中国の「戦争に至らない準軍事作戦」――POSOWを読み解く

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3.中国がPOSOW戦略をとっている背景

 

中国がこうした準軍事手段で実効支配を奪い、強化するというやり方は、あらゆる手段を用いて制約なく行われる「超限戦」の一環であると解説されることがある。たしかに、1999年に中国人民解放軍の軍人によって提起された「超限戦」の概念は、軍事・超軍事・非軍事の領域で様々な作戦様式を指摘しており、「超限戦」の一環として行われている可能性はあるだろう。それでは、なぜ中国は近年積極的にPOSOWを展開しているのだろうか。

 

中国が準軍事的手段による作戦をとっているのは、積極的理由と消極的理由が挙げられる。積極的な理由としては、烈度の高い軍事的手段を用いることなく、日本や周辺国、あるいは国際法の「グレーゾーン」や陥穽を突いて実効支配を強化しようとしているからである。消極的な理由としては、中国の軍事力や法執行機関の限界や資源の制約を打破するための手段として準軍事的手段が用いられているからである。

 

この両側面の理由から、現在、中国は民兵を第一線、法執行機関を第二線、軍隊を第三線(三線化)と位置づけて、それらを一体的に運用し、準軍事作戦と軍事作戦とを「シームレス」に展開しようとしている。この「軍・警・民」の三線化、一体化による「辺海防安全の保衛」、「海洋権益の維持」は、特に2012年以降、今日に至るまで積極的に行われており、習近平政権下の特徴の1つとして挙げられる。

 

実際、2013年に公表された中国の国防白書『中国の軍事力の多様化された運用』の中では、既に「民兵が戦備任務に積極的に参加し、辺海防地区の軍・警・民の共同防衛を行う」ことや、「海監・漁政などの法執行部門の連携した仕組みを構築し、軍・警・民の共同防衛を構築、整備する」ことが言及されている。あまり知られていないが、こうした戦略は、習近平が掲げる「軍隊と民兵・予備役の結合」(「軍・警・民」の一体化)戦略に基づいている。

 

この国防白書よりも10年以上前、習近平は福建省在任期間の2002年8月に南京軍区政治部の機関誌『東海民兵』に論文を寄稿しており、現役部隊と民兵・予備役部隊の同時建設・発展などの建軍理念を提出している。この軍と海上法執行機関と民兵とが一体となって中国の権益を擁護し拡大しようとする戦略が、いわゆる習近平の「軍事思想」の重要な柱の1つとなっていることは間違いないだろう。

 

こうした習近平が進める軍民融合は、毛沢東による「人民戦争」への郷愁であるように思われる。「人民戦争」の核心は正規軍と非正規軍(人民による武装民兵)との有機的結合にある。現在、海上民兵のみならず、サイバー民兵の構築や軍民融合による無人機をはじめとする国防科学技術工業の発展を加速している。これらの動きは中国の新しい「人民戦争」であると見るべきであろう。

 

 

4.中国のPOSOWがアジア諸国および国際社会に与える影響

 

2017年10月18日、中国共産党第19回全国代表大会における習近平の報告では、国防と軍隊の近代化に関して、「2020年に軍の機械化・情報化を概ね実現させ」、「2035年までに国防と軍隊の近代化を概ね実現させ」、「今世紀中頃までに世界一流の軍に築き上げる」ことを目指すという「3段階」のスケジュールを掲げた。今後、軍事力を一層強化するとともに、POSOWやいわゆる「グレーゾーン」を突いた「作戦」を展開することが想定される。

 

それに伴い、周辺海域において衝突や不測の事態が発生するリスクが増加することとなるが、中国は強化された軍事力を背景に、準軍事的手段や非軍事的手段も用いて周辺海域を中国にとって有利な形で管理、回避しようとするだろう。また、空域に関しても、民間航空機への飛行制限や識別を要求するといった可能性がある。今年1月には、中国が台湾海峡の上空を通る航路を事前に協議を行わずに設定し、運用を開始したことが報じられた。

 

とりわけ、南シナ海においては、中国は海洋権益の擁護のみならず、民間目的や研究開発、平和利用、海洋環境、海上交通の安全など、様々な名目を掲げて世論戦を展開し、同海域における実効支配を一層強化しようとするだろう。そうした軍事手段のみによらない手段で、中国が「紙くず」と呼ぶ南シナ海の仲裁裁判の裁定を無視し、乗り越える国際世論形成を展開するものと見られる。

 

東シナ海においても、軍艦による日本の国際海峡(特定海域)や領海に対する積極的な「無害」通航や領海侵入など、中国版「航行の自由」作戦とも呼ぶべき行動のエスカレーションや、大量の漁船や民間船、海上法執行船、無人機の来襲など、様々な「奇策」を想定しなければならない。また、危機管理メカニズムの構築などによる対立回避や緊張緩和、「ウインウイン」や共同開発などの甘言を含む、硬軟織り交ぜた心理戦が展開されるだろう。

 

中国が既存の国際法の解釈に対する法律戦を仕掛けてくる日も遠くない。中国は既存の国際法秩序の破壊者と受け取られがちだが、実際は国際法を全く無視しているわけではなく、国際法を熟知しながらもそれと相反する自国の国内法を制定して他国に強制するなどの二重基準を設けたり、自らに都合のいい国際法の解釈を積極的に打ち出したりすることで、自国の権益を擁護しようとしている。

 

日本を含む周辺諸国にとって、こうした中国の準軍事手段を活用した戦争に至らない作戦や、同時に展開される「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)に代表される政治工作に対して、量的に対応するのは早晩困難になる。そのため、抑止力を強化し事態に対処することは焦眉の課題であるが、その限界を認識して先手を打ち、攻勢に転じなければならない。さもなければ、中国のPOSOWが功を奏することとなるだろう。

 

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vol.266 

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