欧州議会議員選挙とユーチューバー――中高年が仕切る政治にノーをつきつけた若者たち

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保守党政治家の反応と対策

 

さて、リゾのビデオについて、上の世代の人々はどんな反応をしたのでしょう。もちろん多様な意見や反応があったでしょうが、メディアでとりわけ取り上げられ、ひときわ目立っていたのは、名指しで非難された保守与党の政治家たちの反応です。

 

当初、ユーチューブで自分たちの意見を、リゾと同じ年齢の保守党政治家を動員して作成しようとしましたが断念し、自分たちが信頼し得意とするコミュニケーションツール(既存のマスメディアを通じた発言や、反論文書のネット上の公開、リゾへの討論への招待)を通じての批判や対話を試みました。

 

まず、リゾへの反論として、11ページの文書をネット上に、選挙直前に政党のホームページで公表しました(5月23日)。しかし詳細にわたる反論であるということ以外はほとんど報じられず、リゾのビデオを視聴した若者を中心に広範にアピールできるようなメディアツールでもなかったため、選挙行動にはほとんどインパクトはなかったと思われます。

 

リゾに対しては、自分たちが得意とする討論というかたちで直接、向かい合いたいと希望し、招待しましたが、断られたため不成立に終わりました。リゾは、自分が吃音であること(ビデオは編集されているので、吃音であることはわかりません)をその直接的な理由としてあげ、自分個人が議論にでることが重要なのではなく、自分が訴えた内容について議論することが重要なのだとも強調しました。ただし投票後に条件つきで討論に応じるという声明をそのあと出しており、今後討論が成立する可能性はあります。

 

もっとも失敗に終わったのは、保守与党党首クランプ=カレンバウアーAnnegret Kramp-Karrenbauer(メルケルの後任)の発言でした。選挙後、デジタルメディアの言論の自由を規制すべきだといっているようにもとれる、踏み込んだ言及をしたことで、若者だけでなく社会全体から不評を買い、連立を組む社会民主党からも距離を置かれ、より不利な立場に追い込まれました。

 

政治家たちは、それまで一切関心ももっていなかったし、関係もないと思ってたユーチューバーからいきなり攻撃をかけられて、余裕をもって対応できなかったのだと、空回りに終わった始終を弁解したいところでしょうか。しかし、それを考慮したとしても、全般に感情的な反論が目立ち、リゾを中心とする若者の気持ちを理解したり歩み寄るためのコミュニケーション手段も姿勢も乏しく、同じドイツ語を話しているはずなのに、若者とのコミュニケーションが成立していない、という印象はぬぐえませんでした。

 

そのような保守党の政治家たちの言動について、『シュピーゲル』のコラムニストでデジタルメディア通のロボSascha Loboは、「まちがうことができる箇所をすべてまちがった」(Lobo, 2019)と評しています。

 

 

新しい政治的議論の場ができるチャンス

 

ところで、ロボは、彼の1時間強のポットキャストの番組で、リゾのビデオについて、選挙行為への影響や、環境政策への効果といった直接的な相関関係からではなく、より広い脈絡からあれこれ分析をしています (Lobo, 2019)。そこでとりわけ興味深かった指摘について、わたしの言い方でまとめさせていただき、紹介してみます。

 

これまでドイツで政治的議論というと、必ず移民・難民問題になった。極右や一部の保守勢力にとって、移民・難民問題がほとんど唯一の政治的テーマであり、これによって自分の敵か味方を区分し、またこのテーマによって支持者を増やしてきた。そしてこのテーマがでてくると、必ず極右勢力とそうでない人という二手に分かれ、意見が対立し、議論は先に進まずデッドロックとなった。

 

しかし、リゾのビデオには移民の話が一切でてこない。政治的にもっとも優先されるべきとする地球温暖化の問題に特化している。そして、保守与党を集中的に批判している(極右政党も入れるのは問題外だとしていて、間接的に批判はしてはいるが)。

 

これによって、リゾは政治討論のテーブルを一掃し、討論の対立軸も新たにつくり出した。ここでの対立とは、極右対アンチ極右ではなく、保守与党とアンチ保守与党である。

 

このように、政治的な議論の場(テーマ)をまったく違うふうにあつらえ、そこで対立する項目も仕切り直すことで、極右勢力がほかの人と同じような立場で討論の壇上に立つことを可能にした。そして、やっと普通の議論(これまで極右がしていたような一つのテーマについての敵と味方に別れた堂々巡りの議論ではなく)を可能にした。これこそが、これまで延々と平行線がつづいたドイツの政治的討論で、状況を打破できる解決策かもしれない。

 

つまり、リゾが地球温暖化というきわめて狭い特化したテーマを扱ったことで、ドイツの政治討論の場が活性されるかもしれないという希望的観測であり、もしそうであるなら、このようなステージにドイツを運びこんでくれた「リゾに感謝をしなくてはならない」と、結んでいます。

 

たったひとつのビデオに、そこまでの影響を期待していいのかと、にわかに信じがたいような気もしますが、もしもそうであるなら、そのような可能性があるとすれば、確かに(リゾがそれを意図していたかに関係なく)近年硬直した対立が際立っていたドイツの政治空間に、ひとつの貴重な果実を実らせたことになるでしょう。

 

 

 

 

おわりに

 

欧州議会選挙に並行してドイツで起きた一連のビデオ騒動を振り返ると、気候変動という前面に出てきたテーマももちろん非常に重要ですが、その背後に、(これまでよく知られていた)東側と西側の溝、極右とそれに距離を置く人の溝以外にも、ドイツのなかにいくつもある人々の間の溝が鮮明になった気がします。

 

