12億人の民主主義――政権交代の可能性が注目されるインド総選挙の見取り図

おもな争点はなにか――マニフェストに見る会議派とBJPの違い

 

次に、今回の総選挙の争点に眼を転じたい。与党の国民会議派は政権を維持してなにを達成しようと国民に約束しているのか。一方、BJPは政権を奪還してなにを変えようとしているのか。ここでは、両党が選挙マニフェストで示した政策の比較を通じ、争点を明らかにしたい。

 

 

国民会議派とBJPの選挙マニフェスト

国民会議派とBJPの選挙マニフェスト

 

 

経済再生が最大の争点であることは衆目の一致するところである。会議派もBJPも経済を最優先課題として、マニフェストで多くのページを割いている。貧困層から脱却した新たな中間層を主要なターゲットにしているのも両党の共通点である。

 

異なるのは、成長実現のための方法だ。会議派は、「3年以内に経済成長率8%以上を実現」を掲げ、新政権発足後100日以内に1億人の新規雇用創出に向けた計画の策定や税制改革、財政赤字対策に着手するとしている。また、医療分野への財政支出増をはじめとする社会保障分野での取り組みを強化し、社会全体の底上げを図っていくとのアプローチが示されていることも同党の特徴と言える。

 

一方、BJPは成長率に関する具体的な数値目標は示さず、ガバナンスの向上や物価高騰への対策、産業振興、インフラ整備、都市化の推進といった制度の基盤強化を通じ経済活動を活発化させていくというアプローチである。同党も社会福祉に対する取り組みにも言及してはいるが、例えば貧困対策で「極度の貧困層」を主要な対象とするなど、結果平等よりは機会平等を優先する姿勢が見受けられる。

 

両党が見解を異にする政策課題のひとつが、外国直接投資(FDI)をめぐる政策だ。両党ともFDIを歓迎する立場は一致しているが、複数のブランドを扱う総合小売業(Multi-brand retail. 米ウォルマートや仏カルフールのような大型小売店が代表例)を対象とすることについては、会議派が賛成(2012年に政府として解禁を決定)であるのに対し、BJPは「FDI受入の対象外」との姿勢をとっている。

 

総合小売業におけるFDI解禁は、国内では減少傾向にある外国からの投資を上昇に転じさせる起爆剤として、海外からはインド市場における進出拡大の突破口として関心が高い一方で、国内小売業保護の観点から根強い反対論がある。有力地域政党には総合小売業へのFDI解禁に慎重な姿勢の党が多いことから、BJPは選挙後に他党との連立工作が必要になった場合のことを念頭に置いて足並みを揃えた可能性もある。なお、首相候補のモディ氏は経済紙エコノミック・タイムズとのインタビューで「投資家の感情に配慮するようコミットしていく」と述べており、政権に就いた際の対応に含みを残している[*2]。

 

外交政策は選挙の争点になりにくいこともあり、両党とも多くのページを割いておらず、全体のなかでの比重は必ずしも高くないが、両党の姿勢の違いが現れている。会議派は穏当で、ある意味では当たり障りのない書きぶりに終始している。これに対しBJPは、大国の利益ではなく自らの利益に基づいた積極的な対外関係を構築するとしたほか、近隣国との間でも友好的な関係を追求していくとしつつも「必要なら断固とした措置をとることをためらわない」とし、自立的・能動的な外交を進めていくとの考えが表明されている。なお、BJPは核ドクトリンの見直しにも言及しており、これが従来の「核兵器の先行不使用」政策の変更を意味するのではないかと議論を呼んだ。これについては、党総裁が同政策を改めるつもりはないと述べたことでひとまず沈静化している。

 

[*2] “Narendra Modi Interview: Ready to work with Congress; on FDI, policy continuity top priority”, The Economic Times,  April 22, 2014.  http://articles.economictimes.indiatimes.com/2014-04-22/news/49318830_1_fdi-policy-continuity-upa-government

 

 

起こりうるシナリオ――結びにかえて

 

最後に、今回の総選挙で起こりうる3つのシナリオを示すことで、本稿の結びとしたい。第1のシナリオがもっとも可能性が高く、第2、第3の順番で可能性は低くなると見られる。また、第2、第3のシナリオでは、いずれの勢力も過半数を制さない「ハング・パーラメント」となり、その下で成立する政権は必然的に不安定なものとならざるをえない。

 

第1のシナリオは、BJPが200議席前後を獲得して第1党となり、同党が率いる政党連合NDAによる政権が発足するというものだ。NDAだけで過半数を超えるか、過半数に到達しなくても不足分が1、2の地域政党との連立ないし閣外協力でクリアできる程度であれば、BJP首相候補のモディ氏が新政権の首班となる。しかし、NDAが最大勢力となっても過半数まで大きな開きがあり、自陣営以外で複数の政党からの支持取り付けが必要となる場合は、より受け容れられやすい代替首相候補が登場する可能性もある。

 

第2のシナリオは、BJPが第1党になるものの、会議派も事前の予測ほどには議席を減らさず、両党の勢力が拮抗するケースだ。この場合、双方に政権を構築する可能性が生じるが、2004年総選挙後に左派政党からの閣外協力を得て政権を発足させたこともある会議派が、より多くの連立パートナーを得やすいという点でBJPと較べ有利になる。首相ポストにはラーフル・ガンディー会議派副総裁が就任するだろう。

 

第3に考えられるのは、会議派もBJPも議席が伸び悩み、その一方で各州の地域政党が躍進するというシナリオだ。左派政党や地域政党が結集する「第三勢力」が主体の政権構築に向けた動きが出てくると見られるが、同勢力単独で過半数に達することは困難と見られることから、会議派が閣外協力に応じるか否かが決め手となる。また、各党が首相の人選で一致できるかという課題もクリアする必要がある。

 

今回の総選挙の開票は、5月16日に行われる。前回総選挙の例に照らせば、同日深夜か、遅くとも翌日未明には大勢が判明する見通しだ。

 

 

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