教育は誰が統治しているんだろう?――教育を構造的に眺める

教育行政学のマニアックな面白さ

 

―― 先生が研究していて面白いと思う瞬間ってどんなときですか?

 

面白い瞬間……。予想通りの結果が出たときと、予想外の結果がなぜ出てきたのか考えて、説得的な理由が見つかったときですかね。

 

あと、教育行政学にはマニアックな面白さがあるんですよね。これは行政学も同じだと思うんですけど。とにかく法制度が複雑で、重箱の隅をつついていくようなところがあるんですよ。でも「神は細部に宿る」というか、そこに本質的に重要な発見があったりする。

 

例えばいま先生の長時間勤務が問題になっているんですけど、どうしてこんなことになっちゃうかというと、先生に残業手当が出ないせいなんですね。サラリーマンの残業手当のかわりになるような、教職調整額という制度はあるんですけど、月8時間しか出ないんですよ。でも先生は月に5、60時間くらい残業しています。すでに残業代ゼロ法案が通っちゃっているような状態になっているんですね。

 

 

―― 法制度を見ていくうちに「あっここに原因があった!」と発見できる面白さですね。

 

そうですね。

 

ちなみに以前、「高校生のための教養入門」で教育社会学の専門家として本田由紀さんがインタビューを受けていらっしゃいましたが、それを読んでびっくりしました(「どうなっているのか」と「どうすべきか」を一緒に考える 教育社会学者・本田由紀氏インタビュー)。本田先生は「どうなっているかとどうあるべきかを考えるんだよ」とお話になっていましたが、昔の教育社会学って「どうなっているか」だけを考えて、あとは他の教育学が考えるものだったんですよ。反対に教育行政学は「どうあるべきか」を考えてきたのが、最近は「どうあるのか」も分析するようになっている。教育行政学と教育社会学が近づいてきているんですね。

 

とはいえもちろん違いはあります。教育社会学の場合は、社会との関係を重視する。教育行政学は法律や制度をじっくり見る。法制度を知っていることで見えてくるものがある、というのが面白さだと思います。それぞれ好みや関心の方向で選ぶといいと思います。

 

 

「どうしてこういう人が先生になるのか」

 

―― 教育行政学は教育学部に行けば勉強できますか?

 

教育学部のない学校だったら、教職課程の中に「教育制度論」といった授業があるので、それを履修するといいと思います。でも、教育社会学か教育行政学のどちらか一方を選択すればいいので、教育社会学の先生がいる大学だと、教育行政学はなかなか勉強できません。いまは、教育行政学の先生の方が多い気はしますが……。

 

専門でやるならやはり東京大学、京都大学、東北大学、九州大学、北海道大学、大阪大学、名古屋大学などの旧帝大や、戦前からの教員養成の伝統がある筑波大学、広島大学あたりが比較的科目が整備されていると思います。私大となると、かなり限られちゃいます。

 

 

―― 教育行政学を勉強しておくとどんなときに役に立つと思いますか?

 

教育って、つい先生とか学校とか現場だけをみがちで、すぐに「先生が悪い!」と思ってしまうんですけど、教育行政学のように法律や制度、政策から眺めると、もっと広い視点で教育を考えることができるんですね。

 

ですから、大人になって教育現場での事件や事故に関わるようなとき、学校をただ叩くだけでなく、目線を変えて、なぜこのような事件・事故が起きたのかを考えられる。こういう視点は、現場のある他の領域にも応用できると思います。それこそ……就職して営業としてある売れない商品を売り込まなくてはいけなくなったときに、商品のできが悪いのではなくて、それを取り巻く何らかの制度に問題があることに気付けるかもしれない。その穴をついて、うまく売ることだってできるかもしれないですよね。

 

 

―― 教育行政学はどんな高校生にオススメですか?

