メキシコ麻薬マフィアの世界――『メキシコ麻薬戦争』を読む

ナルコ・カルチャーでさらに興味深いのが、麻薬カルテルの人達が永眠しているナルコ墓地です。クリアカン市郊外のウマヤ庭園墓地には、大理石造りの礼拝堂付きの巨大な墓が、豪華さを競い合うように建ち並んでいます。

 

ここに眠るのは、大物マフィアから中小のその道の人たちまで、大部分がその関係の人たちです。ビニール製の故人の写真入りポスターを飾った墓地も多い。大部分が働き盛りの男性の墓です。いかに残された家族が多いか想像できると思います。

 

 

(写真:ナルコ墓地)

(写真:ナルコ墓地)

(写真:ナルコ墓地)

(写真:ナルコ墓地)

 

 

麻薬戦争の最大の犠牲者は子どもたちです。麻薬関連の抗争に親が巻き込まれ、親を亡くした子どもたちがたくさんいます。これらの犠牲者には平均して3人の子どもがいると言われています。なかには親が殺害される現場に居合わせてしまった子もいます。しかし、心理的なカウンセリングや生活の援助もありません。子ども自身が犯罪組織にリクルートされて、殺し屋になることもあります。

 

そういった暴力の連鎖をなくしていくには何ができるのでしょうか。まずは警察などの構造的な改革をするべきですが、なかなか難しい。メキシコは路上の物売りをはじめインフォーマルセクターで働く人々の割合が高く、経済の重要な柱になっている。それを見逃す立場にある警察や公務員には賄賂が入り込みやすいのです。

 

最近注目を浴びているのが、麻薬の合法化論争です。実際に流通しているのであれば、むしろ合法化した方がいいという議論が出ています。

 

アメリカでも2012年にコロラドとワシントンの二つの州でマリワナの販売・使用が合法化されています。去年の12月にはウルグアイで、世界で初めて、マリワナの使用だけでなく栽培から販売までが合法化されました。購入できるのは、使用者として登録した18歳以上のウルグアイ国民ないしは居住者で、許可を受けた薬局で購入できるとしています。

 

合法化して国が管理することで、闇で取引されるよりもマリワナの価格は低下しますので、犯罪組織の大きな収入が失われ、犯罪組織の勢力を奪うことができるという考え方です。

 

メキシコのビセンテ・フォックス元大統領は、いまは農場主ですが、「自分の農場でマリワアナを栽培する用意がある」と述べ、また元マイクロソフト社幹部のジャメン・シブリー氏はマリワナでスターバックスのようなブランドをつくりたいと発言しています。人道的な見地からも、現実に対応した決断が迫られているといえます。

 

 

歴史を紐解くと

 

太田 ありがとうございます。今の山本さんのお話と『メキシコ麻薬戦争』について踏まえながら、ぼくの方からも問題提起したいと思います。

 

『メキシコ麻薬戦争』では、悲劇的な話がたくさん取り上げられています。しかしこれは、20世紀末から21世紀初頭にかけてのメキシコだけが生んだ特殊な話ではありません。

 

ぼくが、『メキシコ麻薬戦争』を読んで興味深いと感じたのは、シナロア州で麻薬の栽培が非常に盛んになった歴史を紐解くと、19世紀半ばのアヘン戦争と関係があるという記述です。

 

アヘンが民衆に害を及ぼすと禁止令を出した清王朝と、インドからアヘンを密輸入させていたイギリスとが対立したものです。戦争を機に、当時から膨大な人口を抱えていた中国では、人口流出がおこります。大量の中国人がメキシコにも移住しました。そして、中国で栽培していたケシの種子をもって来たため、シナロア州の山岳部でケシの栽培がはじまったわけです。

 

それが今や、メキシコ北部の地場産業となっています。その時代のグローバル経済の在り方が影響を及ぼしているわけです。大きな戦争があり、地域から人が離れて暮らさなければいけなくなった時に、どのように物と人が動くのか。ある地域の経済社会を動かしてしまうような事態も起こり得る。そのことを作者は説明しているのだと思います。

 

今、ソマリアに海賊が出ていると話題になっています。ですが、17世紀から18世紀にかけてのカリブ海の歴史を考えれば、スペインが一律支配していたカリブ海の利権を求めて、後発のフランスやイギリスが海賊に免許状を与えて国家として海賊をさせていたわけです。そうやって、経済的利権を勝ち得ていったわけですね。

 

麻薬を通した他国支配や、海賊行為による他地域への侵入というのは、いま「先進国」としてふるまっている国が近代史の中で展開してきてきたことです。決して、現在のメキシコだけの問題ではないという視点から、問題を拡張して捉える必要があるでしょう。

 

また、なぜ麻薬組織が、市民に受け入れられて来たのかも考える必要があります。麻薬組織は、残虐な行為をする一方で、儲けたお金で病院を建てたり学校を建てたりして、義賊的な振る舞いをするわけです。それは偽善的かもしれませんが、貧しい人間にとっては、中央政府よりもずっと頼りになるわけです。そうやって、麻薬カルテルの基盤が盤石なものになっていく側面もあるのです。

 

ですので、単純に麻薬に転化し得る植物の栽培をやめさせようと働きかけるだけでは、全く効果がありません。結局、アメリカ社会で大量消費されているからこそ、そこに近いメキシコが、麻薬流通の一大根拠地になっているのです。需要があるから供給するという市場原理を唯一神にして世界を支配しているシステムの信奉者たちが、麻薬だけを例外にしようとしても無理です。相互に働き掛けあっているグローバル経済の中で、この状況が生まれてきていることに注目すべきだと思います。

 

(現代企画室『メキシコ麻薬戦争』出版記念 「メキシコ麻薬マフィアの世界」より一部を抄録)

 

本稿はα-synodos vol.149からの転載です。ご購読はこちら → https://synodos.jp/a-synodos

 

 

 

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