世界の消費者運動から日本の課題を考える

オーストラリアの消費者政策と消費者団体

 

以上、国際的な消費者運動の最近の動きを二つに分けてみてきたが、両方の要素がみられる国の一つにオーストラリアを上げることができる。そこで、次に2017年に調査したオーストラリアの消費者政策と消費者団体の特徴をまとめてみたい。

 

 

オーストラリアの消費者団体と政策方針

 

オーストラリア最大の消費者団体はCHOICE(オーストラリア消費者協会)である。CHOICEはアメリカのConsumer ReportsやフランスのUFC、イギリスのWhich?などに続いて1959年に設立された。シドニーに商品テスト施設と本部があり、商品テストと雑誌の販売が主要な活動となっている。

 

 

CHOICE本部(筆者撮影)

 

 

CHOICEのように典型的な雑誌販売型の消費者団体モデルがある一方で、オーストラリアには近年政府主導の消費者団体が作られている。その設立の趣旨について、オーストラリア競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission;ACCC)へのインタビュー時に確認したところ、「オーストラリア政府は通常消費者団体に資金を回すことはないが、特定の分野に限って消費者団体に資金援助をしている、それがエネルギーと通信産業である」とのことだった。この2つの産業は問題が多く、取り組むべき課題がたくさんあるため、このようなかたちをとっているという。

 

この点については、先に触れた「高度な専門性が必要となることから、特定の目的や活動に特化された団体が必要とされてきている」という時代の要請に対応しているといえる。また、新しい流れである行政連携型ともいえる、政府と消費者団体が協働で問題の対処にあたる連携が実現されている。このようにオーストラリアでは、時代に即した動きを取り入れながら、先進国モデルと新興国モデルの両方が共存している。

 

次に、この方針のもとに設立され、現在活動している二つの消費者団体――The Australian Communications Consumer Action Network(ACCAN)とEnergy Consumers Australia――を紹介することにする。

 

 

オーストラリアの専門消費者団体

 

The Australian Communications Consumer Action Network(ACCAN)

 

ACCANは、通信産業分野のサービスに係る問題に対応するために2009年に設立された非営利・非政府団体である。オーストラリアでは、1990年代の初めころから通信産業の苦情が多かったため、業界と政府、消費者団体の三者連携が必要となった。そこで、通信産業の分野に特化して、三者連携のもとにACCANが設立されることになったのである。

 

消費者を代表して問題の対処にあたるため(注5)、政府から資金を与えられているが、この資金源については、政府が消費者保護を目的として通信業界から徴集したお金をACCANに支払うという仕組みが法律(Telecommunications Act 1997, Section 593) によって整備されている。

 

(注5)たとえば、次のような問題に対処しているとのこと。

・遠隔地において通信のレベルが低いのでサテライトを設置してもらいたいという依頼があった場合、リサーチをして、政府に対して提案を出す。

・無料だったコンテンツの配信がいつの間にか課金されていたような場合には、メディアに対して名指しで苦情を公開する。

 

この組織は、ほぼ100%政府から資金を得ており、その金額は年間220万オーストラリアドルになるという。その他、会議等のイベントを通して収入を得ることもあるが、ほんのわずかな金額(年間約20万ドル)である。

 

ACCANは団体会員からなる組織であり、会員団体から役員を選出して委員会を作り、その理事が最高経営責任者(CEO)を雇って団体の組織運営を委託する。現在のスタッフは経済、社会政策、法律、エンジニアリング、通信業界、PR、マネジメントなどの14名の専門家で構成されている。

 

日本の組織と比べて印象的だったのは、サービス部門に、全盲のスタッフがおり、視覚障碍者がインターネットやテレコミュニケーションサービスを利用する際に生じるアクセスや料金などの様々な問題に対処していることであった。

 

インタビューの後、オフィスで立ち話をしていたところ、コーヒーカップをもって盲導犬と一緒に部屋から出てきたHawkins氏と出会った。盲導犬もスタッフの一員となっているようだ。Hawkins氏は他のスタッフ以上にミーティングもこなし、盲導犬と共にタクシー、バス、飛行機を使い、国内、海外で行われる会議等にも多数出席しているとのことである。

 

 

Wayne Hawkins氏と盲導犬Beau(ACCAN提供)

 

 

その他、この団体では、聴覚障害を持つ人を理事の会員の中に入れるようにして、身体障碍者に対してのサービスを向上し、サービスが均等に誰にでも行き渡ることを目指しているという。日本でも最近は身体障碍者の採用が増えてきているが、このように健常な人と対等に働ける環境はまだ整備されていないため、オーストラリアとの意識や視点の違い、自由で柔軟な発想が感じられた。

 

ACCANはこれまでに消費者の教育と、総数60を越える調査・研究結果をあげている。とくに携帯電話からフリーダイヤルができるようにしたことや(注6)、データの使い過ぎを防止するため、各電話会社が顧客にSMSで使用量を通知するのを義務づけたこと、またローミングも同様に通知を義務づけ、帰国後の多額の請求等の問題が減少したことなどがおもな成果である。

 

(注6)従来、フリーダイヤルは固定電話からのみだったが、ACCANの大規模なキャンペーンにより2015年以降は携帯電話からでも無料となった。携帯しか持たない世帯が増え、とくに低所得者が政府・公共団体事務所への問い合わせをする場合は、(待ち時間が長いため)電話料金の負担が問題視されていた。

 

 

Energy Consumers Australia

 

Energy Consumers Australia事務所(筆者撮影)

 

 

