覆されたインド政治の常識――与野党逆転を果たしたモディBJP政権の展望

モディ政権を取り巻く課題は何か

 

新政権の最大の課題は経済再生であることは疑いがない。モディ首相は選挙期間中から、会議派主導のUPA政権下での経済停滞を厳しい批判を加えてきたし、有権者がBJPに投票した要因も経済に関する期待が占める部分が大きい。

 

外国からの投資減少やインフレの高止まり、ルピー下落、そして成長率の低下と、モディ政権が前政権から引き継いだ経済の現状は厳しく、容易に対処できるものではないが、ここで成果を出せるか否かで政権の真価を問われることになる。ここでは個別の課題には立ち入ることはしないが、モディ首相がいかなるアプローチで取り組んでいくのかについて考察を加えたい。

 

モディ首相にとって幸いなのは、総選挙大勝の結果、安定政権のもとで政策遂行に取り組んでいけるという点である。BJPはUPA政権を「政策決定が麻痺している」と批判してきたが、その大きな要因は先述したように、会議派単独では政権を維持できず、他党に協力を仰ぐ必要があったためで、連立与党内の調整に多大なエネルギーを費やさざるを得ないなど困難な政権運営を強いられたことにあった。

 

その点、モディ新政権は、1984年のラジーヴ・ガンディー政権以来初となる、議会に単独過半数の勢力を有した上で成立した政権である(1991~96年のナラシムハ・ラーオ政権も会議派単独政権だったが、議会における勢力は半数を下回っていた)。仮に政党連合・国民民主連合(NDA)に参加する他党が方針の違い等何らかの理由で離脱することになっても、BJP単独で政権を維持することは最低限可能である。経済立て直しは短期的な取り組みだけで実現できるものではないことからも、新政権が5年の任期をフル活用できる環境がもたらされた点は大きい。

 

モディ首相が掲げる方針の中心にあるのが「ガバナンス」である。今回の総選挙におけるBJPのマニフェストにはモディ首相の意向が随所に反映されていると見られており、そこでもガバナンスの向上に力点が置かれている。なかでも、中央と各州の関係を調整する「チーム・インディア」構想、電子化や合理化による行政の簡素化及び効率化、司法・警察改革等が目を引く。

 

また、モディ首相は就任直前に、「最小の政府で、最大のガバナンスを」のスローガンのもと、行政機構再編を視野に入れ、関係する部門を一人の閣僚に兼任させるとの方針を発表した。実際に、道路交通省と船舶省、電力省・石炭省・新エネルギー及び再生エネルギー省といった部門はそれぞれ一人の閣僚が兼任している。その結果、閣僚数は前政権の78人から45人に減り、コンパクトな態勢となった。さらに、モディ首相は2回目の閣議で、政権発足から100日間で取り組む行動計画の策定を閣僚に求めるとともに、公共サービスの効率的な提供やプログラムの速やかな実施についても指示を出すなど、現状の改善に早速取り組んでいる。

 

また、物理的なインフラ整備もモディ首相とBJPが重視する分野である。高速道路網や主要都市をつなぐ産業回廊構想の推進、低コストでの住宅供給、100の新都市建設、電気・水・ガスといったライフラインの改善が具体例として挙げられている。

 

ガバナンスの向上と合わせ、こうした重点項目を通じてモディ首相が意図しているのは「成長を生み出すための環境の整備」であり、その背景には政府は経済や社会に過度に介入するべきではなく、潜在力を十二分に発揮させるためのバックアップに徹するべきとの理念があると考えられる。また、モディ首相自身はグジャラート州首相に就任する前までは、BJPの州支部及び中央の本部で組織部門の責任者を務めていた期間が長く、そうした経歴が組織の整備を重視する姿勢を育んだとの見方も可能である。

 

ただし、国民の支持を背景とした安定政権だからといって、モディ首相の政策が円滑に実現するとは限らない。官僚主義が根強いと言われる行政組織の効率化や統廃合を性急に進めようとすれば官僚側からの反発も予想される。中央と州の関係を協調させるといっても、BJP以外の政党が政権を握る州と利害が相反する場合、いかに対処していくかといった問題も生じかねない。

 

例えば、前政権期から積み残された課題で、BJPも導入に賛成の考えを示している物品サービス税(GST)の導入は州の歳入に直接関わるものであり、慎重に進めていく必要があるだろう。インフラやエネルギーといった省庁の統合も、行政に対する監視が行き届かなくなれば汚職の温床になる可能性も否定できず、前政権の轍を踏むことになりかねない。

 

 

モディ首相はイスラム教徒との融和を図れるか

 

宗教マイノリティ、とりわけイスラム教徒との融和を図ることができるかもモディ政権の姿勢に注目が集まる課題である。インドのイスラム教徒人口は1億3,800万人余りに達するものの、総人口に占める割合は13.4%にとどまっている(2001年国勢調査)。イスラム教徒の間では、BJP自体が「ヒンドゥー・ナショナリズム」を標榜する政党であることに加え、モディ首相に対しても州首相を務めていたグジャラートで2002年に大規模な暴動が発生した際、多数のイスラム教徒が殺害される事態を招いたとして、今なお警戒感が根強くある。

 

モディ首相は選挙戦でもイスラム教徒らへのアウトリーチを積極的に試みてきたほか、新内閣ではマイノリティ担当相にイスラム教徒で女性のヘプトゥッラー上院議員を起用するなど、一定の配慮を示してきた(ただし、イスラム教徒の閣僚は45人中同氏のみ)。しかし、選挙期間中にモディ首相側近の一人がウッタル・プラデーシュ州でヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立を煽るような発言をして物議を醸したことがあったことを踏まえれば、安定政権となったが故にマイノリティへの配慮が薄れ、より強硬な姿勢が色濃く反映されないとも限らない。

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2 3 4
シノドス国際社会動向研究所

vol.263 

・武井彩佳「ホロコーストを学びなおすための5冊」
・児玉聡「ピーター・シンガーの援助義務論」

・穂鷹知美「「どこから来ましたか」という質問はだめ?――ヨーロッパから学ぶ異文化間コミュニケーション」
・岩永理恵「生活保護と貧困」
・迫田さやか「挨拶をしよう」
・山口浩「自粛反対論と「戦士」の黄昏」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(7)――「シンクタンク2005年・日本」立ち上げ期」