農業政策がもたらす食料不足――ザンビアの多民族農村におけるフードセキュリティ

民族で異なる主食作物

 

州都ソルウェジから約300km離れているS地区は、カオンデという民族のチーフ(伝統的な首長)が治める領域にある。S地区を統治するチーフの先祖は、18世紀の終わりごろにコンゴ盆地南部にあったルバ王国から移動してきたといわれている(Jaeger 1981: 55)。その後S地区には、1970年ごろからルンダやルバレ、ルチャジ、チョークウェといったカオンデ以外の民族が移入しており、現在の民族構成はカオンデとカオンデ以外の移入者が半数ずつである。これらの5民族にはそれぞれチーフがおり、歴史的には互いに衝突・対立したり、統治されたりしたこともある。

 

カオンデは林のなかに親族を基本とした7世帯程度の小さな村をつくり、焼畑でモロコシやトウモロコシ、インゲンマメ、カボチャ、サツマイモなどを栽培して暮らしてきた。カオンデ以外の民族は焼畑を開墾し、キャッサバを中心にトウモロコシやインゲンマメ、カボチャ、サツマイモなどを混作してきた。現在でもカオンデはモロコシを、カオンデ以外の民族の移入者はキャッサバを栽培しており、好む主食作物が異なっている(原2016)。

 

キャッサバはイモが肥大すれば、いつでも収穫することができ、モロコシやトウモロコシに比べて安定した収量を見込めることから、他民族の人びとは年間を通して主食食料を確保することができている。一方で、カオンデが栽培するモロコシやトウモロコシの収穫期は決まっており、毎年1月から3月には作物の貯蔵量が少なくなる端境期が存在する。

 

 

ザンビア06

モロコシの稈を倒してから、穂を摘み取っていく

 

ザンビア07

毒抜き後のキャッサバのイモの表皮をむいて天日干しする

 

 

近年ではモロコシを栽培する人は減っており、多くのカオンデがトウモロコシに依存した食生活を送っている。収穫したトウモロコシの大半をFRAへ出荷してしまった農家は、貯蔵する食料が少なくなるとトウモロコシを購入する。しかし雨季にはトウモロコシは値上がりし、買うことも難しくなる。そのうえ端境期には現金も不足しており、主食食料を手に入れることが難しくなることもある。

 

カオンデ以外の人びとは、キャッサバやトウモロコシを組み合わせてシマを調理するが、カオンデはモロコシとトウモロコシに頼っているため、端境期にはシマの材料となるデンプン粉が不足することがある。そのときにはシマではなく、ゆでたカボチャやサツマイモを食べる。しかしザンビアの人びとは、毎食シマを食べることを基本としており、「シマがない」ことはひもじいことを意味する。シマを食べることができない世帯は、近隣の人びとから揶揄されることもある。

 

 

ザンビア08

穀物の端境期には、カボチャが貴重な食事となる

 

 

キャッサバによる地域のフードセキュリティ

 

カオンデのなかにもキャッサバを栽培する人はいるが、その面積は小さく、毎年のようにキャッサバを植えつけるカオンデはほとんどいない。そのため、穀物の端境期に主食食料が欠乏したカオンデは、他民族の友人からキャッサバを手に入れようとする。冒頭で取り上げたルーウィはルンダ、アイーダはチョークウェであり、毎年焼畑を開墾してキャッサバを育てているため、彼らの家には穀物の端境期である雨季になると、キャッサバを求めてカオンデの友人たちが訪ねてくる。ときにはS地区の外から見ず知らずのカオンデが訪れることもある。

 

2014年2月2日、ルーウィ夫妻の友人であるカオンデの男性カソンコモナが、収穫されたばかりのインゲンマメを携えてルーウィの家を訪ねてきた。おもにトウモロコシを栽培するカソンコモナは、収穫したトウモロコシの多くをFRAに出荷してしまい、食料の貯蔵が少なくなっていた。一方、ルーウィ夫妻はこの年インゲンマメの種子を入手できず、栽培していなかった。そこでルーウィ夫妻は、容量5リットルのバケツ2杯分の乾燥キャッサバを渡し、同じバケツ0.6杯分のインゲンマメを受け取った。

 

