「子ども兵士」の背景と実情 ―― なぜ子どもが兵士になるのか

子ども兵士が生み出される背景―冷戦の終了と内戦の増加

 

90年代後半頃から、内戦下の子ども兵士の問題への関心が国際的に高まってきた。この時期は、おもにアフリカなどの発展途上国での内戦が頻発もしくは激化してきた頃と重なる。子ども兵士の問題は、冷戦後の世界情勢の変化と無関係ではない。

 

冷戦の終了により、米ソを盟主とする東西陣営に属する国家間の紛争の可能性は低くなった。しかしながらこのことは、東西どちらかの陣営に属してきた多くの発展途上国の国内の権力構造に影響を及ぼすこととなった。ポスト冷戦期に内戦が深刻化したアフリカ地域の文脈でいうと、冷戦期には内政不干渉の原則によって国内問題への干渉を受けることがなかった権力者たちは、東西どちらかの陣営に属することによって、「援助」という富を得、それをいわば「バラマキ」することで基盤を維持してきた。

 

しかし冷戦終了後、米ソなどの大国にとって、発展途上国を自陣営につなぎとめる戦略的動機は低下していく。これが援助減につながり、したがって権力者たちが配分する富のパイもまた縮小していくことになった。その結果、「バラマキ」の恩恵を受けられる層(例えば大統領の出自の民族集団や、出身地域といった血縁、地縁)から排除される層が出現するようになった。排除された層の中からはそのような権力者に反発する勢力が生まれていく。ただこの時点では、弱体化したとはいえども強大な権力者に抵抗しうる力は持てない。だが先進国が、援助と引き換えに権力者たちに民主化(複数政党制による選挙の実施)を要請するようになったことによって、反対勢力は「野党」という正統なステイタスを獲得するようになり、それを不当に弾圧することができなくなった権力者たちの力は相対的に弱まっていくこととなった。

 

このような流れと並行して、冷戦後の旧ソ連、東欧の社会主義諸国は、国内経済を再建する必要に迫られ、過度に必要ではなくなった通常兵器、小型武器を売却するようになり、それらが武器商人などの手を通じて発展途上国の反政府勢力に流れていくようになった。反政府勢力の資金源はさまざまだが、よく知られているのは鉱物資源の売却益である。シエラレオネ内戦では革命統一戦線(Revolutionary United Front)がダイヤモンドを、現在も続くコンゴ内戦では武装勢力がパソコンや携帯電話のコンデンサーに使うレアメタル「タンタル」を住民に採掘させ、それを資金源としている。このように先進国の消費や利便性が、アフリカの紛争と関わっていることを忘れてはならない。

 

このような背景でポスト冷戦期の武力紛争は、国家主体(政府、正規軍)と非国家主体(反政府武装勢力、ゲリラ組織など)の間で争われるものとなっていった。国内で紛争が行われるということは、暴力が一般大衆にとっても身近のものになるということであり、生活圏が戦場となることを意味する。そこでは成人男子だけでなく、女性そして子どもたちもまた暴力に巻き込まれていき、暴力の犠牲者としてだけではなく、正規軍や武装集団の動員の対象ともなるのである。

 

そして子どもでも兵士として戦力になりうるのは、上述の小型武器の流入である。とりわけ有名なのが自動小銃AK47(カラシニコフ)である。この銃は軽量であり、部品数が少ないため分解、整備が容易である。つまり子どもでも十分使用が可能であり、このこともまた、子どもを兵士として動員しうる背景となった。

 

 

なぜ子どもが兵士になるのか

 

子どもを兵士として動員可能とする社会情勢の変化について説明したが、実際に子どもたちが兵士になっていくことには、武装勢力のような動員する側と、動員される子どもたちとの双方に事情がある。

 

まず、武装勢力らが子どもを軍事的活動に動員する動機付け、あるいは子ども兵士に期待する役割とは何なのだろうか?

 

第一に、戦闘における成年兵力の温存機能である。戦闘に際し、子ども兵士を「特攻隊」さながらに敵兵に突撃させ、戦況を有利にすることができる。戦闘以外には、地雷処理に子ども兵士を使用する場合がある。これは地雷が埋設されているとされる地帯を部隊が通過する場合、子ども兵士たちに地雷原を歩かせるものである。当然、地雷を踏んだら爆発し、子ども兵士は負傷もしくは死亡する。そうやって「地雷除去」をした道を、部隊が移動していくのである。

 

第二に、運搬のような兵站機能の補完の機能である。部隊が移動する際などの荷運びに子ども兵士が使われるケースがある。国際機関などに保護された子ども兵士の中には苦役によって身体に異常をきたしている者も少なくない。

 

第三に、情報収集機能である。偵察やスパイ活動に子ども兵士を使う場合がある。子どもたちは体が小さくて見つかりにくいことや、子どもだということで怪しまれないですむことで、使いやすいのである。

 

第四に、成年兵士の性欲処理機能である。子ども兵士として動員されるのは少年だけでなく、少女も含まれる。彼女たちは上述の任務のほか、武装勢力の成年男子の「妻」ないし「従軍慰安婦」としての役割を担うのである。

 

このような事情を満たす上で、武装勢力は、必要になれば村を襲撃して子どもをさらったり、都市部にいる孤児やストリートチルドレンをリクルートしたりすることによって子ども兵士を「調達」する。調達や使用にあたってはコストがほとんどかからない(粗末な食事を出すだけで給料を払う必要がない)。そして子どもたちは洗脳しやすいこともある。暴力によって恐怖を植え付けて服従させるようにしたり、麻薬やガンパウダー(銃弾の中の火薬。幻覚作用をともなう成分が含まれているものがある)によって思考能力や戦闘の恐怖を失わせたりすることもある。

 

つまり、動員する側に取って子ども兵士は、調達が容易で取り換えがききやすく、使いやすい「道具」なのである。

 

一方で、子どもの側の事情もある。それは子どもたちが置かれている環境と無関係ではない。上述したように、子どもが兵士として動員される経緯に、誘拐されるというものがある。2000年代のウガンダ北部の反政府勢力「神の抵抗軍(Lord Resistance Army)」が村を襲って子どもを兵士にしてきたことはよく知られている。しかしこれは動員に至る経緯の一側面に過ぎない。紛争や災害、またはエイズといったさまざまな理由から、親や親類を失って孤児となった子どもが、何とか食べていくために武装勢力に自発的に合流するというケースもある。

 

ポスト冷戦期の国内紛争はアフリカなどの途上国で繰り広げられてきたが、そのような国々のとりわけ周縁部の農村などでは、子どもを保護する福祉政策が行き届かない場合も多い。そうなると、武装集団に合流することがセーフティネットになるという現実がある。またそういった国々では、貧困等が理由でストリートチルドレンになる子どもも多く、その中には、街で人々に煙たがられたり、警察に追い回されたりするのに比べれば、銃を手にして戦うことは「かっこいい」ことで、戦功をあげれば評価されて昇進することもある(成年兵士を統率する子ども兵士もいる)のも魅力である。このような「暴力の持つ誘惑」も、子どもが武装集団に流れていく大きな要因なのである。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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