文在寅大統領は「反日」?「親北」?そんな素人議論は聞き飽きた!!――『だまされないための「韓国」』第8章

「我々が動いてもいいの?」「なら先頭に行ったほうが良くない?」

 

木村 それともうひとつ、米朝が対話しだすと、「うち(韓国)も対話したっていいんじゃないかな?」と思ってしまうというパターンがありそうです。状況が膠着している時には、さすがに韓国だけが突出して「何かやる」ということはないというか、できないと思うんですが、周囲が大きく動くと「俺たちも動いたほうがいいんじゃないかな」「というか先頭に立ったほうがいい気がする」と韓国外交は考えがち。実際過去にも韓国政府は、「言われてもないのに二階へ上がったら、ハシゴはどこかに持っていかれてしまった」という経験を何度かしていますからね。

 

ある意味こういう韓国外交の「せっかちなところ」は日本とは対称的かもしれません。戦後日本の外交上の失敗とパターンのひとつは、「状況が動いているのに何もせず、気が付いたら置いていかれた」というものですからね。典型的なのが1971年のニクソンショックです。米中が接近していく状況のなかで、何も動かずにいたら日本を飛ばしてニクソンと毛沢東や周恩来が会ってしまい、置いていかれる羽目になった。

 

ただもうこういうのは個々の政権の問題ではない気もします。各国が置かれた地政学的条件に由来する経験の違いに根差した、外交の特性みたいなものなんですよね。韓国は政権が保守派だろうが進歩派だろうが、状況が動いていれば「俺たちも動こう!」といって先頭に飛び出しがちですし、そうやって生き残ってきましたからね。

 

浅羽 言いますねぇ(笑)

 

木村 これも具体的なところを言うと、「どうもトランプが金正恩と会うらしいぞ」みたいな情報が流れると、「それは大変だ、だったら我が国も首脳会談をセットしないと」「アメリカが会うなら我が国が先に会ってもいいんじゃないか」「いや会わないと」という話になって、で、結局トランプと金正恩は会わないで、世界中で韓国の大統領だけが平壌に行ってしまった、なんてことがあるかもしれない。

 

浅羽 実例はともかく、韓国は「イノベーター」にはなれない分、せめて「アーリーアダプター」でありたい、という思いが強くありますね。

 

木村 日本の場合は、拉致の問題を除けば北朝鮮に関して先頭に立つ必要はありませんからね。アメリカと中国が話をしたなら、状況を見極めてそのあとをついていけばそれでいい。しかし韓国にとっては北朝鮮問題はやはり民族の問題ですから、「我々が解決したい」という思いはどうしても前に出る。そしてさきほど指摘した外交的傾向がそれを加速させる。

 

浅羽 そうですね。韓国の進歩派、左派にとっては、朝鮮半島問題はすぐれて民族問題なわけですので「コリア・ファースト」になりやすい。

 

木村 「左派が民族主義」というのは違和感を持つ人がいるかもしれませんが、もともとフランス革命の頃から左翼は民族主義の一面もあったわけです。革命によって民衆が権力を握りましたが、その民衆とは同時に「フランス人」のことだった。だからこそナポレオンの軍隊は自由と圧政からの解放の軍隊であると同時に、フランス民族主義に根差す侵略の軍隊でもあった。なのでそういう意味では韓国の進歩派はクラシカルな左派でもあるんですね。

 

 

もしアメリカと北朝鮮が「ディール」してしまったら

 

浅羽 これは「頭の体操」をしておきたいことなんですが、「米朝間でディールが成立する」という万が一の可能性についてです。「北朝鮮がみずから核ミサイルを放棄する」、「アメリカの先制攻撃で全部破壊し、第二撃能力を残さない」というのは、どちらもフィージブル(実現可能)ではないでしょうから、アメリカはいずれ「核とミサイルの開発の凍結」で手を打つ恐れがある。「西海岸まで届かなければ不問にする」「事実上の核保有国として処遇する」となると、日韓としては最悪のシナリオです。そうなると、日韓に対するアメリカのコミットメントの根幹である拡大核抑止が成り立たなくなる。

 

木村 十分ありえる話ですね。アメリカは「そういう国」ですし。

 

さらに言えば、トランプ大統領が北朝鮮に対していつまで関心を持ち続けるか、という問題もある。「もう北朝鮮はいいか」と忘れてしまったり、忘れてしまったことにするケースだってありえる。だって選挙の時にあれだけ「メキシコとの国境に壁を作る」と言っていたのに、最近はその話をほとんどしなくなっているでしょう。あれだけ言っていた「壁」だって「忘れる」んだったら、北朝鮮のことだって「あれ? そんな話あったっけ?」と言い出しても不思議じゃない。

 

仮に朝鮮半島が今よりもさらに緊迫したとしても、韓国や日本が独自に対応すればいいんじゃないの、となる可能性だってある。もともと大統領選挙の時にはそういう主張でしたしね。

 

浅羽 うーん、そうなると日韓のみならず、アメリカの同盟システムに対するクレジビリティ(信頼性)がグローバルに揺らぐわけで、NATOやASEANもビックリで、中国やロシアはニンマリじゃないですか。

 

木村 いやまあさすがに戦争が始まったら黙ってはいないでしょうけれど、そこまで緊張が高まることはないだろうと目論んで、何もしない可能性は十分あると思います。

 