雨季は農繁期でもあり、畑での労働の報酬としてキャッサバを入手することもできる。2014年2月24日の朝、近所に住むカオンデの女性ムヤニがアイーダを訪ねてきた。トウモロコシとモロコシを栽培するムヤニは、主食食料の貯蔵が少なくなって困り、働くかわりにキャッサバを分けてもらえるよう相談しに来た。アイーダはムヤニにマウンド造りを手伝ってもらい、お礼にキャッサバの生イモを分けるという約束を交わした。ムヤニは午前中の2時間ほどでおよそ10のマウンドをつくって、直径70cm程度のタライに山盛りのキャッサバのイモを持ち帰った。ムヤニにとって労働と交換で、シマの材料となるキャッサバを手に入れられることは重要である。キャッサバを植えつける大きなマウンドをつくる作業は重労働であり、アイーダもまたムヤニの申し出をありがたく受け入れた。

 

 

ザンビア09

ムヤニに提供されたキャッサバのイモ

 

 

端境期に主食食料が欠乏するとき、他民族の人びとが栽培するキャッサバが、カオンデにとっても貴重な主食食料となる。カオンデはキャッサバを現金で購入するほか、現金がないときには、雨季に収穫できる副食材のインゲンマメや、ときには肉や魚とキャッサバを交換する。副食材もないときには、畑で働くことでキャッサバを手に入れる。

 

ザンビアでは、国家政策においてトウモロコシが重要な主食食料と位置付けられ、農家も政策にあわせて作物を選択している。しかしこのような状況のなかで、カオンデ以外の民族の人びとが政策にあまり影響されず、キャッサバの栽培をつづけることで、穀物の端境期にはキャッサバが食料をもつ者からもたない者へと提供されている。

 

 

おわりに――国家政策に依存しない村びとによるフードセキュリティ

 

ザンビア政府による農業投入財に対する補助金プログラムは、耕作面積の小さな農家の所得向上や規模拡大、食料確保を目的として実施されている。S地区のように輸送費のかかる遠隔地では、農家が補助金を利用せずに農業投入財を購入して、トウモロコシを都市の市場に出荷することは経済的に厳しく、補助金を頼らざるを得ない。しかしプログラムの内容は、そのときの政治状況に大きく左右され、小規模農家が食料不足に陥る側面も否定できない。

 

カオンデは数年に一度、焼畑を開墾して複数の作物を混作し、狩猟や採集、漁撈などを組み合わせて、みずから消費する食料や生活資材を獲得し、村内で分配して暮らしてきた(大山2011)。とはいえ、近年では都市から離れた農村でも、サラダ油や塩といった調味料、鶏肉やヤギ肉などの食材を購入することは日常であるし、衣類や子どもの教育費、都市への交通費といった支出も増えている。彼らにしてみれば、食料を確保することとともに、多くのトウモロコシを出荷して、より多額の現金収入を得ることも重要である。

 

ルーウィ夫妻は2013年までの毎年、キャッサバの焼畑を開墾するとともに、政府から配給される化学肥料を用いてトウモロコシを耕作していた。しかし度重なる化学肥料の遅配や不足、補助金の削減による実質負担額の上昇を理由に、化学肥料の購入をやめて焼畑でおもにキャッサバを栽培している。ルーウィは、トウモロコシ栽培には畝立てや除草、収穫物の運搬にも人を雇うので、支出が多すぎるという。FRAによる支払いは毎年のように滞っており、トウモロコシの出荷後、売上金の受け渡しを半年以上も待たされる年もある。これに対してキャッサバは、化学肥料を使わずに栽培でき、軒先や市場で販売して少額の現金収入を得ることもできるとルーウィ夫妻は話す。

 

ルーウィ夫妻のような他民族の人びとが、トウモロコシではなく、キャッサバ栽培に重きを置くようになる一方で、カオンデの人びとはしだいに労力のかかるモロコシをつくらなくなり、自家食料にも現金収入源にもなるトウモロコシの栽培に注力するようになった。もともとカオンデの土地であるS地区周辺の人口密度は、ザンビア国内で最も低い。開墾できる林は多く存在し、チーフが他民族の移入者を受け入れ、未開墾の土地を分配している。カオンデと他民族の移入者の耕作地は競合することなく、それぞれの主食作物を栽培することができている。