 

教育は思いが先に行きがちです。だからちょっと引いて物事を見られるひとにはぴったりだと思います。でも高校生だったら、むしろ思いの強さで大学に入って、勉強するにつれて少しずつ距離の置き方を身につけるほうがいいかもしれませんね。

 

教育学部の学生は、先生になりたい人か、教育へのうらみつらみをかけている人が多いです。前者は先生になってしまうので、研究者向けなのは後者かなあ。……でも、まあ僕みたいに高校生で教育行政学に興味を持つなんて、変態だと思いますけど(笑)。

 

とにかく、「先生が悪い!」といった属人的な視点じゃなくて、「どうしてこういう人が先生になるのか」という構造的な視点で物事を考えられる人は、教育行政学はぴったりかもしれませんね。

 

 

―― 最後に、高校生にメッセージをお願いします!

 

教育行政学に関係ないことですが、高校の勉強はしっかりやっておいた方がいいです(笑)。社会に出ると、高校までの勉強は当たり前に習得していると考えられます。例えば営業から統計分析の部署にまわされたら、微分や積分は理解しているという前提で仕事がくる。英語も、「じゃあこれ翻訳しておいてね」と頼まれたりするんです。

 

「こいつなに説教してんだ」って思われちゃうかな(笑)。まあ高校生もたいへんで、全部の教科をまんべんなく勉強するのは難しいと思いますが、あとで痛い目をみるかもしれないことは覚悟したうえで、どの科目を勉強するか考えたほうがいいと思います。

 

あとは同じコーナーで浅羽祐樹さんがお話になっていましたが、比較することの大切さは高校生のうちに知っておくといいと思います(比べてみないと、相手も自分も、分からない――物差し同士も照らし合わせて 比較政治学者・浅羽祐樹氏インタビュー)。教育行政学にしても、教育が特殊で、他のものと比べられないものだと思わないほうがいい。比較ってなかなか難しそうですけど、意外とできるものなんです。ビフォー・アフターでわけたり、外国と比較したり。中身を細かくわけてみたり、あるいはもっと大きなカテゴリーのなかで比べてみたり。そういう考え方は、これから社会に出ていく上で、とても大切なものだと思います。

 

 

教育行政学がわかる! 高校生のための3冊

 

 

教育行政学に関する本ではないですが、単に政策や行政を学ぶだけでなく、それを分析する、研究するということはどういうことなのかを理解するうえでおすすめの1冊です。この本を読めば、高校までの「勉強」と大学での「研究」の違いがよく分かります。また、「比較」をどのように行うかについても分かりやすく述べています。

 

同じコーナーの浅羽祐樹さんが挙げていた『原因を推論する』も合わせて読むと、「比較」することの意義がより深く理解できると思います。

 

 

 

この本では最近の教育行政・政策はどう変わってきていて、なぜそのような変化が生じているのか、また教育と政治の関係はどのようになっているのかについて論じています。教育行政学とはどのような学問分野なのかを知るきっかけとして良い本です。初学者には少々複雑な制度が色々出てきますが、それゆえに教育行政学の面白さ・難しさがあらわれている本です。

 

 

 

教育学は様々な分野があり、その全体像をつかむことは専門の研究者でも難しいのですが、この教科書では教育の哲学・思想、学習・授業の過程、教育と社会の関係、教育制度など教育学の様々なトピックを取り上げています。教育学が何を扱っているのか、大学の教育学ではどのようなことを学ぶのか、そのあらましを理解するのに役立ちます。

 

 

 

この本は政治学の教科書ですが、制度はなぜ重要なのか、制度は具体的にどのような影響を社会や人間に与えているのかを、具体的な政治制度と国際比較を用いながら議論しています。「比較」と「制度」の大切さを伝えている点で、教育行政学とも共通する関心があります。『政策リサーチ入門』と同様、政治学だけでなく社会科学を学びたい人に幅広く読んでもらいたい本です。

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

・川口俊明「全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点」
・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
・大賀祐樹「懐疑的で楽観的な哲学――プラグマティズム」
・平井和也「世界の知性は新型コロナウイルスをどう見ているのか」
・川名晋史「誰が、なぜ、どこに基地を隠したか」
・石川義正「「空洞」の消滅──現代日本「動物」文学案内(4)」