というより、無理やり手を突っ込んで解決できない問題に取り組むよりは、なるべく触らないでおこうというのは、政治家としては合理的な判断ですよね。彼の支持層が関心を失えば、よりいっそう彼自身もコミットする意欲を失うでしょう。ポピュリストって、元来そういうものですし。

 

浅羽 いや、しかし北朝鮮に対してアメリカが何もしないと、数年で西海岸まで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)が開発されてしまいますよ。さすがにそこまで傍観はしないでしょう。

 

木村 トランプ大統領なら「そんなことになっても俺のせいじゃないし」くらいのことは言い出すかもしれません。北朝鮮がICBMの開発に成功したからといって、いきなり撃ってくるわけではなかろう、そんなこといったら中国やロシアは何十年も前からアメリカ本土まで届くミサイルを持っているじゃないか、もう一カ国増えたからってなんだっていうんだ、と言うかもしれない。

 

また実際問題として、北朝鮮がアメリカにいきなり戦争を仕掛ける理由は皆無ですから、その可能性は極めて低い。だったら放っておけよ、という話になるのは決して不思議ではない。

 

浅羽 私が気がかりなのはその点です。アメリカにとってはそういう話でも、日本や韓国にとっては天地がひっくり返る大問題です。アメリカが北朝鮮の核保有を事実上容認するとなると、日米同盟や米韓同盟はもたないでしょう。そうなると、核アレルギーの強い日本でも独自核の議論が出てくるでしょう。

 

木村 それは出てくるでしょうね。それも含めて「構わんよ」と言っても不思議じゃないと思うんですよね、トランプなら。

 

日本人の多くは「日米は揃っていて韓国だけズレている」と思っていますけど、ICBMの脅威という話で言えば、日米の足並みはズレる方が当たり前ですから。

 

浅羽 対北「日米韓」安保連携とひとえに言っても、「日米/韓」だけでなく「米/日韓」(や「米韓/日」)という相もあるのだ、ということですよね。それこそ、すべてのシナリオをいちどテーブルの上に出して、一つずつシミュレーションしておくことが大切です。

 

木村 そうです。そういう形でアメリカと北朝鮮が手を結ぶと、日本は置き去りになる可能性がある。

 

 

――すみません、今の話、もう少しだけわかりやすく話してもらっていいですか。ひょっとして「トランプと金正恩とは直接会って欲しくない」と思っているのは、日本と韓国だけなんですか?

 

木村 いや、韓国、特に文在寅政権は「会ってほしい」と思ってると思いますよ。

 

浅羽 米朝首脳会談が行われれば、堂々と南北首脳会談もできるし、開城工業団地だって再開できる。「関与(対話)」の国際協調路線というわけです。

 

 

――あー……。すると6者協議の再開を本気で願っているのは、日本だけなんでしょうか?

 

木村 「6者」にこだわっているのは、日本とロシアだけでしょうね。ただまあ「3者」だと米中朝ですから韓国も困るでしょうから、今の状況だと4番目(韓国)と5番目(日本)が組んで6者協議を求める余地もあると思います。

 

 

韓国だけが特殊なのではない、ということ

 

浅羽 ポピュリズムの話が出たのでその点にも触れておきたいのですが、『ポピュリズムとは何か』(ヤン=ヴェルナー・ミュラー著、板橋拓巳訳/岩波書店)という本が最近出ましたよね。この本によると、ポピュリズムとは大衆迎合主義でもなければ反エリート主義でもなく、「自分たちだけが民意を正しく代表している」という観念だというのです。

 

木村 まあ、ひとつの定義ですね。

 

浅羽 それはそうなのですが、韓国大統領選の真っただ中に読んでいると、「ああ、まさに今の韓国そのものではないか」と思ったわけです。「自分たちこそが民意だ」「弾劾・罷免は国民の命令だ」という局面があったわけですよね。「さまざまな民意があって自分はその一部分だけを代表している」となると、与野党による協力や妥協、大統領と国会の「協治」も成り立ちやすいはずなんですけどね。「政党(party)」も大統領も民意の「一部分(a part)」にすぎないというのが前提ですから。

 

つまり、「正しい民意」というものがある、と観念されている状況は、なにも韓国に「特殊な」わけではなく、ポピュリズムに共通していると理解できるわけです。政党政治や代議制民主主義にとっての含意や課題も同じことですね。

 

木村 ……なるほど。その話にひとつだけ反論しておくと、「ポピュリストはわかってやっている」という部分が重要だと思うんです。一般的に言われる「ポピュリズム」「ポピュリスト」って、実は政治家の側に選択の余地があるわけです。「いろいろ選択肢があるなかで、自分は民意に従う」というのはあくまでジェスチャー。しかし多くの韓国人の場合は「正しい唯一の民意というものが存在している」と信じている分だけ、一段「上」にいっていると思うんですね。状況的、結果的には「ポピュリズム」と言えなくはないんだけど。その歯止めの性格が違う。

 

浅羽 「ネタじゃなくベタになっている」ということですか。

 

木村 特に韓国の進歩派はそうですね。民族はひとつなんだから、話し合えばわかる、わかりあえないはずがないと思っていたりする。階級間闘争、世代間闘争みたいなものもあるんですけども、どこかで「同じ民族だから話せばわかる」と思っていて、それでもわからないとなると、一気に「民族の裏切り者だ」とか「強大国に屈服する事大主義者だ」という批判がなされてしまう。【次ページにつづく】

 

 

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