「子ども兵士」の背景と実情 ―― なぜ子どもが兵士になるのか

ある元・子ども兵士の物語

 

90年代後半2000年代初めのアフリカの紛争の場合、一国の紛争が隣国の新たな紛争の火種になるケースが多くあった。難民流出等の大量の人口移動、武器などの物資の移動、武装集団が越境してそこを拠点とする等の現象が起こるからである。

 

その過程で子どもが動員される場合もある。筆者がルワンダで会った元・子ども兵士(2006年当時、13歳)は、1994年のルワンダのジェノサイドの後に難民としてコンゴに行った子どもで、コンゴ人武装組織に徴兵され、コンゴで2年間(2001 – 2003年、8歳から10歳)、従軍した経験を持っていた。彼は家族がいなかったから兵になったとのことである。

 

 

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彼は部隊では、肌に塗る弾除けの薬(アフリカの伝統信仰に基づくもので、体に塗れば銃弾が当たらないとされる)を運ぶ役割をしていた。従軍中は、アルコールを飲み、マリファナに似たドラッグも摂取していた。家族がいないことが悲しかったから、それを考えないために飲んでいたとのことである。彼は自発的に除隊したわけではなく、 コンゴに展開する国連PKOに保護され、ルワンダ政府の機関である「除隊・社会復帰委員会(Rwanda Demobilization and Re-integration Commission:RDRC)」が運営するリハビリ施設に移送された。

 

しかし彼は、「除隊しても家族がいないから、本当は辞めたくなかった。帰るところがないことが分かっていたから」と語っていた。物心ついたときから武装集団に属していた彼にとっては、そこにいた仲間こそが家族であり、除隊して保護されるということはその「家族」から引き離されることだったのかもしれない。

 

 

子ども兵士の社会復帰への課題

 

このルワンダの元・子ども兵士のように保護されたり、部隊を脱走したりすることで子ども兵士ではなくなった子どもたちが社会復帰するためにはどのような課題があるのだろうか?

 

多くの子どもたちは子ども兵士として従軍している間に、心身ともに深刻な影響を受けている。肉体的な面では、戦闘中の負傷により通常生活が困難になることや、成長期に十分な栄養を取れなかったことによる身体的成長の遅れ、アルコールや麻薬などによる中毒症状があげられる。ウガンダの北部紛争のケースでは、元・子ども兵士は保護された後、数か月間を国際NGOや現地NGOが運営するリハビリ施設で過ごしていた。そこで治療を受けたり、栄養を取って健康を回復する。このようなリハビリ施設では、同時に読み書きや計算などの教育も施す。幼少時から長期間にわたって従軍をしていた元・子ども兵士たちの中には、そのような基礎教育すら受けることができなかった者もいる。これも社会復帰のためのトレーニングなのだ。

 

一方で、元・子ども兵士の多くが軍隊生活や戦場体験を経て、精神面でも深刻な影響を受ける。保護された元・子ども兵士は感情をコントロールすることができなくなった者が多く、何かの拍子に逆上して暴力を振るうことなどがある。例えばリハビリ施設の元・子ども兵士同士でどちらが戦場で勇敢に戦ったかで言い合いになり、相手が動けなるくらいまで暴力を振るってしまうようなことがある。また、戦場での凄惨な体験がトラウマになり、保護された後も毎夜、戦場の夢を見てうなされる子どもも多く、リハビリ施設ではトラウマ・カウンセリングを施すなどのケアが行われる。そこでの心理療法で、子供たちに自由に絵を描かせるというのがあるのだが、ほとんどの子どもが戦場で経験したことを描いている。それだけ深く子どもたちの心に暴力が刻み込まれているのである。

 

 

ルワンダの政府機関RDRCが運営する元・子ども兵士のリハビリ施設。歌や踊りをリハビリに取り入れている様子。2006年撮影。(撮影 小峯茂嗣)

ルワンダの政府機関RDRCが運営する元・子ども兵士のリハビリ施設。歌や踊りをリハビリに取り入れている様子。2006年撮影。(撮影 小峯茂嗣)

 

 

元・子ども兵士は数か月のリハビリの後、施設を出て地域社会に戻っていくことになり、もっぱら出身地の村にいる親や、親がいない場合は親類などに引き取ってもらうことになる。しかしすべてのコミュニティがそのような子どもたちを快く受け入れてくれるわけではない。兵士だった子どもの不安定な精神状態や凶暴性、殺人を犯してきたという過去により、そのような子どもを受け入れることに躊躇、あるいは拒絶することも少なくない。

 

ウガンダ北部紛争などの例では、武装集団が村を襲って子どもを拉致する際に、その子どもに村人を殺させるということがあった。その子どもが村の人間に恨まれて帰れないようにし、武装集団とともに生きるしかないようにするためである。また女子の場合は、従軍中に性的虐待を受けてHIVなどの性病に感染したり、過去にレイプされたことなどが理由で社会から拒絶されるというケースもある。元・子ども兵士の社会復帰を支援する政府機関やNGOは、子どもたちがリハビリ施設を出て地域社会で暮らすようになってからも、子どもたちへの継続的なサポートや、地域社会の理解を促すような取り組みが必要とされるのである。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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