安倍政権のロシア・旧ソ連地域の外交政策

昨年12月26日に第2次安倍晋三内閣が成立してから約7ヶ月が過ぎた。安倍首相は、就任直後から、内政、外交ともに積極的に安倍路線を推進してきた。しかし、ここ数年、短期政権が続き、その間、「すぐ変わる首相と話をしても無意味」だという姿勢で、日本の首相と首脳会談などを行なうことを嫌悪した諸外国首脳も少なくなかった。

 

だが、6月21日に第23回参院選が投開票され、自民党が圧勝すると、近年続いていた衆参両院の「ねじれ」が解消され、政権の長期安定化の可能性が見えてきた。その状況のなかで、中国などは安倍政権の長期安定化の可能性に懸念を表明する一方、多くの国々の首脳は日本との関係強化に期待を表明しており、ロシアはじめ、旧ソ連諸国も新政権との関係強化に期待を寄せる。

 

特に、北方領土問題解決推進の「前提条件」となる長期政権が日本で確立され、政局に翻弄されるリスクが回避されたとして、プーチン大統領は北方領土交渉再スタートで合意した。民主党の敗北が予想された衆院選前に、野田前首相の訪ロを延期させた姿勢とは対照的である。

 

それでは安倍政権のロシア・旧ソ連地域の外交政策はどのようなものなのだろうか。

 

 

自由と繁栄の弧、再び

 

安倍政権のロシア・旧ソ連地域に対する外交方針をもっとも端的に表している政策方針は「自由と繁栄の弧」であろう。しかし、この「自由と繁栄の弧」政策が外交の表舞台で光を浴びるようになったのは2度目である。

 

最初に同政策が発表されたのは、第1次安倍内閣時代の2006年9月であり、それは当時の麻生太郎外相の肝いりのプロジェクトであり、氏は2007年に同名の書籍も出版している。その構想は、東南アジアから中央アジア、東欧地域にかけたユーラシア大陸の周縁部を「弧」にたとえ、その地域に対し、民主主義体制への移行や安定的な経済発展を人的交流や教育、技術、環境改善面などで支援していこうというものだ。第一次安倍政権が安全保障分野も含めてインド、豪州などと進めようとした「価値観外交」とも重複するものである。

 

「自由と繁栄の弧」政策の対象国については、具体的な国名はあげていなかったが、外務省のHPに掲載された同政策の概念地図(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/pdfs/easo_1130.pdf)を見ると、基本的な対象国は明らかに見て取れる。当時、本政策はこれまで重視されなかった、中央アジア、コーカサス、黒海地域など旧ソ連・東欧圏の多くのエリアに照準を当てる一方、中国とロシアを封じ込める政策であるとして、多くの反発も引き起こした。

 

だが、第二次安倍政権は、その「自由と繁栄の弧」および日米同盟を基軸とした「価値観外交」を再び、外交政策の基軸に据えている。報道や識者の多くは「自由と繁栄の弧」は対中封じ込め政策だとして反発しているが、政権サイドは少なくとも公には「対中包囲」の意図はないとしている。

 

ただ確実に言えることは、前回の「自由と繁栄の弧」政策に対しては「対中・対ロ封じ込め」という批判がなされていたのに比して、今回は、「対ロ封じ込め」という批判も、そのような現実もなく、むしろ、現政権がロシアとの関係強化に積極的になっているということである。安倍首相も2012年末の議会選で自民党が勝利した時点ですぐに、ロシアとの二国間関係の改善を考えていると語っていた。ロシアを「弧」のなかに位置づけているとも言えるだろう。

 

 

ロシアへの積極外交

 

前述のように、安倍首相はロシアへの積極外交を就任早々にかかげたが、その対ロ外交は、経済外交と領土問題解決の2本の柱を主軸として進められている。

 

民主党時代、ロシアと日本の関係はあまり良好ではなかった。メドヴェ-ジェフ大統領(当時)の北方領土訪問(拙稿参照:https://synodos.jp/international/1640)で関係が冷え込んだ後、2011年の東日本大震災に際し、ロシア側が積極的な支援を行なうなど一時的に関係は良くなったものの、その後は玄葉光一郎外相(当時)や前原誠司民主党政調会長(当時)などが訪ロするなどしていたが、目立った成果はなかった。

 

他方、玄葉氏は、2012年7月の訪ロに先立ち、森喜朗元首相と会談し、訪ロに向けてのアドバイスを受けるとともに、森氏は北方領土問題の交渉進展に向け、野田佳彦首相(当時)の特使としてロシアに派遣したいという政府の要請を受け入れた。森氏は、首相時代に北方領土問題に深く関わり、また、プーチン氏とも太いパイプを持つと言われる(拙稿参照:http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1858)。だが、結局民主党時代に、森氏の訪ロは実現しなかった。

 

だが、安倍首相は今年2月14日に森元首相と会談し、特使としてロシアを訪問するよう改めて正式に依頼し、森氏は2月20日に訪ロし、プーチン大統領とも会談した。プーチン氏は、森氏と行なったイルクーツクでの2001年の会談の際に出された、平和条約締結後に歯舞、色丹2島を引き渡すとした「日ソ共同宣言」の法的有効性を確認した「イルクーツク声明」に言及し、領土問題にきちんと取り組む姿勢があることを表明した。

 

その他、プーチン氏は、医薬、機械、木材加工などの経済分野の協力での成功に言及しつつ、農業分野、エネルギーや極東・東シベリア開発などでの日ロ間のさらなる経済協力の拡大に意欲を見せたと言われており、また、北朝鮮問題など安全保障問題についても議論がなされた。1時間45分におよんだ本会談は「首相訪ロの地ならし」と高く評価された。

 

こうして4月29日、安倍首相がロシアを訪問した。これは、小泉純一郎首相(当時)以来、10年ぶりの日本の首相の公式訪ロとなった。そしてプーチン大統領と3時間20分もの長時間にわたり会談を行い、共同声明を出すにいたったのである。

 

 

 

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