若者と中高年の溝、伝統的なマスメディアを好む人ともっぱらデジタルメディアを使用している人の間の溝、伝統的なやり方と世界観で仕事をしている人とユーチューバーという新しいジャンルの就労・生き方をする人との溝。

 

それらは、ほとんど気にもとめられていなかった溝や、可視化されていなかったものです。それらの溝は、あることに気づかずにいたほうがよかったのでしょうか。そうかもしれませんが、溝に気づいてしまった以上、それを埋めることは簡単ではありません。また、溝を深く掘り下げていくだけでも、不和と相互の不信以外になにもでてこないこともまた、ドイツ人は近年強く学んできました(「対話プロジェクト「ドイツは話す」――ドイツ社会に提示されたひとつの処方箋https://synodos.jp/international/22592)。

 

少し視点をずらして考えてみましょう。多くの人々が一つの国に暮らすということは、当然、社会や文化的背景、性格的な差異などをもつ人がいるということであり、社会グループ化した人たちの間に溝が生じるのも不可避です。

 

しかし、溝ができたからイコール、デッドロックなのでなく、溝があっても、溝の反対側の人と対話するために自分にまだ何が可能か。自分のコミュニケーションの仕方や流儀、メンツなどにこだわらず、溝のそばまで歩み寄って、溝をこちらからわたろうとしてみたり、あちら側の人が溝をわたろうとしていたら手助けしたり、あるいはお互いに溝の底から上をみあげてみたり。そのようなことを、溝に隔てられた双方が柔軟に考えていけるようであったら、どうでしょう。

 

今回の選挙騒動を機に、新たな対立項をもつだけでなく、溝のある人どうしのコミュニケーションの仕方についても、若者やまた若者以外の世代が考えてみることができれば、ドイツの政治も環境対策も新たなステップに進めるのかもしれません。

 

 

 

 

参考文献

 

・Rezo ja lol ey, Die Zerstörung der CDU(リゾのビデオ「キリスト教民主同盟(CDU)の破壊」)

https://www.youtube.com/watch?v=4Y1lZQsyuSQ

・Hier sind alle Quellen vom CDU-Video. Hoffe es ist alles korrekt übertragen. Falls irgendwo ein Flüchtigkeitsfehler drin ist oder so, schreib mir gern auf den verschiedenen Socialmedia Plattformen :) (リゾのビデオの参考文献リスト)

https://docs.google.com/document/d/1C0lRRQtyVAyYfn3hh9SDzTbjrtPhNlewVUPOL_WCBOs/preview

・Rezo ja lol ey, Ein Statement von 90+ Youtubern, YouTube  (リゾと90余名のユーチューバーのビデオ, 2019年5月24日公開)

https://www.youtube.com/watch?v=Xpg84NjCr9c

・Backers, Laura et al., Kinder der Apokalypse. In: Der Spiegel, Nr.23/1.6.2019, S.12-21.

・Brost, Marc, Der Aufstand der Jungen. Wahlkampf auf YouTube, Aktivismus statt Routine und die Grünen als stärkste Kraft: Die Erstwähler verändern die Regeln der Politik, Die Zeit, Politik, S.3.

・CDU, Offene Antwort an Rezo: Wie wir die Sache sehen, 23.05.2019

https://www.cdu.de/sites/default/files/media/dokumente/wie-wir-die-sache-sehen.pdf

・Drüten, Carolina, Junge Deutsche sorgen sich mehr ums Klima als der Rest Europas, Welt.de, Veröffentlicht am 25.05.2019 | Lesedauer: 5 Minuten

https://www.welt.de/politik/ausland/article194128841/Europawahl-2019-Junge-Deutsche-sorgen-sich-mehr-ums-Klima-als-der-Rest-Europas.html

・Europawahl 2019 Die Ergebnisse in der Übersicht. In: Der Tagesspiegel, 27.05.2019, 16:10 Uhr

https://www.tagesspiegel.de/politik/europawahl-2019-die-ergebnisse-in-der-uebersicht/24384130.html

・Europawahl-Ergebnisse nach BundesländernAfD triumphiert in Brandenburg, Grüne in Hamburg – so haben die Wähler abgestimmt. In: Focus Online, Dienstag, 28.05.2019, 17:43

https://www.focus.de/politik/deutschland/europawahl-ergebnisse-nach-bundeslaendern-afd-triumphiert-in-brandenburg-gruene-in-hamburg-so-haben-die-waehler-abgestimmt_id_10763287.html

・Fridays for Future ホームページ(ドイツ語)

https://fridaysforfuture.de/

・Lobo, Sascha: der Debatten-Podcast #95 – Digitalpolitik der GroKo – Marathon im Fettnapf, Spiegel Online, Sonntag, 02.06.2019   11:20 Uhr

https://www.spiegel.de/netzwelt/web/reaktionen-auf-rezo-cdu-crescendo-der-hilflosigkeit-podcast-a-1270275.html

・Oberender, Thomas, Die revolutionäre Kraft von 55 Minuten Youtube „Wir sind Rezo“, Der Tagesspiegel, 30.5.2019.

https://www.tagesspiegel.de/kultur/wir-sind-rezo-die-revolutionaere-kraft-von-55-minuten-youtube/24405828.html

・Rezo-Effekt? So reagieren CDU und SPD auf die Europawahl – heute+ Livestream | ZDF, 0:00 / 19:05, 2019.05.27.

https://www.youtube.com/watch?v=Zh53Zg-T63c

・Rezo, Wikipedia (2019年6月4日閲覧)

https://de.wikipedia.org/wiki/Rezo

・Scientists for Future

https://www.scientists4future.org/

・Tilo Jung, BPK: “Scientists for Future” zu den Protesten für mehr Klimaschutz – 12. März 2019(2019年6月5日閲覧)

https://www.scientists4future.org/unterschriften/

 

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