

韓国の政権交代というのは、たとえ一見似たように見える政治勢力が継いでいる場合でも中身は全然違っていることが多い。でも、今回の文在寅政権は、私の知るかぎり韓国政治史上初めて「(盧武鉉政権と)そのまんま同じ政治勢力が政権を担当する」事例です。言い換えれば「ここまで政権担当経験がある政治家が揃った政権は久しぶり」ということもできる。そういう意味で、失敗を生かせる可能性もあるし、慎重にもなれる政権でもあるはずなんです。

 

浅羽 これは最初の話にもつながるんですが、文在寅政権には国内外ですごく制約があるんですね。国会で法案を通すためには180議席が必要なのですが、与党は120議席しか持っていない。だから、フォーマルな連立でなくても、法案ごとに野党と部分連合を組まないといけないし、そのためには当然、妥協がともなう。他方、文在寅のコアな支持層は「1ミリも妥協するな」と原理派です。

 

国内はこういう状況なうえに、国外も大変です。北朝鮮はミサイル発射を続けていて、開城工業団地も金剛山観光もとても再開できるような状況ではない。韓国の進歩派にとっては、「南北協力のシンボルであった事業を朴政権が中止したことがそもそも間違っていて、政権交代を機に『正す』」というロジックなのですが、国際的には「ようやく足並みを揃えて北朝鮮に圧力を強めているのに、韓国だけ『離脱』することは許されない」というわけです。

 

あの中国でさえ、トランプ大統領から「北朝鮮を締めつけて結果を出せ。さもないとアメリカが単独で動くぞ」と迫られて、朝鮮半島有事が起きても中朝友好条約に基づいて北朝鮮を軍事援助するかどうかわからないとチラつかせる。こういう状況のなかで、開城工業団地を再開すると、明らかに韓国だけ「突出」するわけです。建前としては「現場で働く労働者たちに賃金を支払っている」という体裁ですけれども、実際には7~8割は当局によってピンハネされていると言われており、核やミサイルの脅威として跳ね返ってきた、と保守派は非難する。

 

これは一部繰り返しになりますが、アメリカがトランプ政権になったことと、このまま放置するとまもなく西海岸にミサイルが届くことになるということで、いよいよ朝鮮半島問題に「我が事」として乗り出してきた。中国もかつて「唇歯の関係」だった北朝鮮について、アメリカとの「ディール(取引)」「グランド・バーゲン(包括的妥結)」として位置づけているところがある。

 

こういう「国際協調路線」が基調となっているなかで、韓国が独自に動ける幅はどれだけあるのか。その見積もりの正確さが文在寅政権には問われています。

 

他方、支持層の「進歩派」は、「朝鮮半島問題はこれまで外勢によって頭ごなしに決められてきた。この『間違い/歪曲』を今こそ『正し』、『コリア・ファースト』で臨むべきだ」と頑ななわけです。

 

つまり、国内と国外、党派的利益と国益のあいだでプライオリティが異なっている状況の下で、文在寅が何を重視して国をリードするのか、ということなんですよね。その判断に、トップリーダーとしての素質が出ます。

 

 

浅羽祐樹氏

浅羽祐樹氏

 

 

ものすごい危機感を持っている文在寅政権

 

木村 僕の見ているかぎりですけれども、今の韓国の外交担当者たちは「このままでは韓国外交はまずい」と思っていると思います。これくらい危機感を持っている韓国の外交担当者たちは、これまで見たことがないと言ってよい。それくらい「まずい」と思っています。トランプ大統領が政権に就いた。中国の習近平政権とも手を握っている。北朝鮮との緊張は高まるばかりだし、隣の日本では保守派である安倍政権が長期安定化している。韓国外交にとっては非常に不利な状況だ、と感じているようですね。

 

これまでの韓国外交担当者は、どこかで「なんとかなるんじゃないか」、「いざとなったらアメリカか日本がなんとかしてくれるんじゃないか」と、口には出さないけれど思っているフシがあった。でも今のこの状況では、そういうことは望めなさそうだぞ、と。そういう雰囲気が満ちています。

 

浅羽 それは、具体的にはどういう危機感なんですか?

 

木村 端的に言ってしまえば「このままでは孤立する」、「見捨てられてしまう」という切迫感ですね。これはもう韓国という国の成り立ちに由来している思いのひとつで、彼らには「国際社会から見捨てられるととんでもないことになってしまう」という刷り込みに近い思いが、ポーツマス条約の1905年からずっとあるんですね。それだけは絶対に避けたい、と。

 

実際問題、「トランプだったら我が国を見捨てるかもしれない」という考えは「思い込み」とも言えないくらい現実味のある話なわけです。ついでに言えば、トランプは日本だって見捨てるかもしれない。だって最近は「習近平はいいやつだ」と言い倒したりしていますから。米中で直接取引されると怖いですよ。

 

そうなると、アメリカは韓国を飛び越えて中国と話し合って、朝鮮半島を勝手にどうこうしてしまうかもしれない。日本の安倍首相はどうやらトランプ大統領と親しく話し合っているようだけど、韓国はどうだ、誰かトランプと話ができているのか、と。

 

 

――大変リアルでおっかない話だと思います。

 

木村 だからこういう危機感があるあいだは、文在寅政権はムチャはしないと思います。突っかかったり張り合ったりしないで、真面目で大人しくしている。それでもイデオロギッシュな勢力は騒ぐかもしれませんが、「いやいやそれどころじゃないでしょうよ」と抑えるくらいのことはするだろうと思う。少なくとも、そういう期待はありますね。

 

浅羽 本当にそうなれば日本にとっても、おそらく韓国自身にとっても望ましいシナリオですが、まだまだ楽観視できません。というのも、この半年間、韓国は権力空白期で、首脳外交がまったくできませんでした。この間、アメリカはトランプ政権が発足して中国となにやら「ディール」しつつあるようだし、日本では安倍首相が「長期安定政権の強み」を外交で見せつけている。翻って、「コリア・パッシング(韓国素通り)」が深刻だ、というわけです。そこでやっと大統領が決まって、ようやく何かができるという状況になった。その分、「これもできる。あれもしなければ…」と思いだけが先走る可能性もある。

 

それと、やはり進歩派に特有の部分ですね。「コリア・ファースト」というロジックが強いと「国際協調路線」という基調を誤認することになりかねない。開城工業団地の再開ひとつとっても、国内の進歩派は「元に戻しただけ」と当然視する反面、国際的には「一方的な現状変更の試み」とみなされる。両方の要素があるので、「左派は親北」と決めつけずに、国際協調路線へとリードしなければならない。

 

木村 まあどっちの方向に行くか、ですね。【次ページにつづく】

 

 

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