スウェーデンの「IT ガイド」――移民と高齢者が進めるインテグレーション

高齢者にとっての利点

 

高齢者にとっても、ITガイド・プロジェクトには多くの利点があると考えられます。

 

メディア機器やインターネットの具体的な知識や技術を得られるだけでなく、異国出身の若者と交流するという、これまでなかった新たな社交の場ができることになります。そこでの交流が、高齢者たちの単調になりがちな生活に彩りを添えたり、好ましい刺激になることが考えられます。

 

 

 

 

スウェーデン語をしゃべり、また相手のスウェーデン語を聞くということだけで、移民の助けになり、社会のインテグレーションに貢献をしていることになるわけですが、そのような人や社会のために役立っているという実感もまた、高齢者に張り合いをもたせたり、喜びにつながるかもしれません。

 

このことに関連して、難民と高齢者の語学(能力)的な特徴が、難民と高齢者の両者が恩恵を得る鍵になっているというおもしろい指摘もあります。

 

外国出身の若者は、数年スウェーデン語を集中して学び、一通りスウェーデン語を話せるようになっても、まだ流暢に早く話すことができません。一方、高齢者も、スウェーデン語に不自由なるわけではありませんが、一般に若い人に比べ話す速度が遅くなります。

 

つまり両者とも、話す速度が相対的に遅いということになるわけですが、このことが両者にとって好都合だというのです。難民の若者たちにとって、高齢者のスウェーデン語は、他の世代が早口で話すスウェーデン語より聞き取りやすくなりますし、高齢者たちにとっても、早口でしかも新しいことを説明されると理解が難しいことでも、難民たちがゆっくり繰り返し説明しれくれるのであれば、格段理解がしやすくなるためです。

 

2016年の集計では、このサービスをうけた高齢者1700人のうち98%の人が、自分の友人にITガイドを勧めたと回答をしています。この高い数値は、高齢者がITガイドに満足していることを、何より明確に物語っているといえるでしょう。

 

 

自助を支援するインテグレーション・プロジェクト

 

このように、普段の生活ではほとんど接点がなかった二つの社会グループが出会い、同時に恩恵を受けられるということ自体、十分素晴らしいことですが、長期的な観点でみると、移民の自助・自立をうながす支援として、大きな効果をあげる可能性があることも注目に値します。

 

国からの支援を受けず自力で生計を立てて、社会の成員として認められる生き方をしたいという願望は、若い移住者にはとりわけ強いと思われますが、異国の新天地で自分にふさわしいと思える仕事をみつけるのは容易ではありません。移民の中には、移民の人口密度が極端に多い「ゲットー化」した居住区に住み、長い失業で将来の展望をもてずに、不満が累積するケースも少なくありません(穂鷹、2017)。

 

そんななか、ITガイドという仕事は、長く続けられる仕事ではないにせよ、移住後の早い段階で就ける仕事であり、やりがいや自信、次の目標などを抱くことができる貴重な体験になるのではないかと思われます。

 

実際に、ITガイドたちへのインタビューをみてみると、このITガイドをきっかけに自信を得、語学とITのスキルを磨き、正規の雇用やより高度な仕事など、さらなるステップアップを目指す声が目立ちます。若者たちに、将来への展望を持たせるのに少なからぬ役に立っているようにみえます。

 

インテグレーションには、何より移民たち本人が展望や目標を持てること、そしてそれに向かって努力する意志を持つことが非常に重要です。それを可能にするための支援や環境の整備、いわば「自助のための支援」として、ITガイドのプロジェクトが機能するのであれば、その点は高く評価できるといえるでしょう。

 

 

 

 

おわりに

 

「労働力を呼び寄せると、来たのは人間だった」(Frisch, 1967)

 

これは、20世紀のスイスを代表する作家マックス・フリッシュMax Frischの有名な一文です。労働力として外国から移民を受け入れる際に、労働力ということにばかり目がいき、その人たちのインテグレーション問題をあとまわしにすることで、社会に溝が刻まれ、問題が長期化することがあります。上の一文は、そのような状況を凝縮・象徴した優れた一文として、たびたび引用されてきました。

 

ヨーロッパでは、難民や移民の時事問題が報道をにぎわす一方で、高齢化と少子化によって年々深刻化する労働力不足の問題解決のための数少ない選択肢として、移民の受け入れを容認し、そこに期待を寄せる意見が、近年、ふたたび強くなってきているように思われます。このように移民に対し、異なる見解が交錯・対立する今日、これからの移民の受け入れは、具体的にどのようであるべきなのでしょうか。

 

移民をどれだけどのように受け入れるかという(資格)制度や政治レベルの話に議論や関心を向けるだけでなく、実際にどう移民を社会にインテグレーションさせていくかという課題を真摯に自覚し、地道な努力を移民側と受け入れ側の双方が長期的に続けていく。20世紀のヨーロッパでの様々な成果や失敗を鑑みると、移民を受け入れる国にとってそれしか道はなく、そしてそれができるかできないかが、社会の将来の明暗を大きく分ける、これだけは確かなように思われます。

 

 

●参考文献およびサイト

 

IT ガイドのホームページ

http://www.it-guide.se/home-3-2/home-3-2-2/

 

Aalbu, Anders, Young refugees teach IT skills to seniors in Sweden, UNHCR, The UN Refugee Agency, 16 May 2018.

http://www.unhcr.org/neu/18247-young-refugees-teach-skills-seniors-sweden.html

 

Årets Samhällsentreprenör: IT-guide. In: Dagens Samhälle, Publicerad: 19 maj 2016 kl 08:45, Uppdaterad: 25 maj 2016 kl 20:52

https://www.dagenssamhalle.se/nyhet/arets-samhaellsentreprenoer-it-guide-25073

 

Frisch, Max, Vorwort zu dem Buch «Siamo italiani – Die Italiener. Gespräche mit italienischen Arbeitern in der Schweiz» von Alexander J. Seiler, Zürich: EVZ 1965. Als “Überfremdung I” in Max Frisch: Öffentlichkeit als Partner, edition suhrkamp 209 (1967), S. 100. Auch in Berliner Zeitung, 8.1.2005.

https://www.berliner-zeitung.de/der-schweizer-schriftsteller-max-frisch-1965-zum-thema-immigration——und-es-kommen-menschen–15652010

 

穂鷹知美「ヨーロッパにおける難民のインテグレーション 〜ドイツ語圏を例に」一般社団法人日本ネット輸出入協会、2016年4月14日

http://jneia.org/locale/switzerland/160414.html

 

穂鷹知美「職業教育とインテグレーション――スイスとスウェーデンにおける移民の就労環境の比較」『シノドス』2017年11月1日

https://synodos.jp/international/20639

 

Media, culture and arts activities, Training course/Workshop for young people, Internship/Employment services and activities, Title: IT – Guide Duration: From 2014 to 2, Becoming a part of Europe, Co-fundey by the Erasmus and Programme of the European Union.(2018年6月18日閲覧)

http://bpe-project.eu/media/1142/it_guide.pdf

 

Oldies online,  plan b, ZDF, 17.05.2018

https://www.zdf.de/gesellschaft/plan-b/plan-b-oldies-online-100.html

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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