Energy Consumers Australiaは、エネルギーサービス(電気やガス)に関する料金・品質・安全性・安定的供給について、長期的な消費者利益を促進することを目的として、2015年に政府によって設立された消費者団体である。

 

当時、長期間にわたる電気料金の高騰により、消費者の生活が圧迫されるようになってきたため、社会福祉団体や社会的弱者を支援するためのローセンターや市民団体などを中心とする複数の団体が、この問題に対応するための組織を作ってもらいたいという要請を政府に出した(注7)。政府はそれに応えてEnergy Consumers Australiaを立ち上げた。

 

(注7)複数の団体には、Public Interest Advocacy Center、Consumer Action Low Center、Consumer utilities advocacy center、South Australian Council of Social Service、Queensland Council of Social Serviceなどがある。

 

政府によって設立されたが、ACCANと同様、法律によって独立した財政基盤が確保されている。各州(西オーストラリア州を除く)に徴収金に関する法律があり、Australian Energy Market Operator(AEMO)が取りまとめて Energy Consumers Australiaに支払うという仕組みになっている(注8)。つまりおもな運営資金は電気を使用する消費者が支払っているのである。

 

(注8)オーストラリアは、1998年に公営の電気事業を発電・送電・小売に分割民営化して電力市場を導入しており、AEMO が運営している。必用な予算を政府が決め、それを世帯数で割った金額を電気料金に上乗せしてAEMO が徴収し、Energy Consumers Australia に支払っている。1世帯当たり1年間に50セント程度の金額になる。

 

スタッフは16名と小規模な団体であるが、Energy Consumers Australiaは、他の消費者団体を支援したり、企業と協働して、エネルギー分野の消費者保護に重要な役割を果たしている(注9)。CEOは、オーストラリア政府間評議会(Council of Australian Governments :COAG) Energy Councilによって任命される当団体の理事会において選任される。

 

現在の初代CEOであるLouise Sylvan氏は経済界をはじめ、広くその活躍が知られる著名人である。

 

(注9)消費者への情報提供や、貧困者への対応策について企業と協働している。

 

これまでの大きな成果としては、エネルギー価格の高騰に関して財務省に対して調査することを依頼したことを受けて、オーストラリア競争・消費者委員会が報告書をまとめたことがあげられる。また、南オーストラリアで州全体が大きな停電に見舞われたため、科学者に報告書をまとめてもらい、原因究明と改善策を検討している。

 

 

消費者団体・非営利組織の役割と日本社会の発展

 

オーストラリア政府は、消費者団体に限らず、重要かつ関与すべきだと考えられる様々な分野でNGOを資金的に援助している。とくに、政府が法律を作って、消費者団体が企業から資金調達ができるような仕組みを作っている点は興味深い。時代の要請に対応して柔軟に枠組みを作る姿勢は、わが国の消費者政策においても参考にしたいところである。

 

消費者団体もそうであるが、非営利組織の発展には、政府の理解や支援とともに、それらが社会の公共的領域の主要な担い手となり得るようなシステムが必要である。オーストラリアの例に見るように、世界では政府が様々な組織と連携して効率的な発展を目指す方向が見られる。

 

それを現実化していくには、既成概念にとらわれず、多様性を受け入れる発想の転換が必要である。

 

オーストラリアの調査では日本に比べて組織の上層部に女性の活躍が目立っており(注10)、障碍を持つ人材の有効な活用などいろいろな面でダイバーシティが進んでいると感じた。狭い国土で資源の乏しい日本が世界に取り残されないように発展していくためには、組織や人材の有効活用を考える必要がある。日本固有の常識を緩め、視野を広げていろいろな発展可能性を試していくことが大切だといえよう。

 

(注10)オーストラリア競争・消費者委員会でインタビューに対応していただいた副委員長Delia Rickard氏、ACCAN会長Teresa Corbin氏は女性であった。Energy Consumers Australia会長Louise Sylvan氏も女性である。

 

日本の消費者団体や非営利組織は、このようなシステム整備の必要性を社会に呼びかけていくことが必要だ。さらに、消費者教育や市民の啓発を進めてその認識を高め、成熟した社会を創り上げていくことが一つの使命となっていくだろう(注11)。

 

(注11)このような問題意識のもとに、諸外国の状況を踏まえながら日本の課題について考えたものには、丸山千賀子「海外動向からみる消費者団体の課題と方向性」『消費者情報』No.480(2017年5月)2-4頁。関西消費者協会ウェブサイト http://kanshokyo.jp/pdf/480/480_2.pdf

 

※本研究はJSPS科研費26350054,17K03650,金城学院大学特別研究助成費の助成を受けたものです。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

誰でも自由にアクセスできる本当に価値ある記事を、シノドスは誠実に配信してまいります。シノドスの活動を持続的なものとするために、ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」のパトロンをご検討ください。⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

無題

 

シノドスが発行する電子マガジン

 

・人文・社会科学から自然科学、カルチャーまで、各界の気鋭にじっくりインタビュー
・報道等で耳にする気になるテーマをやさしく解説
・専門家たちが提言「こうすれば●●は今よりもっとよくなるはず!」

・人類の英知を知り、学ぶ「知の巨人たち」
・初学者のためのブックリスト「学びなおしの5冊」

……etc.

https://synodos.jp/a-synodos

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.249+250 「善い生き方」とは何か?

・佐藤岳詩「善い生き方と徳――徳倫理学というアプローチ」
・井出草平「社会問題の構築と基礎研究――ひきこもりを事例に」
・大屋雄裕「学びなおしの5冊〈法〉」
・酒井泰斗「知の巨人たち――ニクラス・ルーマン」
・小林真理「「文化政策学」とはどんな学問か」