 

S地区では食料が不足するときには、栽培する主食作物が異なる民族のあいだで食料がやりとりされ、頼ることのできる民族間の関係が築かれているといえる。キャッサバによる地域のフードセキュリティは、カオンデのみで暮らすことでは実現しなかったのである。他民族の移入者がカオンデの土地で暮らしはじめ、移入者としての排除や受け入れ社会への同化を強要されなかったことで、民族ごとに農耕を営むことができ、農業政策に依存しない地域のフードセキュリティが、民族を超えて保たれている。

 

とはいえ、毎年のようにトウモロコシ栽培が政治の影響を受け、農家の生活不安につながる現在の状況は好ましいものではない。ザンビアでは大統領選挙の前年になると、現職の大統領が農村部の票集めのため、補助金の増額や迅速な化学肥料の供給をおこなうこともあり、農業生産が政治に左右される現状は変わりそうもない。このようななかで、作物の収量を増大させ、世帯の生計多様化によって現金収入を増やす努力だけでは十分な食料を確保することは難しい。現在の農業政策は、このような小規模農家の限界を補うように改善されていくべきである。

 

ザンビア政府は、これまでも何度もトウモロコシのみに頼る農業政策の改善を試みている。1930年代の食料不足の際には、植民地政府によって救荒作物としてキャッサバの栽培が奨励され、1970年代にもキャッサバの導入が議論されている。長いあいだ、キャッサバが重要なトウモロコシの補完食料として認識されているにもかかわらず、政府はトウモロコシのみに重点をおき、農業政策を策定してきた。

 

しかしザンビア政府は、本稿でみたような北西部州など地方の小規模農家がこれまでの農業政策を経験するなかで、キャッサバなどの多様な作物を食料としてきたことを前向きに評価し、政策に取り込んでもよいはずである。キャッサバやサツマイモ、カボチャなどの作物生産が奨励されることで、地域内で栽培される主食作物が多様になり、食料が欠乏する事態の回避につながる。都市や周辺国向けのトウモロコシ生産に偏るのではなく、キャッサバなどのほかの主食作物を含め、農業生産の支援をおこなっていく必要がある。

 

本稿で取り上げた民族間におけるキャッサバの融通にみられるように、世帯内では難しくとも、地域内で栽培する主食作物の多様性を保持することで、地域におけるフードセキュリティが確保される。農村の人びとの暮らしにあわせて農業生産の向上を目指すことで、人びとは国家政策のみを頼るのではなく、現在までアフリカ農村で培われた社会関係にもとづくローカルなフードセキュリティと組み合わせて暮らしを安定させることができる。

 

(本稿にかかる現地調査は、平成25~27年度日本学術振興会科学研究費補助金・特別研究員奨励費(13J02843)によって可能となった。)

 

参考文献

・大山修一2011. アフリカ農村の自給生活は貧しいのか? E-journal GEO 5(2): 87-124.

・原 将也2016. ザンビア北西部における移入者のキャッサバ栽培と食料確保. アジア・アフリカ地域研究16(1): 73-86.

・平野克己2013.『経済大陸アフリカ―資源、食糧問題から開発政策まで』中公新書.

・Jaeger, D. 1981. Settlement Patterns and Rural Development: A Human Geographical Study of the Kaonde Kasempa District, Zambia. Amsterdam: Royal Tropical Institute.

・Lukanty, J. and A. P. Wood. 1990. Agricultural policy in the colonial period. In A. P. Wood et al. eds., The Dynamics of Agricultural Policy and Reform in Zambia. Ames: Iowa State University Press, pp. 3-19.

・Mason, N. M. et al. 2013. Zambia’s input subsidy programs. Agricultural Economics 44(6): 613-628.

・McCann, J. C. 2010. Stirring the Pot: A History of African Cuisine. London: C. Hurst and Co. (Publishers) Ltd.

・Namonje-Kapembwa, T. et al. 2015. Does Late Delivery of Subsidized Fertilizer Affect Smallholder Maize Productivity and Production? Lusaka: Indaba Agricultural Policy Research Institute.

 

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